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38.謝罪の夜会で、私はすべて終わらせる


 怯えて声を震わせるローズに貴族達の注目が集まる。


 席を立ち、上座から降りる。


「私は、そのような事に立場を使ったりしないわ」

「嘘よ!! 」


 広間全体に、ローズの声が響き渡った。


「ロ、ローズ……何でもいいから一言謝罪しなさい」


 この場を収めようとするランスのお父様に急かされて、ローズが覚えたような言葉をとつとつと語り始める。


「本日は皇太子妃様に謝罪を……申し訳ありませんでした。お姉様が得たがっていた場所を奪ってしまい……完璧で優秀なお姉様を壊してしまった事、反省しています。ですから……もう嫌がらせはやめてください」


 空気が揺れ、会場がざわつく。


「私はいいのです……でも…ランス様のお仕事の邪魔だけはなさらないで……」


「嫌がらせ? どういう事だ」

「確か二人は交際していたはず……奪われた腹いせか」


 思うままに周りを巻き込んで……驚くべき謝罪の言葉にまた夜会が壊れた。


 いや、この為の夜会だったのかもしれない。


「やっと……ランス様と結ばれたのです。密かに温めてきた愛を……ランス様は受け止めてくださいました」


「嘘泣きを止めろ、ローズ・バチェット! 」

「そうだぞ! 婚礼の儀式で確かに見た、この女が豹変し、皇太子にシャンパンを掛けたのを! 」


「やめろ! これ以上、私のローズを傷つけるな! 」


 どこからか叫ぶ貴族、そしてランスが前に出た。


「仕方なかったのだ。彼女には誰一人として理解者がいなかった。完璧で優秀な姉と比べられて……ずっと苦しんできたのだ」


「ランス様……」


 会場が、しんと静まり返る。


「お姉様は……完璧主義で冷たくて……側にいた私とランス様は同じように苦しんでいたのです……私はお姉様に遠慮してランス様とお話しするのは避けてきたのですが、ある夜、舞踏会で……ひっそりと泣く私に……ランス様は寄り添ってくださいました」


「あぁ、確かに私はリリーと長く交際を続けてきた。だが男心の分からぬ所があり、どうしても分かり合えないでいた。その寂しさをローズが埋めてくれたのだ」


 紡がれていく、身勝手な二人の愛の物語。


「リリー。君には悪いが、私はローズを選んだ。だからもう、邪魔をするのは止めてほしい」


「ランス様の妻の座も、子供も、このお屋敷も……お姉様が欲しがっていた物を独り占めしてしまって、申し訳なく思っているわ。でも選ばれたのは自分でなくローズなのだと受け入れて、妬むのはおやめください」


 理想の世界の中で、現実を直視できない……長かった二人の劇は終わったようだ。


 言いたいことを言って満足したのか、沈黙が続く中で二人だけどこか満足げにも見える。


「そう……」


 皇太子妃である事を、忘れてはならない。バッカス様に恥をかかせるような事も。


「他には? 言いたいことはそれだけかしら」


「は!? 何その態度」


「皇太子妃にまでなると偉くなるもんだな。虫も殺せないような顔して、それが本性か」


「そうね……」


 広間を見渡すと貴族達がこっちを見ている……あの皇帝陛下も。


「確かに私は皇太子妃として招かれてここにいるわ。何万もの国民や国王様、そして皇太子様の事を思うと、うかつな事は言えない立場で、それが恐ろしくもある」


 人質として、何もかも失くして追い出された国に帰ってきた……懐かしい顔が揃う中で、父様や母様の姿は見えない。


「でも、もし許されるのなら……この夜会での発言は、亡きリリー・ロレンスが一夜だけ蘇ってきたものとして、聞いてほしい」


 再び、広間がざわつき始める。


 もう忘れていた者もいたのだろう。かつて大公爵家の令嬢が犯罪者のごとく追放されたこと。


「二人が幸せでよかったわ」


 微笑みが生まれた。


 側にいられない時も心は共にある。ただ一人の家族として……良き理解者として。


 今の私にはバッカス様がいてくれるから。


「そう……結婚して、お屋敷を建てて、子供も無事に産まれたのね。名前は何て言うの? 」


「お、教えるわけないでしょ!! 何されるかわかったもんじゃない」


「ジャスミンだ。私とローズによく似ている」


「そう……信じているのね」


「当たり前だよ。誰もつけ入る隙などないさ」


「それを聞いて安心したわ。お互い政略結婚だもの……よく知らない相手とやっていくのは大変な事よね」


「ちょっと、私の話聞いてなかったの。私達は愛し合って結婚したの。所詮、人質の、愛されてもいないあんたとは違うのよ」


「そうね……私達は天秤に掛けられ、そしてローズが選ばれた。バチェット家の将来と自らの出世の為に必ずロレンス家のどちらかと結婚するように……そう言われて」


「え……へ、変な事言うのやめなさいよ。私が幸せそうに暮らしているからって」


「幸せそうには見えないわ。本当に幸せならこんな事、企む必要もないはずよ。私を亡き者にする為に隣国に刺客まで送るなんて……あなたが毒に詳しいなんて、全く知らなかったわ」


「お、おい……毒って何だ」

「刺客だなんて……陛下はご存知なのか」


 静かに成り行きを見ていた貴族達が再び騒ぎ、ざわめく声が響いている。


 (スープ……まさかね……)

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