リリィとルドルフ連れて遊びにいこう
「アムド、面会だ。分かっていると思うが、面会は防音室で行う。またお前が何かひとつでも呪文を唱える素振りをみせれば、即刻面会は中止とするからな。」
アムドは係官に向き直る。やれやれ、煩いやつだ。ここでへまをして、懲役が伸びるような、間抜けなことはしない。アムドは係官に礼儀正しくおじぎする。
「もちろん、存じております。それで、面会の相手はどなたでしょう?」
係官はその言葉を聞いて満足そうに答える。
「驚くなよ?かの有名な英雄オーディーン殿だ。今回冒険者ギルドからの依頼を受けて、事情を聞くため、お前に面会に来たらしい。くれぐれも粗相のないようにな。」
何だと?オーディーンが俺に何の用だ?まさか、あの時攻め込んできた連中の仲間なのか?だとしたら、非常に厄介な事になる。ここは慎重に相手の様子を伺おう。もし不振な素振りがあるようなら、教祖ジャーク様に連絡せねばなるまい。方法はいくらでもある。一番手っ取り早いのは賄賂を渡しての買収工作だが、手紙に暗号を仕込んで、係官に渡しても良い。教祖様とは非常事態に備えて、暗号化と暗号解凍化の手段を取り決めしてある。よほど観察力のあるものでないかぎり、まず見破られる事はあるまい。
「これはこれは。オーディーン殿にお会い出来るとは光栄にございます。ところで・・天下の英雄様がこのようなところに何用ですかな。」
「うむ。実は冒険者ギルドで依頼を受けてな。」
冒険者ギルドだと?もしかして教団の犠牲となった家族の者が訴えでも起こしたというのか?
「さて、皆目検討がつきませんが、どのような依頼なのか教えていただく事は可能なのですかな?」
「うむ。おまえが冤罪で捕まっており、陥れた者の正体を知りたいという依頼だ。依頼主はおそらく偽名を使っている。何か心当たりはあるか?」
アムドは今のオーディーンの発言でおおよそのことを理解した。教祖ジャーク様がおそらく仕掛けを打ったのだろう。目的は教団のエルドォワ支部を葬った連中の正体をあばくといったところか。
ならば、ここは便乗し・・いや、それはあまりいい手とは言えない。下手に冤罪であると主張したとしても、騎士団に保護された大勢の強制労働者たちの証言を覆すのは困難だろう。ならば、教祖様の思惑通りに、エルドォワ支部を攻撃してきた連中の正体を暴く手伝いをしてやろうか?いや、それよりももっといい手がある。教祖様の意には反する事になるが、うまくすればオーディーンを教団の手駒に加える事ができるかもしれない。そうなれば、教団の目指す”革命”も一気に成功率が上がろうというもの・・
「私は確かに大勢の強制労働者たちに無理強いして、神殿を作らせました。その事実に変わりはございません。ですから、こうして懲役に務めているのです。正式な裁判は後日行われますが、おおよそ刑も決まっている事でしょう。それより、お願いがございます。どうかここまでして、神殿を建てた本当の理由について、ご理解いただきたいのです。」
「どういうことだ?冤罪ではないというのであれば、俺はお前を投獄させた本人を突き止め、ギルドに報告書を出せば、今回の依頼は終わりなのだが。」
「理由をお知りになれば、その投獄させた人物もだれか自然とお分かりになるかと。どうです?知りたくはありませんか?」
オーディーンはしばし、逡巡する。だが、それも短い時間だった。すぐにアムドに向き直り、続きを促す。アムドはその様子に満足し話を続ける。
「実はですね。神殿を建てた本当の理由。それはエルドォワ王からの直々の命令を頂いていたからなのです。」
係官がこちらを見てくる。王に不利な証言でもすれば、すぐに面会は終わりにされてしまうだろう。だが、その行動自体が使える・・
