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3.ランス・バチェット


 学園に通いたい、そう言い出したのは私だった。一般的に公爵家のご令嬢は屋敷で専属教師から教育を受け、学園には通わないのだけれど、どうしても前世では味わえなかった青春を味わいたくてお父様に頼み、皆より遅く10歳で入学した。


「うわぁ、リリー様とローズ様よ」

「朝からラッキー! 」

「いつ見ても優雅でお美しいですわ」


 羨望(せんぼう)の眼差しの中、警備に守られて門をくぐると、遠くから手を振るランスの姿が見える。


「お姉様、愛しのランス様がお待ちよ」

「朝から恥ずかしいわ。ローズも一緒に行かない? 」

「嫌よ、今日はカインと約束してるもの」

「カインって、フォンティーヌ公爵家の? 」

「そう、色目使ってくるから付き合ってあげてるの。(くらい)低いし、まぁ……8人目かな」

「もう、程々にしないとまたお父様に叱られるわよ」

「だって条件いいのと結婚したいじゃない。お姉様はランス様と仲良くね」


 とても名家のご令嬢とは思えない発言を置いて、ローズはカイン様の元へ駆けていく。


 (大丈夫かな……)


「どうしたの? 」


 歩いていくカイン様とローズを眺めていると、背後からランスの声が。


「ランスったら。後ろから声を掛けるなんて驚くでしょ」

「ごめんごめん、いつも優雅な君を驚かせてみたかったんだ」


 整った顔立ちにモデル並みのスタイルで人気のランス。普段は公爵家の看板を背負い気品に満ちているけれど、私の前では子供っぽい一面も見せてくれる。


 そんな所が、とても愛おしい。


「少し、歩こうか」

「えぇ……」


 彼の手を取り、はにかんでゆっくりと歩き出す。


 繋いだ手の温もりに心ごと抱きしめられている気がする。世界はこんなに優しくて、暖かくて、輝きに満ちていると教えてくれたのは、お金でも地位でもなく、間違いなく彼だった。


 出逢った10歳の頃、美しく天使のようだった横顔はいつの間にか凛々しく、(たくま)しく成長している。


「どうかした? 」

「ううん、ちょっとね……昔を思い出したの」

「昔? 」

「うん、小さかった頃のこと」


 言葉を交わしながら校舎の裏手にまわり、ひっそりとした道を二人で歩く。木々や草花が多く、ふわりとハーブの香りがするこの小径(こみち)は、私が好きそうだからと彼が見つけてくれたお気に入りの場所。私達はいつもここで2人の時を過ごしながら、上級学年の校舎に行っていた。


「幸せだよ、俺は。この先もリリーとずっとこうしていられるんだから」

「私も幸せよ」


 ランスから愛を告げられたのは、この小径(こみち)だった事を思い出す。


 学園に入ったばかりの10歳の秋のこと。まだ親しい友人だった私達の関係は、彼の……恋人になってほしいという言葉で変わった。


 舞踏会で見た大人の仕草を真似て、まるでプロポーズのように。


「生涯、大切にします」


 誓ってくれた日のことは……きっと一生、忘れられない。


「ここで誓ってくれたこと、とても嬉しかったわ」

「僕も……」


 手を引かれて木陰に隠れ、そっと……。


「愛してるよ、リリー」

「私も……愛しているわ、ランス」


 例え今夜、プロポーズされなかったとしても幸せで、愛しくて、満たされていた。

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