58.生と死の狭間で
「リリー様! 」
涙声と共に、気づけばサラが胸の中にいた。
「リリー様……もう二度と会えないかと……」
「サラ……よかった…よかった…本当に…辛い思いをさせてしまって……」
泣きじゃくるサラの髪を撫でようとして我に返る。
(こんな手で触っては……)
見知らぬ男の血に染まる手でサラに触れるわけにいかず、避けながらも私達は、再会の喜びを分かち合った。
「バッカス様、聞こえていましたらリリー様の手を握って合図を」
緊迫するエランの声。
さっきまで熱かったはずの身体から急速に熱が失われていく。
まだ反応はある──けれど握る力は弱く重力に負けて、今にもだらりと落ちてしまいそうに。
小屋に逃げ込んですぐ、バッカス様の容体は急変した。
止血が甘かったのか出血量が多く、何度呼び掛けても目を閉じたまま……声が帰ってくる事はない。
(バッカス様……バッカス様……)
心の中で必死に──縋るように名を呼んだ。
冷えていく指先は私の手からも熱を奪う。
鼓動は恐ろしく速く音を立て、どれだけ吸っても息が苦しい。
「このままでは……」
エランの小さな呟きが死刑宣告のように胸に響いて。
「私の血を」
心が口から出ていた。
「危険です。リリー様のお命まで」
「構わないわ、お願い」
彼の血液型も、輸血が最適な治療法なのかもわからない。それでも、それしかないと直感が迫ってくる。
「それで助かる可能性が少しでもあるなら試してほしいの」
もう何ひとつ、諦めたくなかった。
「……私が」
「エランには居てもらわないと困るわ。治療のできる人が必要よ」
最後までためらうエランを押し切って、バッカス様の隣に横たわる。
「やめて! リリー様に何を……」
腕に針が刺さる瞬間、水汲みから戻ってきたサラが叫ぶ。
「大丈夫よ、サラ。私が頼んだの」
「なぜ……一体、何をするおつもりなのです」
「サラ、この方は優秀な医師よ。私の命を救ってくれた……あなたには彼を手伝ってほしいの。できるだけでいいから」
「リリー様……」
「もう失いたくないの。大切な人を……サラ、あなたに会えてよかった」
「リリー様、そんな……」
「エラン、お願い」
そうして目を閉じ、意識を失った。




