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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
第四章 悪徳宗教団体から子供達を守れ
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リリィとルドルフの救出


カルロスから渡された薬品を飲み、再び姿を消したカシワは、神官アムドと他の神官達の存在に気を配りながら、慎重にリアとリリィが捕われている場所へと向かう。


「なぁカルロス、透明ってのは便利な部分と不便な部分、両方あるよな。敵から見えなくなるのはいいが、味方からも見えなくなっちまう。」


「そうだな。でもよ、だから今回の策も成り立つんじゃねぇか。今頃、見張りの連中、さぞかし楽しい事になってるだろうぜ。」


カルロスの言う通りだ。今、見張り兵は騒然としているだろう。何せ、半数の見張りが姿を消しているのだから。キューちゃんの話では見張り兵の数はおよそ30。正確な数ではないとしても、15名の見張り兵が一斉に姿を消せば、それだけで混乱が生じる。

見張り兵を一気に片付けるのは容易ではないが、後ろからそっと近づき姿隠しの魔法を使うのはそんなに難しい事ではない。姿隠しの魔法は本来は味方に対し使う魔法だ。だから、攻撃魔法と違って、別に痛みなど無いのだから。おそらく透明にされた兵士は、誰かに指摘されるまで、自分が透明になっている事実すら気がつかない。

ここの連中は絶えず移動を繰り返す。さらに組ごとに行動してるわけではなく、大抵単独行動をしている。同じところに固定されてないという事は、ターゲットを絞って攻撃するにはしづらいが、逆に言えば、その場にいない人物が消えたとしても、すぐには気づかれないという事だ。

姿隠しの魔法はリッチマンが自らも姿と気配を消した状態で、隙を見せた兵士の後ろに近づき一人づつかけていった。

姿隠しを受けてない見張り兵からすれば、いきなり味方の数が半分になったものと思い込み慌てだす。逆に姿隠しの魔法を受けた見張り兵からすると、突然慌てだした兵士達を見て何事かと思う。これが少人数なら、かえって混乱の収束もはやいかもしれない。

だが、このような異常行動をとり続ける教団に置いて、多人数が一斉に混乱をきたす場合、往々にして、冷静さを取り戻すまでに時間がかかるものだ。他の神官達もしばらくは騒動の収集に手間取る事だろう。

一番問題の神官アムドは今、リリィとリアを生け贄にする報告のため、本部のある集落にいる教祖のところに行ってる頃だろう。帰ってくるまで、しばらくは時間が稼げるはず。


おかげでいくら姿を消しているとはいえ、俺とカルロスは割とすんなりとリアとリリィの捕らえられている場所にたどり着くことができた。

鎖でつながれているリアが少しエロく感じる。いや、そんなことを思ってる場合じゃない。俺は鎖を俺の十八番の魔法である土属性アースで土に換えた。鎖としての効力を失った拘束具はそのまま地面に崩れ落ちる。解放されたリアは手足を伸ばして、大きく深呼吸する。リリィの方は突然何が起こったのか、全く把握出来てない様子だ。

無理も無い。俺たちは透明になっている。リリィからすれば、いきなり長い間、自分を拘束していた鎖がひとりでに土になって、いきなり解放されたという感覚だろう。

混乱しているところ悪いが、説明より先にまずリアとリリィにも透明になってもらう。


「リア、大丈夫か?それと君がリリィちゃんだね。もう大丈夫。助けにきたよ。」


「カシワ・・もう、遅いわよ。手足がしびれちゃったじゃない。リリィちゃん、彼らはカシワとカルロス。と言っても姿が見えないから声しか聞けないだろうけど、今は我慢してね。さっき言ったお姉ちゃんの心強い味方の中の二人よ。味方は他にもいるわ。さ、お話は後でするから今はここを出る事を優先しましょ。」


