取り乱したミワ姉
「カシワとリアが捕まった。大至急助けを頼む。それからアムドと名乗る神官に気をつけろ。」
キューちゃんからの連絡を受けたミス研メンバーは、騒然とし、急いで対策方針を練る。
「ちくしょう、やっぱり護衛についていくんだった。勉強なんざ後でいくらでも出来るってのに、とんだ大バカだぜ俺は。」
カルロスがいきりたつ。興奮したカルロスをニーナとリッチマンが抑えた。
「落ち着け、カルロス。姿隠しの魔法を瞬時に見破るなんて、敵は相当な実力者だ。警戒はしていたが、注意が足りてなかった。とにかく今はカシワとリアを助けることに全力をそそごう。」
「リッチマンのいうとおりよ。今ここで自責していても何も解決しないわ。それより事態は一刻を争うかもしれない。聖者の集いっていうのが、明らかに異常集団だってことは、カシワとリアからキューちゃんを媒介した念話で分かったわ。急いで対策を練らないと。」
ミワもその言葉に賛成する。ミワは先日拾った手帳に記載されていた聖者の集いによる拷問内容を思い出していた。カシワとリアがあの手帳に書いてあった内容と同じ目に遭わされる・・
そんなこと絶対許さない。何が何でも助けなくちゃ。ミワはランシアの方に向き直る。
「どうする?ランシア、いつもみたいにパパッといいアイディア閃いてよ。リッチマンでもいいわ。頭いいんでしょ、あなたたち。」
だが、ランシアからもリッチマンからもいい返事はこない。
「無茶言わないでよ。いくらなんでも急すぎるわよ。それに情報もまだ全然足りない。策を練るには不十分よ。」
ミワは感情的になってランシアに反論する。ミワは普段なら冷静に物事に対処出来る女性なのだが、手帳の内容を直に見ている分、今は、とても冷静にはなれなかった。
「あの教団はあきらかに異常集団。アムドとかいう神官が実力者で、場所も分かってる。情報としては十分じゃない。どうしたのよ、ランシア。そんな弱気発言あなたらしくないわよ。」
リッチマンがそんなミワを諭すように言う。
「ミワ、落ち着けよ。俺たちは今、全力でカシワとリアを助ける策を考えている。だが、ランシアの言う通り、情報が全然足りないのは事実だ。アムドとかいう神官が教団の一番の実力者で後は烏合の衆っていうなら、まだ策はある。でもそんな決めつけをするわけにはいかない。もしかしたら、他にも実力者が大勢いるかもしれないし、おおよそでも敵の人数がどれくらいなのかってことも把握しとかなくちゃならない。」
だが、ミワはランシアの言う事もリッチマンの言う事も耳に入らない。
「あなたたち、どうしてそんなに冷静でいられるのよ?カシワとリアが捕まったのよ。このままだと間違いなく酷い拷問にかけられる。もしかしたら最悪の事態だってあるかもしれない。お願い。私に出来る事ならなんでもするわ。力でも知恵でもなんでもいい。今すぐカシワとリアを助けて・・」
とうとうミワは泣き出してしまった。ニーナがミワにハンカチを差し出す。すると今度はニーナに八つ当たりしだした。
「だいたいニーナ、なんであんな連中に武器を売ったりなんかするのよ?あなたっていつもそう。後先考えないで行動して、少しは人の迷惑考えなさいよね。」
ニーナは黙ってうつむいてしまう。今度はカルロスが仲裁に入る。
「ミワ、それは言い過ぎだ。ニーナは悪気があったわけじゃないってことは、お前だって分かってるだろ。それにニーナはいつだって頑張っているじゃないか。ミスティア連合潰したときも、戦争を回避したときも、ニーナは十分に力を尽くしてくれていた。それに一番悪いのはこの俺だ。俺がちゃんと護衛についていってれば、こんな事態は防げたかもしれないんだからな。だから、責めるなら俺を責めろよ。」
見かねたリッチマンも口添えをする。
「カルロス・・さっきも言ってたろ。今自責しても何も解決しないって。ミワもさ、こんなときだからこそ、今は冷静になって、カシワとリアを救出する方法を考えよう。策を考えるのは何もランシアの専売特許ってわけじゃない。皆で一緒に知恵を出し合って、解決策を見いだすんだ。」
ランシアも珍しく殊勝な表情を浮かべる。
「リッチマン、ありがとう。ねぇミワ、これだけは約束するわ。カシワとリアは必ず助けてみせる。だから今は少しだけ時間を頂戴。あなたの言う通り、私は頭がいいんだから。自分で言うのもあれだけどね。でも、こんな異常な行動をとり続ける教団なんかの思い通りになんて絶対させない。教団がどれだけ卑劣なことをしてきたとしても、それを上回る策を講じてみせるわ。」
ミワは皆の言葉に冷静さを少し取り戻す。そうだ、今焦ったら、事態は悪くなる一方だ。こんなときこそ、冷静に事実と向き合わなくちゃ。じゃなきゃ、解決なんてできやしない。
