24.婚儀の報せ
「お妃様、お目覚めください」
翌朝、まだ薄暗い暁に起こされた私は、されるがまま慌ただしく部屋を出た。
これから十日後に行われる婚儀の日まで巡礼の旅に、国内各地にある12の神殿を巡り拝礼の儀式を行うらしい。
「日、雨、月、星、地、風、草木、花、水、火、時、音……我が国の信仰に則り、王族として万物の神を代表する12神に結婚を報告し、縁に対する感謝と子孫繁栄を祈っていただきます」
籠の中で侍女から儀式や作法について教わり、日の神殿へ。
冷水を浴びて身を清めると白い装束に身を包み神殿内部へ。祭壇があるのだというそこは扉も壁もない古びた屋根と柱だけの場所で、吹きすさぶ風がとても冷たい。
(寒い……)
祭壇前で同じような白の装束を着た第四皇子様に会ったけれど、寒がるわけでもこちらを見るわけでもなく、ただ静かに祈りを捧げている。
(すごい……)
流れるように美しい身のこなし、祈りを捧げるその姿はどことなく神聖な雰囲気が漂っていて、無骨で乱暴そうに見えた昨夜とは別人のよう。
(合わせないと……)
手を合わせ、膝をついて頭を下げる……儀式の動作は二人で息を合わせないと成立しないと教えられた。言葉はないものの、何となくリードされている気配を感じながら、何とか最初の神殿での儀式を終えた。
「次は雨の神殿へ移動いたします。清めの儀式を滝で行い、拝礼の儀の後には宿場へ。そちらで婚礼衣装の採寸と髪結いとのお打ち合わせ、湯浴みの儀、共食の儀……」
メモが欲しくなるほどの情報量とスケジュールに目が回りそうになる。
(本当に……結婚…するんだ……)
昨日まで名前も知らなかったような人と。
(きっと……何かあるんだろうけれど)
他国から来た人質を権力者の妻にするなんて、この国の王が何を考えているかは分からないけれど、考えても仕方ない。
ただ命を握られている身としておとなしく従う、それしか私に道はなかった。
運命に翻弄されるリリー。その間にも婚儀の報せは周辺諸国を駆け巡り、初めて明らかにされた第四皇子の存在と共に、各国の首脳陣を大きく騒がせていた。
中でも妃となる人物の情報は徹底的に秘されており、他国の人間という噂だけが広まった為、自国の人間か確かめようと皆、躍起に……そして。
「我が国の人間か、そうでなくても構わん。ダイヤでも持っていって口説いてこい」
「かしこまりました。そのお役目、謹んで承らせていただきます」
「婚儀は妻同伴だ。身重である事は伝えてある」
「ですが妻は……私一人で」
「必ず連れて行け」
リリーのいた国でも、皇帝であるレオナルド23世が新たに臣下となったランスに、第四皇子の妻の心を掴んでくるようにと命を下していた。
「いいか。必ず口説いてこい。どんな手を使ってでも必ずだ」
「はっ」
まさか第四皇子と結婚するのがリリーなどと夢にも思っていないランスは意気揚々、屋敷に帰るとローズを呼んで婚儀への出席を伝える。
「宝石かドレスか、とにかく一級品を用意してほしいんだ。お金は多少かかっても構わないから」
「わかったわ」
「はぁ……」
「どうしたの? 」
「それが、陛下に必ず妻同伴でと言われてしまってね。道中、何があるかわからないから身体に障りがないか心配でね」
「ありがとう、ランス……心配してくれているのね」
「当たり前だろう、大事な妻と我が子の命がかかってるんだ」
「私なら大丈夫、陛下が任せてくださった初めてのお仕事ですもの。一緒に成功させましょう」
「あぁ……幸せ者だな、私は」
「ふふ、どうしたの、いきなりそんな事」
ローズは未だ優しくて大人しい、健気な妻を演じている。双子の姉リリーを真似て、かつて彼女がしていたように。でもその心根はリリーが到底思いつかないような黒さを持っている事を、夫のランスはまだ知らない。
「そうだわ。とっておきの贈り物があるの、父に用意してもらいましょう」
きっとお妃様も気に入るはずと笑みを浮かべ、お腹を撫でた。
婚儀の日、三人は再会する。




