7.花嫁と生贄
「おめでとうございます! 」
「ご両家の更なる繁栄に乾杯!! 」
(どうして………)
歓声と拍手で沸き立つ聴衆。腕を組み、親しげに微笑みを交わすランスとローズの後ろ姿。皆が二人の結婚を祝福している。
「挙式は来月執り行い、同時にランスは陛下より公爵の地位を授けられる。若い二人をどうか温かく見守ってほしい」
混乱で、視界がぼやけて息ができない。
どうして彼の隣にローズがいるのか……今までランスを取り合った事もなければ、親密そうにしていた様子も……何一つ心当たりなんてない。プロポーズを受けた事は私から両親に伝えたし、婚約した時の両家の晩餐会の席でも、ランスの婚約者は私だった。式の準備だって……卒業試験の傍ら、招待客のリストも作成していたし、ウェディングドレスも……確かに採寸をしてあのデザイナーに頼んだはず。
それなのになぜ………頭の中を記憶が乱雑に駆け巡る。浮かんでは消えて、また浮かんで……その中にいる私とランスはいつも恋人同士だった。
倒れそうになる私を、支えてくれる人はもう誰もいない。
「そしてもう一つ、この国にとって重大な発表がある。リリー、前に出なさい」
父の声が遠くに聞こえ、動けない私は執事達に腕を掴まれて半ば強引に、前に連れ出される。
ランス達はいつの間にか下がっていて、聴衆の前に一人突き出された。
「この度、我が一族から皇帝陛下への忠誠の証として供物を献上する事となった。国難を鎮める大役を仰せつかるのは大変名誉な事であり、受けた者は身命を賭して務めを果たさなければならない。リリー・フランソワ・ロレンスは本日この場を以ってその名と地位を返上し、供物としてその身を捧げる。我等が国と民の安寧の為、荒ぶる神の生贄となるのだ」
何を言っているのか、まったく理解できなかった。
荒ぶる神、生贄……愛されていると思っていた親に死ねと言われたも同然、それだけはわかる。
反論も抵抗も許されないまま犯罪者のように執事達に拘束され、パーティー会場から連れ出された。
閉ざされた扉から聞こえてくる祝福の演奏。あそこで祝福を受けているはずだった私はドレスルームでドレスも飾りも全て剥ぎ取られる。
「やめてっ、離して、離しなさいっっ!! 」
メイドでもなく父の雇う執事達に服を暴かれる恥辱。何もしていないのに犯罪者のような扱いを受け、罰せられるように何もかも奪われた。
どうして……心が黒く染まっていく。
抵抗虚しく、何もかも没収された後の部屋に押し込められてパーティーが終わるまで、ひとしきり泣き続けるしかなかった。
深夜、夜が明けたら宮殿に移送されると告げられた私は執事の制止を振り切って部屋から出た。
「お戻りください!! 」
「そこをどきなさい。お父様に会うのです」
「ご家族との面会は禁じられております」
「会わせぬと言うなら今この場で自害します」
装束の帯を解いて首に巻き、締めつける。生贄に死なれたらよほど困るのか、立ちはだかっていた執事達は道を空けた。
「お父様、失礼します」
後ろめたいのか、父は後ろを向いて座ったまま顔も見せようとしない。
「理由をお聞かせください。なぜ私が生贄となり、ローズがランスと婚約するのか」
待っても答えは返ってこない。
「お父様、失礼します」
私によく似た少し高い声……返事を待たず扉が開いた。