「皆、ごめんなさい。取り乱しちゃって。そうよね。私たちはいつだって、どんな事件も解決してきた。フィアー先生も助けたし、リカルやハンナさんだって今は元気に暮らしてる。アリシアさんやジェンキンスさんも幸せを掴んだ。皆で力を合わせれば、どんな絶望的な状況だって必ず道は開けるわよね。」
皆が冷静さを取り戻し、大きくうなずいて救出会議が始まった。その様子を遠く温泉宿からずっと見ていたキューちゃんが皆に話しかける。
「すまんな。元はと言えば儂がカシワに依頼した事が原因じゃ。だから儂にも協力させてくれ。情報がもっとあればよいんじゃな。正確な事まではわからんが、教団の大体の位置構造や、神官、見張り兵の人数なら儂の方で把握してみよう。それに儂はカシワやリアと絶えず念話ができる。彼らの見聞きした情報も逐一報告しよう。少しだけ待っていてくれ。」
それから30分ぐらい、皆はキューちゃんからの応答を待ち続けた。ただ待っているだけというのが、これほど長く、辛くかんじたことは、今までの人生でも無かった。これなら、せわしなく普段の労働をしてた方が何倍もましだ。だが、皆はずっと席に座り続け、その間も策を考え続ける。キューちゃんから再度応答があったとき、皆は集中してキューちゃんの話に一斉に耳を傾けた。
「待たせたな。おおよその情報は掴んできたぞ。教団のエルドォワ支部には今、見張り兵が約30名、神官が10名程おる。教祖と呼ばれる人物はどうやら支部にはおらんようだ。本部の集落にいるのだろう。アムドと名乗る神官がこの中では一番の実力者とみて間違いなさそうだ。だが、他の神官もアムドほどでは無いが、それなりに広範囲に及ぶ属性の魔法を使う事ができる。それと紙とペンはそこにあるか?今から儂の言う通りに地図を書いてくれ。」
リッチマンが筆記用具を用意し、キューちゃんの指示に従って、地図を書く。何度かキューちゃんに修正指示を仰ぎながら、エルドォワ支部の地図が完成した。そこにカシワやリアのいる位置、リリィが捕らえられている場所などを記載していく。神官や見張り兵達は絶えず場所を移動しているため、今地図に書き込んでも意味はなさそうだ。だが、これだけの情報が揃えば大分違う。ランシアとリッチマンが中心になって、その地図をしばらく覗き込んだ後、二人だけで相談し、やがて、いつもの強気な瞳がランシアの中に輝きだす。
「待たせたわね。やっと解決の目処がたったわ。まったくこの程度の教団に右往左往させられるなんて、これだから凡人は・・というセリフは今回ばかりは言えないか。でも、もう安心して。ここからはミス研の反撃開始よ。カシワとリアは助け出す。リリィとルドルフもついでに助ける。アムドとかいう神官も今日で終わりよ。」
皆は一斉にランシアの方を見る。ついに待っていた台詞をランシアから聞く事が出来た。ランシアが策を話しているうちに皆の表情に笑顔とやる気が戻ってくる。策は決まった。後はそれぞれが出来る事を、いつも以上に集中して成し遂げるだけだ。もうミス研の中にさっきまでの険悪なムードは無い。ランシアはゆっくり立ち上がると、優雅にお茶を入れて口をつけた。
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リリィはしばらくの間、空腹と過労で気を失っていた。目を覚ますと隣に自分と同じように鎖で繋がれた女性がいた。初めて見る種族だ。エルフの森にいたときに長老から話には聞いた事がある。確か小悪魔族・・女性はリリィの方に向き合い、安心させるように囁いた。
「あなたがリリィちゃんね。可哀想に、こんなにやせ細って。きっと碌な食事も与えられてないのね。でも、もうすぐよ。もうすぐ私たちの心強い味方が助けにきてくれる。さっきキューちゃんから念話があったもの。あ、こんなこと言ってもわからないわよね。ごめんごめん。でも、これだけは信じて。お姉ちゃんは、リリィちゃんの味方よ。リリィちゃんも、そしてあそこにいる今は怪物にされちゃってるルドルフ君も、もうすぐ助かるわ。そしたら、お腹いっぱい、ごはんを食べようね。」
え?何を言ってるんだろう、この人。ここから助かる?しかもルドルフまで・・そんなこと出来るわけない。でもこのお姉ちゃんは優しい笑顔を浮かべてくれる。同じ笑顔でも教団の神官達のような笑顔とは全然違う。なんかほっとする笑顔だ。
「お姉ちゃん、私の事知ってるの?私はリリィ。見ての通りエルフよ。でも、お姉ちゃん、ダメだよ。ここからは助からない・・どんなに頑張っても、無理なものは無理なんだもの・・そうだ、お姉ちゃん、お名前教えてくれる?私、もうすぐ生け贄にされちゃうの。だから、最後にお話しした人のお名前、聞いておきたいから。」
