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48.愛はいつまで……


「ふぅ……」


 ひとつ、またひとつと何かが起きては去っていく……めくるめく日々の中で。


 私とバッカス様は……ちゃんと夫婦に、なれているのだろうか。歩み寄ってくれたその手を取って……でもその先へは、まだ一歩踏み込めないまま。


「どうかされましたか」


 溜め息を聞かれてか、エランに心配されてしまう。


「いえ……何でもないわ」


 あの時、感じた違和感も……まだ消えたわけではない。


 “マヌカハニー……か……”


 あの蜂蜜はこの世界でメディカルハニーと言われている。教えてくれた医学や栄養学の知識も……調べれば調べるほど、謎は深まるばかり。


 エランは……何者なのだろう。


「皇太子妃様、王宮殿より使いの者が」


「王宮殿……」


 外からの声に、エランと顔を見合わせる。


「まさか…バッカス様に何か」

「用件を聞いてまいります」


 そして戻ってきたエランに言われるがまま、身支度もそこそこに王宮殿へ。


 国王様より火急のお呼び出しとのことで、第二皇子様ご夫妻も第三皇子様ご夫妻も同じように呼び出されたのだと言う。


 (気が重いわ……)


 言いようのない胸騒ぎを覚えながら、王宮殿へ向かった。




 議場には、既にカメリア様とゲイク様が到着し、最前列に座っていた。


 ギロリと睨まれた気がして視線が痛い。


「早かったな」


 バッカス様が守るように(そば)に来て、助けてくれる。


「ご無沙汰しております」


 小さく頭を下げると、フンと鼻で笑われた気がした。


「気にするな、行こう」


 バッカス様に伴われて後方の席へ下がるとアザミ様とラド様が別々に到着し、国王様が入ってくる。


「座れ。火急の要件だ、すぐ本題に入る」


 夕食会の時とはまた違う厳しさ……今日の国王様は為政者(いせいしゃ)の表情で私達を座らせると、話し始めた。


「この所、異常気象による災害が相次ぎ、先日の洪水では集落が一つ壊滅した。学者によると、風の流れが例年と異なる為、南の雨雲が北に流れ……これが一年続くと言う」


「神のお怒りって奴か。そりゃそうだよなぁ」


「黙れ、まだ話の途中だ」


「はいはい」


 ゲイク様の横槍を一喝し、すぐに本題に戻っていく。村が一つ壊滅する程の洪水とは……どれほど恐ろしかっただろう。


 黒い濁流、逃げ惑う人々……流される家……想像するだけで身震いがする。


「よって、代々王族に伝わる双祈天鎮祭(そうきてんちんさい)を行う。神官は(ただ)ちに神殿を設営し、準備を整えよ」


 双祈天鎮祭(そうきてんちんさい)……それは数日前に偶然、知ったばかりの言葉。


 王様が説明した通り異常気象を鎮める為の儀式で、神事を司る神官と巫女、そして王族が身を浄め、祈りを捧げる。


 滅多に行わないらしく前回は45年前。


「はぁ……めんどくせぇな……」


 ラド様の小さな呟きが聞こえてしまう。アザミ様が、聞こえてしまいますよと小さな声で(たしな)めるけれどそれにも。


「うっせぇな……」


 と投げやりな態度に、正直驚いてしまった。


 (言い合えるほど仲睦まじいのだと思ったのだけれど……)


 先日の茶会で家族の団欒(だんらん)について話すアザミ様は幸せそうで、遠慮のない言い合いも……私達より距離が近しいのだと、思っていた。


「儀式は吉日を選び、六日後の早朝より行う。それまで浄めの期間とし神殿にて浄めの儀式を、飲酒と肉食は禁止とする。早速、儀式へと移れ」


 婚儀の前、各地を巡礼して滝行などで身を浄め祈りの儀式を行ったけれど……もしかしたらこのような儀式を行なう所が誤解されて、他国から化物だ生贄だなどと言われるのかもしれない。


 今日から六日間、確か寝所も別になるはずだ。


「深夜、迎えに行く」


「え……? 」


「散歩くらい許されるはずだ」


「……はい」


 会おうとしてくれる、その気持ちが嬉しかった。



 そうして私達は神官に導かれるまま男女に分かれ、王宮殿の浴場へ。


「どうするつもり」

「神事ですから……」


 カメリア様とアザミ様はさっきから何か、私の前方で深刻な様子。


「いかが致しましょう」

「ひとまずお連れしたのですが……」


 浴場に着くとなぜか巫女達がアザミ様を見て慌て始める。


「アザミ様、大変申し上げにくいのですが……」


 話によると、身重の女性は妃といえど神事に参加できないらしく、清めの儀式でさえ冷水を浴びる事が身体に良くないと。


 しかし、皇子と妃が揃って(そう)となるのであって、欠けるのは凶事を招く行為だと言う。


「それでは……他の者に務めさせます」


「他の者? 」


「そうね。たかが儀式よ、適当な妾にでもやらせなさいな」


「お役に立てず、申し訳ございません」


 そう言うと、アザミ様は侍女に連れられて、宮殿へと帰って行った。


 一瞬……私の方に目を向けて。


 その表情は、とても寂しそうで……胸の奥を静かにえぐられたようだった。

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