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64.誰の遺骨だと?


 祝砲が轟いて、砂漠中に力を誇示する。


 この日、エスペランサ王室にまた一人、新たな皇子が加わった。メロと名付けられた彼は母であるアザミの胸の中、すやすやと眠っている。


「また随分と(いか)つい祝いだな。兄上に任せると何でもこうだ。祝砲なんて起きて泣き出したらどうすんだ」


 いつも通りの不敵な笑みに滲み出る余裕。自ら王にならずとも安泰とラドはいつになく機嫌が良く、アザミにも柔らかな母の笑みに隠しきれない優越感が。


 母として女として勝ち、位も上がった。


 これからは皇子の母として、黙っていても重用されるだろう……カメリアよりも。


 しかしカメリアとゲイクもまだ、祝える程の余裕は持ち合わせている。


「お前のガキがそんな繊細なわけねぇだろ、こういうのはな威厳ってやつが大事なんだ」


 上機嫌で酒を煽り、カメリアも隣で特別に施した爪の装飾に見惚れて。


 ゲイクは、玉座に座っていた。


 隊列を成す軍隊の行進に、楽器や舞を披露する女官達……意のままに動く下々を酒の肴に酔っている。


「何と不謹慎な……王様がご危篤だと言うに」

「だから次代はバッカス様だと、私はあれほど」

「やめろ、どこで誰が聞いとるか。殺されてしまうぞ」


 逆らう者は殺し、酒と女に浸り尽くす……王が床に()してからの彼等の横暴は目に余るどころか絶望しかなかった。


 目先の利から一時は彼等についた者達も引いていくほどの、野蛮で残虐な王に心から忠誠を尽くす者はない。


「やはり、生き神様だったのかもな……」


「あぁ、雨をもたらし逝ってしまわれた……王様もさぞご傷心の事であろう」


 二十日が経っても、皇太子バッカスとその妃リリーが戻ってくる事はなかった。


 あの儀式でもたらした奇跡によって、二人は神と崇め奉られる存在に──今ここにいれば間違いなくゲイクやラドを押し退け、王に祀り上げられるだろう。


 ──生きていてくだされば──


 そんなわずかな一欠片(ひとかけら)の望みさえ、打ち砕かれて。


「ちょうどいい。この場で新しい皇太子、いや、新しい王を決めちまおうぜ」


 酒場で賭けでもするような荒く、(つば)と共に飛ぶ言葉。


 祝賀は広場での式典から宴へと場を移して、佳境へと差し掛かってこのまま……早く終わってくれと官吏達が願っていた所で。


「お、お待ちください……」


 官吏の中から声が上がる。


「あ!? 」

「つまみ出せ」


 ラドの指示でつまみ出され、灰色の(ひげ)を蓄えた老臣がおずおず出てくる。


「今日の俺は機嫌がいい。理由(わけ)を聞いてやろうじゃねぇか……話せ」


「は……はぁ……」


 肩をすくめ、震えながら。


 ニタニタと笑うゲイクとラド。


 これも、全てはカメリアの考えで仕込んだ茶番。王になる正統性を示す為に、弱みを握った老臣に言わせている。


「恐れながら…申し上げます。国王様におかれましては」


「おら、前置きはいいからとっとと言えや!! 」


「ひぃぃぃっっ……」


 太く鋭い剣が喉元に、思わずおののく悲鳴と群衆のどよめきが。


「ま、まだ国王様は御存命にございます……それに皇太子様とお妃様も……所持品さえ見つからず忽然と……もう一度、お捜しするべきかと」

「必要ない」


 矢継ぎ早に、ゲイクが吠えた。


「王様との約束からはや二十日……結果は目に見えているのでなくて? 」


 カメリアのゆったりした口調が、場に諦めの空気をもたらす。


「し、しかしまだご遺体が……」

「そうだ、遺体はまだ見つかっておらぬ!! 」


 加勢する声が群衆から……すると口々にそうだそうだと声が上がった。


 これも計算づく、だろうか。


 カメリアの口端がかすかに嘲笑(わら)う。


「残念だったな」


 同じく嘲笑(わら)うゲイクが群衆の声を掻き消して。宴のテーブルに赤い布で包まれた箱が現れる。


「まさか兄上もとは。奇遇だな」


 そしてラドも紫の布で包まれた箱を──兵に命じて開けさせると悲鳴のような叫びとざわめきが。


「不吉だ……不吉すぎる」

「い、祝いの席に骸骨など正気か」


 赤い布をカメリアが解く。


 木箱の中から出てきた頭蓋骨にまた悲鳴が。


 恐れおののいて腰を抜かす者、眉をひそめて(いぶか)しむ者と、ざわめく声は止まらない。


「遺体が見つかったら諦める……王とした約束よ」


「確かに、俺もそう聞いたな。ちなみに義姉(ねえ)さん、その骨は」

「皇太子の遺骨よ。遺体の損傷が激しく腐敗していたので兵士が骨にして持ち帰ったの」

「そうか、それまた奇遇だ。俺等も偶然、皇太子妃の遺体を見つけてなぁ。腐ってたから焼いてきたんだ」


「そ、それが皇太子様の御遺骨だと何故わかる」


「もちろん……証言者もいる」


 ラドの不敵な笑みで一同の絶望は確信に変わった。


 それぞれの手の者による証言を聞かされ、否定できる者はもうない。


()れ」


 歯向かう者への見せしめ──老臣にとどめの剣が振り下ろされる。


 皆、目を背けその瞬間を迎えるしかない。



「誰の遺骨だと? 」


 その時──群衆から威厳溢れる声、官吏の衣が宙に舞い上がった。


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