「信じられない・・こんなことが起きるなんて。あ、でも、ルドルフは?そういえば、姿が見えないけど、同じように透明になってるの?」


「ルドルフなら、あそこにいるよ。」


俺は舌の長い怪物がいる方向を指差す。ここまでは順調だ。ミッション1クリアってとこだな。次はミッション2ルドルフの救出だ。怪物となったルドルフも、それまでずっと見張り続けていたリリィの姿が見えなくなった事で、混乱していた。どうやら、怪物になったからと言って、特別に嗅覚が優れたとか、第6の感覚に芽生えたなんてことはないらしい。二つの目で物事をみていることには変わりないようだ。

透明となったままのカルロスがルドルフに攻撃を加える。ルドルフはあたり一体に舌を鞭のように振り回し抵抗を試みるが、カルロスはその舌を素手で掴むと、その舌をひっぱりルドルフの顔面を自分の元に近づける。怪物の眉間に、空いている方の手でなんどか攻撃を加え続けていると、怪物の動きは次第に遅くなっていき、ついには膝から崩れ落ちた。


「嫌ぁ!ねぇ、ルドルフ死んじゃったの?」


「そんなことしないよ。ルドルフもちゃんと助けるから、安心して。ただ、こうしないとルドルフを連れて行く事が出来ないからね。ちょっと荒療治になっちゃうけど、傷は後で癒すから安心して。」

俺はリッチマンを呼んで、ルドルフにも姿隠しをかけてもらうと、リッチマンは連続して小型化の魔法をルドルフにかける。俺はポケットサイズに収まったルドルフを道具袋に入れて、リアやリリィに向き直る。ついでに俺の傷もリアに治してもらった。


「さてこれでミッション2もクリアだな。だがずっとここにいると、そのうち神官アムドや他の神官達に気づかれてしまう。今のうちに場所を変えて、ここから逃げ出そう。」


俺とカルロス、リア、リリィ、リッチマンは一旦下水道を通り、教団の外部へと抜け出す。最終的には神官アムドを捕まえる必要があるが、まずはリアやリリィ、ルドルフを安全なところに連れて行かなくてはならない。喫茶満喫亭は教団に住所を知られている可能性があるので、ひとまずハンナさんのいる教会へと向かう。

ハンナさんに事情を話し、リリィとルドルフを預けると、リアに二人のそばについているように頼む。リアも納得済みのようで、快く引き受けてくれた。ルドルフを怪物から元の姿に戻す作業はフィアー先生が行ってくれる事になっている。もし、フィアー先生の手に余ったとしても勇者おじさんか魔王教授に頼めば何とかしてくれるだろう。

ミス研メンバーは以前、勇者おじさんの経営している温泉旅館で盗難事件を、リッチマンとランシアの名推理により解決し、それ以降勇者おじさんとも懇意にさせてもらっている。魔王教授の方はフィアー先生に頼めば、紹介してもらえるだろう。コネは力だな・・


俺はカルロス、リッチマンとともに一度ミス研の部室に戻った。後ですぐまた教団のエルドォワ支部の方に戻るつもりだが、その前にミワ姉や皆の前に顔を出しといた方がいいと思ったのだ。ミワ姉は俺の姿を見るといきなり抱きついてきた。


「バカ、どれだけ心配したと思ってるのよ。あの教団はあきらかに異常な集団よ。あなたやリアに何かあったら、私一人で満喫亭の仕事全部やる事になるのよ。お願い、もう危険な事はしないで。」


俺はミワ姉の言動に面食らった。俺の中でミワ姉は何が合っても動じない強い女性だと思っていた。だがミワ姉は今俺の腕の中で震えている。俺はミワ姉の頭をそっとなでてやると、ミワ姉の両肩をつかんで、ミワ姉に向き合った。


「ごめんよ、ミワ姉。でももう安心してくれ。俺もリアも無事だ。リアは今、リリィやルドルフと一緒にハンナさんのところにいる。フィアー先生にもハンナさんのところにいってもらい、ルドルフを元に戻せるかどうか試してもらうつもりだ。後は神官アムドを捕まえるだけだ。でも、そろそろ教団の方もパニックが収まりつつあるだろうから、さらに慎重にいかないとな。」


