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43.元公爵令嬢と夕食会


 夕暮れ時、約束の時間より少し早めに私達は王宮殿へ向かった。


「国王が退席するまでは出られぬが、早めに退出しよう」


「はい」


 王族の皆が揃って食事を摂る事は普段あまりないらしいのだけれど、今回のように誰かが戦地から帰った時や婚儀の後などには時折、夕食会が催される事があるのだという。


「面倒だな……」


 溜め息をつくバッカス様と食堂へ入るとそこにはまだ誰も来ていなかった。


「皇太子様、こちらでございます」


「皇太子妃様はこちらへ」


 座席はあらかじめ決められていて、バッカス様は国王様の右隣の席で私は末席。離れてはいるけれど、正面に国王様がいらっしゃる緊張の場所だ。


「おい、妃は私の隣でなければおかしいだろう」


「申し訳ございません。国王様よりこのようにと言われております」


「皇太子様、私はこちらで……」


 その内に第二皇子様ご夫妻、第三皇子様ご家族がにぎやかに入ってこられ、夕食会の雰囲気が。


 (よかったわ……)


 バッカス様の隣でないのは少し不安だけれど、第二皇子様やカメリア様に睨まれながら食べるより、小さな子達が傍にいてくれる方が気も紛れそうだ。


「あらぁ……困りましたわ……」


 その時、お子様達の後ろから入ってきたアザミ様が立ち止まり、大きな声で頬に手を当て眉をひそめる。


「どうかされましたか? 」


「リリー様、申し訳ないのだけれど、お席……変わっていただけないかしら」


「お席を……ですか? 」


「えぇ、ソフィアとノアはまだ一人で食べられないからノアを食べさせながらソフィアを見ていないと……ほら、国王様の前でマナーがなっていないと叱られてしまうかもしれないでしょう」


 きゃっきゃと走り回っている小さな女の子達は、侍女に止められても言う事を聞かず。


 いつも通りなのか……誰も(たしな)める気配はない。


「そうなのですね……そういう事でしたら」


 そうして私とアザミ様が席を変わり、私はカメリア様の隣に座る。


「失礼致します」


 案の定、ちらりと目を向けるだけで無視されてしまった。


 (緊張するけれど……仕方ないわ……)


 こちらを見ているバッカス様とこっそり視線を交わしながら……そうしている内に、国王様が入って来られ、皆で立ち上がる。


「なぜそこにいる」


 食堂に、厳しい声。


「なぜそこにいるのかと聞いている、答えよ、皇太子妃」


 一段と厳しさを増す怒りの声は思いがけず私に、降り注いでいる。


「あ……あの……」


 場は静まり返っている。


 アザミ様の方を見ても視線は合わない。


「申し訳ございません」


「私は理由を聞いているのだ。答えられぬと言うか」


「いえ……その……」


「皆は座れ」


 国王様は皆を座らせると、より一段と、強い口調で私を問いただす。


 いつの間にか私の両隣には侍女が。


「確かにバッカスと共に皇太子妃に任命した。だが、家族の序列としては新参。末席に座るべきであろう。確かに、そう指示したはずだ」

「やめてくれ。本来は」

「お前は黙っていろ、バッカス」


 言葉を止められ、悔しそうに拳を握るバッカス様の姿が目に入る。


 隣のレイトン様らしき小さな皇子様は目を伏せ、居心地悪そうに。他の方々や侍女達には、ほくそ笑むような雰囲気が漂っていた。


「申し訳ございません」


「どうせお前も他の者と同じ。元の身分が第三皇子妃より高いからと蔑んでおるのだろう」


「そ、そのような事は……」


「図に乗ったな。その者の器を下げ、地下へ送れ」


「そこまでする必要ないだろ!! 」


「黙れ!! その者を三日の間、地下に軟禁し、面会謝絶とする。連れて行け」


 両隣にいた侍女に腕を掴まれる。あの日のように連れて行かれる。


 皆、黙ったまま。


 雰囲気が、クスクスと冷たく私を笑っている。


 連れて行かれる私をよそに、響き始めるカトラリーの音。


 カチャリ、カチャリ……と、やけに大きく耳に残る。


 (どうして……)


 去り際、おとなしく一人で食べているあの子達と、サラダに手をつけるアザミ様が……目に入った。

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