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気まぐれ異世界遊戯  作者: yoshi
閑話 ミス研メンバーの休日
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25/82

ニーナの武器販売


俺とリアが温泉宿で不思議なキューからの依頼を受けている頃、カルロスはこの休日をオーディーン直伝の修行のために費やしていた。木刀がカルロスの手首を強く打つ。


「踏み込みがあまいっ。それにもっと考えて行動しろ。常に敵の3手先までは常識として読むようにしろ。」


オーディーンの叱咤がとぶ。カルロスは懸命にその教えをひとつ残さず吸収しようと、全神経を集中させる。互いに木刀を持っての稽古だったが、カルロスが様々な試行錯誤をこらして、攻撃を加えるものの、オーディーンは地面から一歩も動かくことなく、しかも右手だけで、カルロスの攻撃を全て迎撃している。オーディーンは元々左利きだ。つまり、利き腕ではない方の片腕しか動かさず、カルロスの攻撃を全て防いでいるのである。

カルロスはそれでもあきらめず、剣での突きや上から振り下ろす、下から振り上げる攻撃だけでなく、蹴りを織り交ぜたり、意表をついて飛びかかっての攻撃など様々な行動を試みる。それらを全て上半身の微妙なスウェイと右手だけでいなされているのだ。ついに体制を崩したカルロスにオーディーンの止めの一撃が加えられる。オーディーンはカルロスの喉元目がけて突きを放ち、寸前のところで手を止めた。


「模擬戦稽古はここまで。次はランニングだ。この甲冑をつけて、ここから街との間を5往復しろ。」


オーディーンはカルロスに甲冑を渡す。重い・・片方の小手だけでも7kgはある。兜も5kgはあるだろう。胴の部分は想像もできない。総重量はいくらになるのだろうか。


「なぁ、本当にこれ全部着て走るのかよ。街までどころか普通に100m歩くだけでもきついんじゃねぇのか?」


オーディーンはそんなカルロスのぼやきに冷たく答える。


「別に嫌ならやらなくてもいいぞ。元々俺の気まぐれで稽古をつけてやってるだけなんだからな。やる、やらないはお前の自由だ。」


「いや、やるよ。天下のオーディーン様に稽古つけてもらえるなんざ、こっちから願ってても普通できねぇことだからな。とことんやるさ。んでもって、いつか必ずあんたを打ち負かしてみせるぜ。」


「ふん。なら早くしろ。いっておくが、そのランニングで終わりではないからな。日が暮れるまではまだたっぷり時間がある。覚悟しておけよ?」


「分かってるよ。じゃあ、行ってくるぜ。」


カルロスは甲冑を着て走り出す。体はしんどいが心の中は充実していた。もっと強くなれる、もっと強くなる。その思いがカルロスの体に新たなエネルギーを供給していく。オーディーンがこの街にいる期間なんて、そう長くはないだろう。今のうちに吸収出来るものは全て吸収しておかなくちゃな。最初は鎧の重さに手間取っていたカルロスだが、徐々にペースがあがっていく。次第に小さくなっていくカルロスの後ろ姿を見て、オーディーンは満足そうに頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしよう・・お金の工面なんて出来ないし、今更いりませんでしたって武器を突き返すわけにもいかないし。ちょっとハッタリかましすぎちゃったわね・・」


ニーナは目の前の武器を前にして、ぼやいていた。武器商人ハマーンを相手に武器の買い取りを申し出たものの、ニーナ自身は別に武器など必要としていない。1週間で金を用意してみせると豪語したはいいが、何も出来ないまま、時だけが過ぎていく・・


「どうしたのよ、ニーナ?あなたがそんな憂鬱そうな顔をするなんて珍しいじゃない。」


声をかけてくる相手を振り返る。彼女はアテナ。先日、というか昨日この街に誕生したサーカス団の団長の妻アリシアの妹だ。アリシアからミス研の功績によるミスティア連合討伐や、リンガイア王国との戦争回避の話を聞いたらしく、ぜひミス研メンバーに一度会ってみたいとアリシアに申し出たらしい。

今日は休日なので、ミス研も活動はしていなかったのだが、今朝からニーナの元に遊びにきている。ニーナも、武器商人ハマーンへの金銭工面以外は、特に予定がなかったため、午前中はアテナと一緒にウインドゥショッピングに出かけていた。

実はアテナとは今日初めて会ったばかりなのだが、元々気が合うらしく、もう既に十年来の友人のような関係になっていた。ニーナとしてはアテナを連れて午前中気晴らしした後、午後からハマーンへの金銭工面や、成り行きとはいえ購入してしまった武器の処理について、考えるつもりだったのだが、結局今もアテナと一緒にいる。


「アテナ・・アリシアさんから事情聞いてると思うけど、私ハマーンっていう武器商人から大量の武器を購入しちゃったのよね。あぁ、もうちょっと考えてから行動するべきだったわ。でも今更言ってもしかたないもの。ここにある武器をなんとか建設的なやり方でさばく事ができればいいんだけど、なかなか上手い案が浮かばないのよね。」


「武器なんて平和だったら必要ないものね。いっそ、原材料に戻しちゃって、鉄塊とかにした方が売れるんじゃない?」


「そんな簡単にはいかないわよ。たとえ原材料に戻すにしても、そのための費用がかかっちゃうじゃない。しょうがない、もう一回散歩でもして頭を冷やしてみるか。悪いけど、また付き合ってくれる?」


