19.同類
「申し訳……ありません…」
真夜中、目を覚ましたエランはかすれた声で呟いた。
「謝るような事じゃないわ。私の方こそ……こんなに熱があったのに、気づかなくてごめんなさい」
「たいした……事ではないのです……少し、寝不足が祟っただけで…」
そして、また無理に起き上がろうとしてふらついて。支えようと咄嗟に手が出るけれど体重に負けて……支えられず崩れていく。
こんなになるまでどうして……何がそこまで彼を追い詰めているのか、胸が締めつけられるように苦しい。
「まだ寝てなきゃだめよ。今晩はここで休んで」
「ですが、リリー様が…」
「私なら大丈夫。もう充分してもらったわ。そんなことより、こんなになるまで…何日寝ていなかったの」
「え…と……3日……いえ、5日ほどでしょうか」
「5日…どうしてそんなに……」
「調べたい事が…あったもので……ある薬草が…傷んだ消化器の粘膜を回復させるかもしれないのです。食べられる物も増えますし、きっとお気持ちも…ゴホッゴホッ」
「エラン……」
「ですが、どうしても生息地が…わからず……」
「それで、5日も徹夜を? 」
「あと少しなのです……気になって眠れな……」
言い終える前に、エランは力尽きたように眠った。
月明かりに照らされる白い肌…
鼻筋の通った…彫刻のような顔立ち……
彼がどこの誰なのか、私は何も知らない。そして彼も、私を知らないはず。
けれど、確かに“ごめん”と……この世界のどこにも存在しない日本の言葉で、うなされていた。
無意識か……それとも記憶が残っているのか……少なくとも彼は私がこの世界で初めて見つけた初めての“同類”かもしれない。
でもまだ、聞くべきではないだろう。
この熱が下がり、しっかりと回復するまでは。
そして私も、その間だけ生きる意味を得る。
ここまで身も心も砕いて尽くしてくれた人の回復を、少しでも手助けする事が出来たのなら……それは、あの事があってから初めて私の中に生まれてきた“生きる意味”だった。
そして、私の奮闘が始まった。
「はぁ…はぁ……」
「リュリュェ様、ーーーーーーーーー」
「大丈夫、大丈夫だから……」
「ーーーーーーーーー、ーーー(日が暮れてしまいますよ、持ちます)」
「あ……」
寝付いていたことで衰えた肉体は思うように動いてくれずにすぐ疲れてしまうし、まともに歩くことさえできないから水の入ったバケツを運ぼうにも長い階段の半分にも辿り着けない。
「何かできる事はありませんか? 」
「ーーーーーー、ーーー(私たちがやりますから、お部屋へ)」
更には言葉の壁も手伝って、何か調べようとしても何が書かれているのか理解できなくてエランの眠るいつもの部屋へ連れてこられてしまう。
無気力になり、生きる事から遠ざかった結果、いつの間にかこんなにも弱ってしまっていた。
「だめね……結局、何の役にも立てない」
涙でエランの顔が滲む。
転生し、恵まれた暮らしを送った結果、私はあの頃の私が当たり前にしていた事さえ出来ない。
お金も、自転車もスマホもない、勉強もできない自分は弱く、何もできない役立たずだと思っていたけれど。
今の私の方が弱く、明らかに役に立たなくて。
結局、たいした診断も治療もできないままエランの熱は下がり、回復していった。
「寝不足から風邪を引いてしまったようで……ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
そう言ってエランは地下の自室に戻っていき、メイド達によって整えられたベッドでまた私は横たわる事になった。
このままでいいのか……
ふいにそんな言葉がよぎる。
横になり、ぼんやりと空を眺めて毎日が過ぎていく。
確かに痛みは感じないし、動けば足も腰も腕も痛いけれど。
ベッドから降りて、立ち上がった。
5階ほど階段を下りていけばメイド達の仕事部屋がある。
そこで何かさせてもらおう。
洗濯でも掃除でも……動いていれば気も紛れるし、時間もきっと早く過ぎる。そうして自分の足で王のもとへ、殺されに行けばいい。
自分の足で、自分の言葉で。




