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25.皇子妃の正体


 そして婚儀の日。


 招かれた国賓達は宮殿の大広間に集められていた。


「第四皇子に皇子妃となる御方も……一体、どんな御方なのかしらね」

「聞く所によると、冷酷で残忍な男だそうだな」


 もちろん、リリーの妹だったローズとその夫ランスも、広間の最も入口に近い辺りで座席も用意されず不満げな様子で。


「フン…どうせまともな男じゃないさ。野蛮で乱暴で歴史も知らぬ愚か者。本来なら我等に(ひざまず)いて命乞いすべき立場だと言うに」


「ランスの言うとおりね。由緒正しい私達貴族を末席に追いやるなんて、今日のあなたはこんなにも(うるわ)しいのに」


「ローズ……君こそ大丈夫かい? 身重の君に何の配慮もなく立ち見だなんて……そんな相手のご機嫌を取らなければならないのは気が重いよ」


 共に暮らし、すっかりローズに似合いの男になったランス。


「まぁ、そんな事を言ってはだめよ、ランス。私とこの子の未来の為に成功させなくては」


「そうだな。陛下にも必ず口説いてこいと言われているからな……」


「大丈夫よ。最上級のルビーととっておきの贈り物を用意したんだから。きっと成功するわ」


「皆様、ご静粛に! 」


 響き渡る声、一斉に場が静まる。


「ただいま、誓いの儀を終え正式に夫婦となったお二人がご到着されました。本日、ご婚儀を挙げられたバッカス皇太子は四男ながら類稀(たぐいまれ)なる才覚をお持ちで、その人徳と気品から表の場に立たれる事をこれまで控えてこられましたが……」


「司会め、ずいぶん引っ張るな」

「本当よ、早くしてくれないかしら。お腹が空いてきてしまったわ」


 厳かな雰囲気、皆が傾聴する中でこそこそと……そして二人は大事な所を聞き逃してしまった。


「それでは皆様、皇子御夫妻が入場されます。拍手でお迎えを!! 」


 扉が開き、どこからか白い花びらが舞う。楽隊の流れるような演奏に合わせて華やかに揺らめくドレスの裾が垣間見える。


「なんとお美しい姫君なのでしょう」

「皇子も……凛々しく麗しい」

「これはこれは、国王はとんでもない逸材をお隠しでしたな」


 周囲の声、豪華なドレスに身を包んだ花嫁が一歩、また一歩と近づいてくる。



 紅茶色の髪、儚げで清楚な……



「……リリー? 」



 気付いたランスの時が止まり、その背後でローズがランスをキッと睨んだ。




 誓いの儀式に披露宴、全ては滞りなく進んでいた。


 “初夜が済めば、あの医師とメイドは解放してやる”


 誓いの儀式の前、国王からそう言われた。


 “いつ如何なる時も共に歩み、互いをいたわり生きる事を神に誓う”


 誓うかと同意を求められる事もなく用意された指輪をはめられ、見知らぬ人と夫婦になって……複雑な感情はあるけれど、恩人の命が救われた事に少しだけ肩の荷が降りたのも確かで。


 (仕方ない……人質だから……)


 第四皇子とは言え正妃、代わりが見つかれば首をすげ替えられるのか、策略めいた何かがあるのかわからないけれど。


 今は妃としての役割を、しっかり果たすしかない。


「本日は、ありがとうございます」


 控えめに笑みを浮かべ、皇子と共に招待客に挨拶をして回る。


 流暢に話す横顔。


 普段は無口で私とはほとんど口も聞いてくれないけれど、慣れないドレスでうまく歩けない私に合わせて、ゆっくり歩いてくれて。


 (優しい人……なのかも……)


「疲れたか」


「あ…いえ……」


 ふと二人になった時、彼がこちらを見た。


「殿下は…お疲れではございませんか」


「……疲れた。酒でも飲むか」


「お好きなのですか? 」


「あぁ……少し待てるか」


「はい」


「隅へ寄るか」


 (やっと……話しかけてくれた……)


 彼に伴われて人の波から外れると、衛兵にしっかり守れと言い残して、彼はお酒を取りに行った。


「ふぅ……」


 どこから見られているかわからなくて姿勢はまだ崩せないけれど、少しだけ緊張から解き放たれる。


 あと少し……どうか何事もなく済んでほしい。



「本当……だったんだな」



 懐かしい声、驚いて頭を上げる。


「エラン……!? 」


 そこにいたのは、貴族らしい正装に身を包んだ……エランだった。


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