「カシワ・・ねぇ、ランシア。カシワはこれ以上作戦に無理に加わる必要はないんでしょ。だったら、カシワには部室にいてもらって・・」


俺はそんなミワ姉の言葉を遮る。ミワ姉に心配してもらえるのは嬉しいが、どうしてもやらなくてはならないことがある。


「ミワ姉、悪いけど最後までやらしてくれ。今度はカルロスもリッチマンも一緒だ。もう失敗はしない。必ずやり遂げてみせる。それと、ニーナ・・そろそろ出番だ。」


ニーナは俺の方を向いてうなずく。


「ええ、分かってるわ。こっちももう準備はできてる。聖者の集いの資金源の多くは、違法勧誘した信者達から巻き上げた寄付金よ。これは王都の条例32条の金品の強奪の項目に該当するわ。裁判所からの令状がおりれば、教団には巻き上げた資金の返済義務が生じる。間違ってハマーンの武器をこの教団に売っちゃった失態を取り返すためにも、必ずこの任務、成功させてみせるわ。」


ニーナは役所へと出かける。ニーナなら大丈夫。きっと彼女の仕事をやり遂げるだろう。これが成功すれば、聖者の集いの資金源を大幅に絶つ事ができる。エルドォワ支部だけでなく、とある集落にある本部にも打撃を与えることだろう。

俺はニーナを見送ると、カルロス、リッチマンとともに再びエルドォワ支部へと向かうことにした。教団のすぐ近くまではフィアー先生の研究室に残っていた助手にテレポートの魔法をかけてもらう。おかげで、一瞬で教団エルドォワ支部の近くにある茂みまでくることができた。

いよいよだ・・例の神官との対決を想定し、少しだけ鼓動が早くなる。だが、緊張はそれほどしていない。俺の側には今、カルロス、リッチマンという頼もしい相方がついていてくれる。加えてランシアからの作戦指示という何より頼りにできる武器がある。

もう、俺は負けない。リリィちゃん、ルドルフ君。もう少しだけ待っててくれ。神官アムドを退治して、無事故郷の森に返してあげるからね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


聖者の集い本部。神官アムドは教祖様に直に面会し、恭しく頭を下げる。本来、教祖様は直接お会いしてくださることなど滅多に無いが、今日は大収穫のあった日だ。機嫌もよくなろうというもの。


「お喜びください、教祖様。今日は新たに一人の生け贄を追加する事が出来ました。なんと小悪魔族サキュバスの女です。器量も素晴らしく、教祖様の好みにも合うかと・・先日より捕らえていたエルフの娘とともに存分にお楽しみください。」


「うむ。よくやった、アムドよ。近々お主が大幹部に昇格する日も近いであろう。今後はさらなる働きを期待しておるぞ。より一層我が教団発展のため、存分にその力を尽くすがよい。」


「有り難き幸せ。御意に。必ずやさらなる貢献をご覧にいれましょう。それでは失礼します。」


アムドは満足感に浸りながら、本部のある集落を去っていく。サキュバスの女か・・教祖に差し出す前にまず自分が味見するのも悪くないな・・アムドは軽い足取りのまま、エルドォワ支部に戻り、そしてわけの分からない騒動に面を喰らう。


「どうしたのですか、これは?一体何の騒ぎです?」


見張り兵は取り乱し、周りの神官達は騒動を収めるのに手間取っている。見ると見張り兵の多くが姿隠しの魔法をかけられているではないか。なんなんだ、この状況は?一人一人になら姿隠しの魔法を解除するのも容易だが、こう数が多く、しかも皆が混乱している状況ではやりにくい。アムドは落ち着いて一括する。


「静まりなさい!何なんですか、皆で取り乱して。教祖様に面目がたちませんよ。」


だが、誰も耳を貸そうとはしない。おかしい。何故自分の言う事を聞かない?いや違う、聞かないのではない、自分の声が聞こえないのだ。試しに何度か言葉を発してみるが、口にしたはずの言葉が声にならない。沈黙の魔法がかけられている。魔法を解除するには無詠唱でないかぎり、詠唱が必要になる。アムドは優れた実力者ではあったものの、無詠唱での魔法は使用出来なかった。それ故、この沈黙のフィールドを解除する事が出来ない。


