12.薔薇の本性
この日、二大公爵家の婚儀に国中が沸いていた。
「おめでとうございます!! 」
「おめでとうございます!! 」
会場となったロレンス大公爵家には多くの貴族が集まり、若い二人に祝意を述べる。
白い薔薇で飾り付けられ、白い羽根の舞う中、3階バルコニーから手を振る二人は白い衣装に身を包み、時折見つめ合ったりしながら幸せそうに手を振っている。
「大丈夫かい? 辛くなったらすぐ言うんだよ」
「ありがとう……私、あなたに大切にしてもらえて、今とても幸せなの」
「ローズ……」
リリーを愛していたはずのランスは、切なげにローズを見つめ、今は心から彼女の事を愛しているように見える。
「ランス様、ローズ様、移動のお時間でございます」
「わかった」
バルコニーでのお披露目の後は広間での盛大な祝賀パーティー。ここはローズとランス、そしてリリーの運命が大きく動いた思い出の場所。
「もし、あの日がなかったら……苦しい日々がずっと…続いたのでしょうね」
儚げな微笑みを浮かべ、お腹に手を当てる仕草は、とてもあの奔放なローズと思えぬほど、しおらしく男の庇護欲をそそる。
「ローズ……反省しているよ。悪かったと思っている」
「もういいの。あなたは何も悪くないんですもの」
「いいや、二人の一番近くにいながら私は何もわかってなかった。しとやかで行儀のいいあの笑顔に、騙されていたんだ。そして君の哀しみにも……気丈に振る舞う明るさの内に秘めた心を、見つける事ができなかった」
上質な深紅の絨毯が敷かれた道を歩きながら、二人は心を通わせる。
ランスは繋ぐローズの手に優しく力を込め、気づいたローズも握り返す。
白い薔薇の花びらが幾重にも重ねられたドレスは、変わり始めた体型を隠し、守るように身も心も飾り美しく見せ、リリーより派手な顔つきのローズに優しげな雰囲気を足している。
「もうやめましょう、今日はおめでたい日ですもの」
ローズはまるで少女のように、ランスに微笑みかける。
「あぁ、そうだな。今日は二人の始まりの日だ。幸せにするよ、お義父様のように偉大な政治家となって」
「無理しないでね、私はあなたとこの子がいてくれればそれだけで幸せよ」
ランスとローズは結ばれ、ローズのお腹の中には新しい命が宿っている。順番が違うと当初は激怒した父親も、母になだめられて体裁が収まると、孫の誕生を待ちわびるように。
「一時はどうなる事かと思ったが、うまく収まった」
「いやはや、情けない事に何とお詫びすればよいか。ローズ嬢にも、大変悩ませてしまいましたな」
「まぁ、よい。こうして無事収まり我等の結束もより強固なものとなった。これからは家族として、共に支えあおうぞ」
「心強いお言葉。次は、ロレンス大公の時代ですな」
下品に笑い合うローズとランスの父親は目論見通り、互いの子供達を結婚させる事で権力がより強化されたと喜んでいる。
隣国の皇帝が睨む通り、リリーとローズの父、ロレンス大公爵は現大公とソリが合わず、大公の座を狙っていた。子供と民を想う慈悲深き宰相という仮面の内に、欲深き本性を隠していたのだ。
この結婚は国中の貴族を全て従える為に、実際嫁に行くのがリリーだろうがローズだろうが、どうでもよかった。
そして、愛も地位もすべて手に入れた娘のローズも。
「ちょっと!! 早く足揉みなさいよ!! 」
長かった祝宴が終わり、ランス達が帰るとすぐに演技をやめて部屋でメイド達に当たり散らす。
「もっと優しく揉みなさいよ。大事な私の身体に何かあったらどうしてくれんのよ。あんた責任とれるの!? 」
さながらヤクザのような迫力で脅しつけ、怯えるメイドに本を投げて。
「ったく、どいつもこいつも気が利かないんだから。おっさん達の挨拶は長いし、料理は冷めてまずいものばかりだし…だいたい今日のあれは何よ。私の好きな物が何一つなかったじゃない。ローストビーフもキャビアもスモークサーモンも。あんた、ちゃんと伝えたんでしょうね」
「は、はい……ですが、どれも母体には悪影響だと言う事でメニューが変更されたのです」
「は!? 私の命令が一番でしょ、誰よ、そんな事言ったの」
「それが…大公爵様の御命令でして……」
「はぁ~……ほんっとに、あいつがいなくなったと思ったら今度は父親かよ、鬱陶しい……まぁ、いいわ。私の屋敷では私が一番偉くなればいい。その為に、今から根回ししておかなきゃね」
意味深に、何かを企み笑うローズの本性を知る者はまだ誰もいない。