「それは構わないけど・・そうね、じゃあ向かいに新しく出来たいちごパフェの店でも行ってみる?今はマカロンも格安で売ってるらしいわよ。」


確かに甘いものを食べれば脳の働きもよくなるかもしれない。というか、そんな理屈抜きにしてお腹が減った・・ニーナには、アテナの提案を迷う要素は全く見つからなかった。故に即答する。


「いいわね。じゃあ行ってみましょうか?よーし食べるぞー。でも太ったら彼氏獲得計画が・・いや、男だって変にガリガリの女より、よく食べる元気な女の方がいいに決まってるわ。そうと決まれば行くわよ、アテナ。」


「あんまり食べ過ぎないようにね・・太るだけじゃなくて、眠なっちゃうから。かえっていい案でなくなっちゃうよ。」


ニーナはアテナの忠告など聞いていない。頭の中はすでにいかに多くの甘いものを低カロリーで食べるかについて考えるのに忙しく、それどころではなかった。


店に入ると店員がメニューをもってやってくる。ここの店はコーヒーがサービスでついてくるらしく、最初から無料で提供された。


「あら、以外と美味しいじゃない、このコーヒー。只っていうから、安物のインスタントとか思ってたけど、ちゃんと引き立ての豆を使ってるのね。なかなかサービスいいわね。ここのお店。気に入ったわ。」


「本当、美味しい。でも、実際どうするの、ニーナ?ハマーンっていう武器商人にお金払う事できなかったら、まずいんでしょ?」


「そうね・・でも大量の武器を買ってくれる業者なんて、そんなに都合良く見つかるわけないし、困ったわね。まぁ自分がまいた種なんだけどさ。」


だが、ニーナの憂いに反して、都合のよいことが奇跡的に起こった。ニーナのつぶやきを聞いて、隣の客が武器の購入を申し出たのだ。信じられないような事だが、世の中何があるかわからないものだ。


「すみません、ちょっと宜しいでしょうか?お話が聞こえたもので。武器の販売先を探してらっしゃるということですが、もし宜しければ、私どもに武器を御見せいただけないでしょうか?実は私どもある事情から今、大量の武器の購入を検討しているのです。あ、申し遅れました。私こういう者です。」


話しかけてきた男が名前入りのカードを渡してきた。カシワから話に聞いていた名刺というものによく似ている。職業欄のところには”あなたの心を支えます。聖者の集い エルドォワ支部”と記載されている。なんだろう?新手の商業団体かなにかなのだろうか?


「あの、すいません。この聖者の集いっていうのは、何をされている方達なんですか?」


男はニーナの問いを聞いて嬉しそうに答える。


「よくぞ聞いてくれました。私どもは世のため、人のため、この世にはびこる悪を一掃し、誰もが幸せに暮らせるユートピア実現のために日々奮闘しているものでございます。どうです?あなたもぜひご入会されてみては?きっと世界観が変わりますよ。」


胡散臭い・・男は満面の笑みを浮かべているが、目は笑ってないように見えた。こんな奴らに武器を売ったりして、後でトラブルに発展しないだろうか?だが、他にハマーンとの約束の期日までに、武器の購入を引き受けてくれる業者など、おそらくいないだろう。仕方ない。こいつの素性がどうあれ、武器を買ってくれるというのだ。こんな奇跡的なこと、そう滅多におこるもんじゃない。ここは多少のリスクには目を瞑って、この男に武器を売るしかなさそうだ。

この”多少のリスク”が後々とんでもないことになるのだが、今のニーナには知る由もない。


「いいわ。武器売ってあげる。置いてある場所に案内するわ。ついてきて頂戴。」


ニーナは結局この店のいちごパフェやマカロンを食べずに店を出た。まぁまたくればいいか。サービス料金だけ、店に払って、武器の保管場所に案内する。後でランシアかリッチマンに小型化の魔法をかけてもらい整理するつもりだったが、今はまだ保管庫に放置したままだ。


「これは、素晴らしい。よくぞその若さで、これだけの武器を集められたものです。ぜひ、御売りいただきたい。もちろん奮発させていただきますよ。そうですね・・これくらいでいかがでしょうか?」


ニーナは男の提示してきた金額を見て、一瞬立ちくらみを覚える。嘘?こんなに?この男自身は胡散臭さ満点だが、お金に罪は無い。ニーナは提示金額に全然依存は無かったが、このような交渉ごとの場合、下手に即決すると足下をみられかねない。ここは慎重にいこう。


「ご満足いただけて光栄ですわ。ですが、私もこれだけの武器を集めるのには、大変な苦労をいたしましたの。お譲りするにあたって、細心の注意を払わなくてはならないことを、どうかご理解いただければと思います。」


「ええ、もちろん存じておりますとも。それでは、これではいかがでしょう?」


男は新たに修正金額を提示する。すごい・・ハマーンに武器の代金を払ってもなお、十分に潤う。文化祭での売り上げなど紙くずのように思えてくる。


「わかりました。あなたの誠意に応じて、御譲りする事にいたしましょう。それで、どちらに郵送すれば宜しいでしょうか?」


「ああ、いや、郵送はけっこうです。こちらで運びますので。それでは私は一度本部の方に戻って、夕刻前にはお金を持って、またこちらに参ります。それで宜しいでしょうか?」


「かしこまりました。それでは御待ちしております。本日はありがとうございました。」


ひょっとしたら、お金は持たずに、武器だけ強奪されるのではとも心配したが、男はきちんと提示金額をニーナに支払い、武器を引き取った。これでハマーンに料金を払う事ができる・・

ニーナは安堵する。だが、ニーナは知らない。武器を売った相手はエルドォワ王など足下も及ばないほど、大きなトラブルを起こす連中だという事を。


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