1.公爵令嬢リリーとして
それは最後にして最幸の転生。
幼い頃はよくわからないまま姫様と呼ばれていたから、どこかの王国のお姫様だと思っていたけれど、どうやらこの世界では名家のご令嬢を姫様と呼んだりするらしい。
いわゆる王の娘という意味ではなかったけれど、貴族の中でも特に力のあるロレンス大公爵家の令嬢に転生。前の世界より明るく柔らかい空に見守られ、すくすくと育っていった。
公爵という立場であるお父様は厳しい人と有名だったけれど娘思いの優しい父で、公爵夫人として日々慈善活動に励むお母様も、父と仲が良くて私達の事をよく考え愛してくれる、尊敬できる母だった。
双子の妹のローズは、父様と母様は厳しくて欲しい物を買ってくれないとよく拗ねていたけれど、ひどい親を知っている私にとって、それが親の愛情だということを知っていたから苦に思う事はなくて、妹のわがままさえも可愛く思えた。
そう、あの兄貴を思ったら……ちょっと奔放でハッキリ物を言うタイプだけれど、まだ可愛い。ちょっとした憎まれ口もむくれ顔も、それが小悪魔的な魅力になって可愛らしく男女関わりなく人気があったから、私が舞踏会デビューで緊張した時も、学園に入って人見知りでなかなか友達が出来なかった時も、いつも側で助けてくれた。
“神様、ありがとうございます”
素晴らしい家族とお金に不自由なく好きな事ができる環境に、私は心から感謝していた。
それらは自力で手に入れられるものではない。
産まれた時に、すべて決められているという事を前世で身をもって経験したから。
そして、それさえあれば多少の苦難も試練も致命傷とはならず、必ず救いの手が差し伸べられるものだと、考えるようになっていた。
不条理で理不尽、でもそれが現実。
「リリー様は、素晴らしい御方ですわ。厳しいご令嬢教育にもめげずに挑戦なさって」
「私達使用人にも分け隔てなく優しくしてくださるもの。家柄だけでなく徳も備えていらっしゃるのね」
前世の記憶が保たれているのは、この為だったのかもしれない、とも思った。実際、皆が嫌がる所作のご教育も、頭に重い本を乗せて歩くのを嫌がる子が多いと聞いていたけれど苦労だとは思わなかったし、好きなだけ本を読む事も屋敷にいながら広い世界を知ることが出来て嬉しかった。
水仕事で手が荒れたメイドを見れば、涙が出るほどその痛さが身に沁みたし、人が人を使うなんて、本来あってはならないことだと思えた。
それだけが心の痛い事で、私にはどうする事もできないと憐れみながら、心のどこかで責めていた傍観者達と同じでいるしか……ない事だった。