「王は仰せられました。我が国の力をもっと他国に知らしめてこそ、我が国の繁栄がある。そのためには、見る者を圧倒するようなシンボルが必要になるであろうと。そして、その作業を私どもの教団に一任されました。出来るだけ派手に、しかも多くの労働力を使ってみせたのも、それが王の力の一旦を示すためと思えばこそです。しかし、王は神殿がだんだん出来ていくに連れ、要求がどんどん高くなっていきました。高い品質に短い納期、普通に行っていては、とても王の要求を満たす事などで来ません。そこでやむなく、強制労働者を集め、神殿を建てる行為を行ってしまったのです。彼らの悲痛な叫びに胸を痛める事もありましたが、私にもどうすることも出来ませんでした。」
オーディーンは話を黙って聞く。係官の方はというと、何を言ってるんだこいつは、という目をしている。無理も無い。この話は全部デタラメなのだから。だが、それでいい。もっと係官の不信感を高めねば。
「私どもはそれでも、神殿を完成させるため、事を急いでおりました。しかし、急げば急ぐ程、強制労働者を多く集めねばなりません。そうして無理をさせているうちに、強制労働者の家族や仲間達からも、教団の活動に不信をいだく者たちが現れてきました。そして、とうとう誰がこんな神殿を建てさせているのか、はっきりさせろというデモが起きそうになったのです。デモが起きれば、神殿を建てさせた首謀者が分かってしまう。ここまで言えば、お分かりでしょう。そう、首謀者・・王が強制労働者を強いる原因を作っているということを隠蔽するため、王自らが手駒の兵士達を用いて、私達だけを悪者にし、騒動を起こさせ、私を捕らえたのです。」
係官がついに、アムドを怒鳴りつける。
「さっきから、何を言ってるんだ、貴様は!エルドォワ王がそんなことをするわけないだろう。面会は終わりだ。オーディーン殿。わざわざ、このような場所に足をお運びいただいたのに申し訳ないが、この場はお引き取りください。」
オーディーンは係官とアムドを見比べ、しばらく間をおいて去っていく。アムドは係官に強制的に牢獄に戻される。だが、内心ほくそえんでいた。思惑通りだ・・あのタイミングで面会を強制的に終わらせてくれる。これが、重要なのだ。
真実を知ってる者がさっきの会話を聞けば茶番でしかない。だが、オーディーンの立場から見た場合、あの光景はどのように目に映るだろう?俺は自分の罪を受け入れたうえで、オーディーンの言いつけに従って、事のあらましを話した。話の内容はデタラメだ。だがデタラメかどうかをオーディーンから見て判断がつくだろうか?しかも話の内容が、原因が王にあるという部分に差しかかったタイミングで、係官が一方的に話を打ち切る。係官が”聞かれちゃまずい事を隠蔽するため”に、面会を強制的に終わらせた。そう捉えることは十分に可能なはずだ。
もちろん、証拠も証言もないのだから、結局どちらが正しいかなんて分からない。だからこそ、オーディーンの中にはエルドォワ王を信じる気持ちと疑う気持ちが同居することになる。ここまでくれば、後は流れ作業だ。オーディーンの中に芽生えた王を疑う気持ちを強くすればいい。
人は人を信じる事よりも、疑うことの方がはるかに容易い。中には人を疑う事を賢いことだと考える輩もいる。もちろん、人の言葉を鵜呑みにするよりはましだが、人をただ疑う事は、人をただ信じる事と同じくらいに間抜けな事なのだ。オーディーンは歴戦の英雄だから、もちろん人並み以上の知恵はあろう。しかし、それでも人の子である事に変わりはない。さらに言えば、数々の修羅場をくぐり抜けてきた人物だからこそ、人を一度疑えば、確かな証拠がでるまでは、疑い続ける事を辞めないはず。そして今の話に確かな証拠など存在しようがない。
後はこのことを、なんとかして教祖様に伝え、さらにオーディーンのエルドォワ王への不信感を高めてあげればいい。上手くすれば、そんなエルドォワ王を玉座から引き摺り下ろす手伝いをしてくれるかもしれない。教祖様が、代わりに玉座に就くためには、それだけでは全然、不十分だが、それでも大きな一歩になることだろう。
