6.悪魔の微笑み
ランスからのプロポーズを受け、両家の承認を得た私達は正式に婚約した。
「星空の下でプロポーズなんてロマンチックだわ~」
「ドレスはかの国際的デザイナー、フローレンス・ガルシアが手掛けられるとか」
発表の日までは秘密に、ランスとそう決めていたのに、噂はあっという間に広まってしまった。私は連日、同級生に囲まれて噂話の種に。どこから広まったのかもわからないまま、対応に追われてごまかすのが精一杯。
おまけにランスはこの一ヶ月、お義父様と外交の仕事を覚えるため隣国に行ってしまい……帰ってきたらずっと一緒にいられるのだとわかってはいても、それはそれで寂しくて不安で。
「はぁ……」
「リリー様、幸せな花嫁に溜め息は似合いませんよ」
サラがラズベリーパイとダージリンティーを用意して励ましてくれる。
「そうね、まずは卒業試験頑張るわ」
「その意気でございます」
恋人と会えない時間がこんなに寂しくてつらいものだなんて知らなかった。
「幸福にも傷みが伴うのね……」
これもきっと最後の転生の中で経験すべき事なのだろうと心を落ち着け、勉強に励む。
そして……長かった一ヶ月がやっと過ぎた頃。
「ただいま、リリー」
「おかえりなさい、ランス。逢いたかったわ」
旅を終えて帰ってきたランスは真っ先に私に会いに来てくれた。飛びついてしまうなんてはしたないと思いながらも我慢できずに、駆けていって抱きしめる。
「やっぱり……リリーといると心が落ち着くよ」
「慣れないお仕事でお疲れになったでしょう? しばらくゆっくりお休みにならないとね」
「あぁ、そうしたい所だけど課題が待ってくれないだろうな。ラルフとハグウェイの顔が浮かぶ」
「ふふ、幾何と神学ね。大丈夫、ランスならすぐに合格するわ」
「だといいけど」
離れたくなくて抱き合ったまま、とりとめのない話をして笑い合う。
「明日はいよいよ、婚約パーティーね」
「あぁ……もう明日か」
「気が進まない? 」
「まさか。それより明日はどんなドレスを着るんだい? 」
「あなたのくれた指輪に合わせてシルバーのラメが入ったオーガンジーを使う予定よ」
「オーガンジーか、楽しみにしているよ」
明日になれば……人前に出るのは緊張するけれど、ランスと一緒なら怖くない。どこか遠くを眺める眼差しに見惚れながら、指と指をそっと絡めた。
翌日、永遠にも感じられるほど長い一日が始まった。
サラと二人、朝から念入りに支度を整える。湯あみをして髪を乾かし、パックやマッサージで肌を整えて。彼と彼のご両親に恥ずかしい想いをさせないようメイクと香りは控えめに、でもおとなしすぎて貧相に見えないようにペールブルーにシルバーラメのオーガンジーを纏わせたドレスで華やかさを足した。
「清楚で、可憐でとても美しい花嫁様にございます」
「気が早いわ、サラ。まだ婚約を発表するだけなのに」
「えぇ、でも秋には純白のウェディングドレス身にを纏って、輿入れされるんですもの。きっと、あっという間にその日が来ますわ」
いつもより畏まった口調のサラに見送られ、応接の間に向かう。予定時刻より早いはずなのに、既に両家の家族が揃っていた。
「遅くなりまして申し訳ございません」
「いや……」
異様な雰囲気、まさか時間を間違えてしまっていただろうか……不安になって口を開こうとしたけれど。
「お支度が整いましてございます」
執事が呼びに来て、それ以上は聞けなかった。移動する間もランスはお父様達と話していて、声を掛ける事が出来なくて。なんとなく気になったまま、広間が一望できるステージに辿り着いた。
「お集まりの皆様方にはまず、我が家の喜ばしい門出を祝福する為に集まってくださった事、深く感謝する」
お父様とランスのお父様が前に出てまず挨拶をする。
「今宵、私達は国の更なる繁栄と陛下への忠誠を誓うため二つの発表をする。皆様にはその証人となってもらいたい。ランス、前に来てくれるか」
「はい」
ランスが一歩前に出て堂々たる風格を示すと歓声が起きる。
(きっと、次に呼ばれるのは私だ……)
高鳴る鼓動を収めながら次の言葉を待っていると。
「ここにランス・バチェットとローズ・ロレンスの婚約を正式に発表する」
(…………………え? )
後ろに控えていたはずのローズが一歩、前に出て私を追い抜いていく。
(なんで? どうして? )
混乱する私の目の前で、ランスとローズは笑みを交わした。