「私はリアよ。リリィちゃん。もう・・まだ、そんな年なのに、諦めるなんて言葉使っちゃダメよ。いい?お姉ちゃんとお姉ちゃんの友達は、とびっきりすごい魔法使いなの。リリィちゃんとルドルフ君があきらめないで頑張ってくれたら、必ず元の生活に戻してあげる。だから、もうちょっとだけ、我慢しててくれる?」
リリィはまだ信じられない。でも、このお姉ちゃんは、ここにいる人たちとは全然違う目をしている。私が初めてエルフの森を飛び出したときと同じ目・・希望に満ちあふれた目だ。最後にお話し出来たのが、このお姉ちゃんでよかった。
「リアお姉ちゃん。リリィ、リアお姉ちゃんともっともっとお話ししたいよ。リリィね、エルフの森から、ずっと出た事が無かったの。でも森を出たとたんにこんなことになっちゃったから、まだまだ知らない事たくさんあるんだ。リリィがここにいる間、お姉ちゃんの知ってる世界の事、教えてくれる?」
リアはリリィが愛おしくなり、自分の知ってる限りのことを話してあげた。といっても、リア自身、小悪魔族ということで迫害を受けた経験もある。でも、カシワやミス研メンバー、それに出会った人々によってリアは救われた。そのときの気持ちをなるべく、わかりやすい言葉でリリィに伝えていく。リリィはリアが話している間、ずっと耳を傾けていた。
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カシワはずっと殴られ続けている。もういい加減慣れてきた。気を失っては水をかけられ、再度殴られる。だが、これは教団の拷問の中では優しい部類に入るのだろう。それでも体中が痛い。見張り兵はもう何度目になるであろう同じセリフを繰り返す。
「おい、お前。いい加減に素性を白状しろ。ちったぁ楽になるぜ。どうせお前がこれから奴隷生活を送る事には変わらないんだ。だったら、俺たちの心証を少しでもあげる努力をしたらどうだ?」
だが、カシワは何も答えない。答えればリアの身にせまる危険が一層増す。それだったら、自分が殴られ続けた方がずっとましだ。
「ちっ。見かけによらずしぶといやつだな。まぁいい。拷問の方法はいくらでもある。後で必ず公開するからな。俺を相手に今のうちに話しておけば良かったってな。」
見張り兵は去っていく。一人残されたカシワは兵士がいなくなって緊張が幾分とけた瞬間、一気に痛みに襲われた。今まで気を張ってこらえていた痛みが、気を抜いた瞬間に蘇ったのだ。
カシワはキューちゃんに念話を試みる。キューちゃんからの返答を聞いた瞬間、カシワは笑みを浮かべた。まったく・・やっと助けにきてくれるらしい。もうちょっと早くしてくれよな。
そうと決まれば、俺も役目を果たさなくちゃな。傷の痛みなんてかまってられるか。カシワは立ち上がり、行動に移る。
「すいません、見張りの兵士様。もう痛いのは嫌です。私が知っている事は全部お話しします。だから、もう勘弁してください。」
さっきまでカシワを殴り続けた兵士が振り返る。
「どういう心境の変化だ?まぁあれだけ殴られつづければ、心も折れるか。よかったな、お前。そろそろ次の拷問に移ろうかと考えていたところだ。今のうちに話しておくのは正解だぞ。」
「実はですね。私は聖者の集いの中に潜んでいる裏切り者を始末するために、潜入させてもらってたんです。このことは教祖様と一部の大幹部しかしらないことです。私は勅命を受けて、このエルドォワ支部に潜入していました。しかし、あろうことかアムド様にこのような形で見つかってしまうとは・・これでは、本来の役目を果たす事ができません。偉大なる教祖様に申し訳が立たない・・」
カシワはキューちゃんから聞いた台詞をそのまま話す。もちろん、ランシアの考えた台詞だ。見張りの兵士は想定外の答えがかえってきたようで、一瞬キョトンとしていたが、やがて大笑いしだした。
「とっさのデマカセにしちゃよく考えたものだな。そんな話が本当に通用するとでも思ったのか?それとも殴られすぎて、その程度の思考も出来なくなってしまったか?まぁ少しだけ同情してやろう。」
「そりゃどうも。だったら俺も少しだけ手加減してやるぜ。だが、カシワが味わった以上の痛みはしっかり味わってもらうからな。」
見張り兵が後ろを振り返る。誰もいない。いや、カシワと同じように姿隠しの魔法を使っているのか?
気がついたときには遅かった。見張り兵は音も立てずにその場に崩れ落ちる。倒れた兵士の姿は誰にも気づかれることなく、姿を消した。見張り兵にも姿隠しの魔法を使ったのだ。
カシワは見張り兵の後ろにいたはずの姿の見えない男に声をかける。
「おそいよ、カルロス。もっと早く助けにこいよな。」