「ランシアの言った通りだぜ。あんた色んな種類の魔法を使えても、言葉自体が発せなければただのでくになるんだな。」


唐突に声がかかる。誰だこいつは?こいつにも姿隠しがかけられているが、そんなことはアムドにとって大した事は無い。普通に動きを見る事が出来る。だが、それより突然の侵入者を今の自分が撃退出来るのだろうか?魔法を使えなければ、肉弾戦になる。アムドは多少の剣の心得はあったものの、専門的に剣や槍を振るう連中に比べれば、どうしても劣る。

ん?待てよ?なんでこいつは言葉を発する事が出来るんだ?今沈黙の魔法がかけられている、このフィールドでは自分も含めて何人も言葉を発する事など出来ないはずだ。


「不思議か?俺の言葉が聞こえるのが。俺らの仲間にキューちゃんっていってな、便利な能力を持ってるやつがいるんだよ。俺の言葉は念話という形をとって、キューちゃんを媒介して、直にお前の脳裏にひびかせることができる。しゃべれなくても関係ねぇのさ。心に思った事をそのまま伝えられるんだからな。」


なにをふざけたことを言ってるんだ、この男は?そんな能力のことなど聞いた事が無い。だが目の前の男はそんなアムドの考え込む時間を与えてはくれなかった。男の剣が自分の肩を打ち付ける。なんだ峰打ち?俺を倒すのではなく生け捕りにするつもりなのか?どこまでも、なめられたものだ。


アムドは男の攻撃をかわしつつ、周りの見張り兵を盾にして、教団の奥の祭壇へと逃げ込もうとする。沈黙の魔法は強力だが、このフィールドを離れてしまえば何の問題も無い。呪文さえ唱えることが出来れば、こんな男など一撃で片付けられる。しかし、男はその行動を許してはくれなかった。圧倒的な剣さばきで確実にアムドの行く道を遮ってくる。くそ、こうなれば目の前の男を直接攻撃してやる。アムドは捨て身になって目の前の男に斬り掛かる。男はアムドの攻撃を上半身のスウェイだけで避けた後、止めの一撃をアムドの脳天に喰らわせた。アムドは意識を失い、その場に倒れた。アムドが地面に崩れ落ちたのを確認して、リッチマンは沈黙の魔法を解除する。


「もう大丈夫。普通にしゃべれるよ。片付いたようだな、カルロス。お疲れさま。後は小型化でこの神官を小さくして、道具袋に入れてっと。あ、そうそう言葉をしゃべれないように、口を封じておくのを忘れないようにしないとな。」


リッチマンはアムドを小型化し、口にテープを貼り、道具袋に入れる。その様子をカシワは横目で見て思う。

こいつはこのまま役所に突き出せばいいだろう。叩けばいくらでもほこりの出そうなやつだ。残りの残党は王都の近衛騎士団にまかせて問題はないだろう。リリィやルドルフの証言、今捕らえたアムド、そして騎士団が到着すれば、ここで強制労働させられている多くの人々からもさらに証言が得られる。証拠としては十分だろう。聖者の集いのエルドォワ支部はもう終わりだな。リリィとルドルフは役所と裁判所に必要な証言だけしてもらい、エルフの森に返そう。後は、本陣、とある集落にある本部と教祖とやらをたたくだけだ。

リリィとルドルフは今回のトラブルで大きな心の傷を負ったと思う。彼らの傷が少しでも癒えるよう、事が済んだら、街でも案内してあげようか。リリィは元々外の世界に憧れてきたって話しだし。このままじゃ、外の世界が嫌いになってしまう。それはもったいない。現実には嫌な事も多いけど、楽しい事もいっぱいある。リアやミワ姉、ミス研メンバーにグラ爺、それに今までであった色々な人々。外の世界にはいい人たちだって、いっぱいいることをリリィとルドルフに教えてあげよう。カシワは心の中で、リリィとルドルフが外の世界を好きになってくれる事を切に願った。


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