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17.なぜそこまで……


「エラン様」

「はい」

「私をここから出してくださいませんか……それか、王の所へお連れください」

「王様の所へ……ですか」

「はい」


 ペンを走らせていた手を止めて、私を見る目に向けて頷く。


「なぜ私を生かすのか伺いたいのです。私はこの国に有益な情報など持っていませんし、生かす事で利になるほど重要な人物でもありません。そして何より、死を望んでいます……エラン様や、彼女達の手を煩わせる事なく死ぬ道を」


「そのような事を……お考えだったのですね」


「はい」


 エランは、感情を表に出さない人物だった。仕える側の人間にとってそれは当たり前なのかもしれない。思い返せば屋敷にいた執事達も下働きの者達も……サラ以外のメイドも皆そうだった。


 仕事に心動かさず、喜びも悲しみも驚きも、決して表には出さない。


 それが物足りず、また怖くもあって……あの頃の私はサラとばかりいた。


 そして今も、コロコロと表情を変え反応してくれたサラが懐かしくなっている。


「かしこまりました……私の力では足りないかもしれませんが、王様とお話できる方を一人、知っておりますので……努力してみます」


「お願いします」


 これで、楽になれるかもしれない。


 私が無用な人物だとわかれば王は私を殺すだろう。民衆の前で八つ裂きでも構わない。このまま世話をかけ続けて唾液や排泄物を垂れ流して死んでいくよりは。


「ですが、その為には自分の足で立ち、歩いてその場に行かなくては。そして、お言葉の学びも。通訳を介せば自分の言葉ではなくなります。発言が曲げられることも」


 言い返せなかった。


「誰も信じられなければ……自らやるしかありません。自ら学び、自ら動く事で見えてくるものがある。私はそう考えております」


「強い御方なのですね、エラン様は」


「いえ、強くなどありません。残酷な事を申し上げているのも……よくわかっております」


「でしたら……その時はあなたに通訳をお願いします。気力が湧かないのです、頭ではわかっていても」


「人質が生かしてくれと言っている、私がそう王に伝えたら……とは考えないのですか」


「そうする理由がありません」


「わかりませんよ……あなたには見えない利が潜んでいるやも」


「私を生かす利など、ありません」


 エランは食い下がってきた。思いがけず始まるやりとりに私もムキになってしまう。


「リリー・ロレンス様」

「その名で呼ばないで。私はもうリリーでもロレンスでもない」

「いえ、あなたはリリー・ロレンス様です。誰が何と言おうとあなたについた名が消える事はないのです」

「既に剥奪されたのです、私に名前など」

「だとしても、私にとっては隣国より遣わされた大事な御方であり、守るべき人なのです」


 なぜそこまで言うのか、私には理解できなかった。


 縁者でも長年の従者でもない、それなのに私を守るだなんて。


「無礼を承知で言わせていただきます。人生の大事な局面を、どのような形であれ他者に(ゆだ)ねるべきではありません……これは、誰の人生でもない貴女様の人生なのですから」


 いつもとは違う、きっぱりとした口調と正しい言葉を突きつけられてそれ以上、何も言えない。


「申し訳ありません。出過ぎた事を申しました」


 いつものように軽く頭を下げて出ていこうとするエランと、通り過ぎていく姿をやり過ごそうとする私。


 ドタン!


 背後で大きな音がして振り返る。


「エラン様……? 」


 うずくまるように横になる姿。


「エラン様、エラン様!! 」


 ベッドから転げ落ちるようにして側に寄り肩に触れる。


「エラン様、返事をしてください! 」


 誰も来ない部屋で、反応のない抜け殻のような身体に触れ、ずっと呼び掛けを続けた。

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