「後はこのことを教祖様にどう伝えるかだが・・いや、それもこちらから行動する必要はあるまい。オーディーン自らが冒険者ギルドに、報告書という形で今の話を伝える事になる。依頼を出したのは教祖様なのだから、自然にお耳に入ろうというもの。さて、この作り話、どういう結果に結びついてくれるかな・・」
アムドは愉快そうに笑みを浮かべた後、牢獄の中で瞑想をはじめる。再びあたりに静けさが戻る。外から風が窓から牢獄内に吹き込んでくる。それはあたかもアムドの心の闇を表現しているような冷えた風だった・・
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「ねぇリア姉ちゃん、カシワお兄ちゃん。今日は街を案内してくれるって本当?」
結局、皆勢ぞろいで料理作りに参加し、動くのが面倒くさくなるぐらいまで食べ続けた後、ハンナさんの教会にミス研メンバー全員で泊まり込み一夜を過ごすことになった。本来教会であまりアルコールの持ち込みはいい顔をされないかと思ったが、ハンナさんはそういうことには肝要で、購入した酒の持ち込みも許可してくれた。もっともハンナさん自身は酒は自重していたが。カルロスやリッチマンは豪快ないびきをかいて、今もそこら辺に転がって寝ている。一応、ベッドは女性陣に譲って、野郎連中は床やソファーで寝る事にした。そして今日俺とリアは、リリィとルドルフに一緒に街に遊びにいく約束をしていた。
「もちろん。リリィちゃん、ルドルフ君、一番行ってみたいところって、どこかある?」
俺は二人に尋ねる。リリィちゃんは、元々エルフの森での生活が少し退屈になり、外の世界に憧れて、飛び出してきた。ルドルフ君はそんなリリィちゃんを連れ戻そうと、追いかけてきた。聖者の集いに誘拐され、悲惨な目に遭わされていた二人だが、エルフの森に返す前に、外の世界を少しでも案内してあげようと思ったのだ。リカルにもせっかくだから、一緒についてくるかと誘ったのだが、どうやら今日は学校の遠足らしい。自分も行きたかったとすごく残念そうな顔をしていた。また今度一緒に行けばいいさ。
「うんとねぇ・・リリィ、水が一杯あるところに行ってみたい。」
水?あ、そっか。エルフの森には海はもちろん、湖とかも多分無いんだろう。生活するのに水が全くないということはないだろうから、川か井戸ぐらいはあるんだろうが、あっても、水の中に入って遊べるというレベルのものではないのだろう。試しに聞いてみるか。
「リリィちゃんとルドルフ君の住んでる森には、湖とか大きい川とかはないの?」
「細い川ならあるよ。お魚さんも少しだけいるんだけど、あんまり大きくはないの。」
リリィちゃんに続き、ルドルフ君も追従する。
「そうだな。水遊びとか今までしたことないもんな。」
リアがその様子を聞き、それじゃあどこにしようかと考えて、二人に提案する。
「じゃあ、遊覧船にでも乗ってみる?エルドォワ波止場に行けば、乗れるはずよ。確か釣りとかも出来るって。」
「遊覧船ってなあに?」
「お船に乗って、街の周りをぐるって廻って、景色を楽しんだり、船によっては海の上で音楽を聴いたりもできるの。今日は天気もいいし気持ちいいわよ。どう、行ってみる?」
「うん、リリィ行きたい。」
「僕も遊覧船乗ってみたい。」
リリィもルドルフも両手を上げて、リリィの提案に賛成する。俺とリアはリリィとルドルフを連れて、遊覧船乗り場へと向かった。幸いな事にいつもに比べれば比較的空いている方だったが、それでも乗り場には行列が出来ていた。20分程並んだ後、俺は乗船券を大人二人と子供二人分購入する。俺たちは仲良く遊覧船のタラップを登った。もうすぐ出発進行だ。
リリィとルドルフがしきりに騒いでいる。
「すごぉい。周りが全部お水だらけだよ。」
俺自身も楽しみだ。満喫亭の仕事が始まるまで、まだ時間がある。魔法大学の講義はその後だ。それまでゆっくり、この子達との小旅行を楽しむ事にしよう。俺とリアは、リリィとルドルフを間に挟んで手をつないで、眺めの良い船頭に立った。




