9.まるで死刑囚のように
どれだけ泣いても現実は何も変わらなかった。
自ら命を絶とうにも、はめられた枷が邪魔をして、自由に身動きを取ることも出来ない。
そうして涙も枯れ果てて何日か経った頃、突然身を清めるから外に出ろと言われ、その日が来た事を知る。このまま生贄になるしかない。
無力で、惨めで情けなかった。
冷やした水を頭から浴びせられ、凍えそうになりながら身なりを整えられる。髪はおろしたまま、白い装束を着せられて。
「最期に言い遺す事はあるか」
まるで、死刑囚みたいに……私の最後の転生はこんな風に終わっていくのだろうか。短い人生を、前世で味わえなかった上流階級に生まれるという経験だけして。
それならいっそ、何も知らないままの方が良かった。
何か重い病気にでもなって、愛着あるあの部屋のベッドで横たわり、愛しい人と家族達に看取られて逝けたなら、たとえ人生が短かったとしても、文句はなかっただろう。
その後、もしランスとローズが結ばれたとしても、きっと祝ってあげられた。
まさか、隣国の得体もしれぬ化物に喰われて死ぬなんて。
「ないなら乗れ」
木の檻に入れられて鍵が閉められる。
「サラを……私の世話をしてくれていたメイドのサラという者がおります。その者を冷遇せぬよう、父にお伝えください」
届くかわからない遺言を絞り出すと、檻を引く馬がゆっくりと動き出す。
「供物様、万歳!! 」
「供物様、ありがとうございます」
「これでこの国は救われます」
通りに出るとお祭りのような雰囲気で賑わう中、民衆が集い国旗を振って私が死ぬのを喜んでいる。
人を喰らう化物なんているわけがないのに……皆、私が死ねば国が救われると本気で思っている。
(お前が死ねば……お前さえいなければ……)
私はどれだけ生まれ変わっても同じなのだと、教え込まれた気がした。
(神の加護も、産まれた境遇も……全部このため……)
山を越え、川を渡って、私を乗せた檻は隣国の兵士に引き渡されて、ロレンス大公爵家の令嬢リリー・ロレンスは、ただの供物となった。
深い森の中を進み、そのまま化物の所へ連れて行かれると思ったら、賑やかな所へ出て、どこかの屋敷の牢に入れられた。ベッドが一つ置かれているだけの湿った空間。
手が届かないほど高い窓から陽の光が筋となって入る。窓には鉄格子がはめられていて、その景色は前世、よく叱られていたあの部屋を思い出させた。
小さな部屋で、ティッシュの箱を投げつけられながら……自由になりたいと願った空。
流れ続けた涙もとうとう枯れ果て、もう出てくる事はない。ただ何もせず一点を見つめ、殺されるのを待つだけの日々。
「ーーー、ーーーーーーーーーーー…」
「ーーーーー!! ーーーー!! 」
「ーーー!! ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!! 」
朝と夜、メイド服を着た女性が二人くらい入ってきて、食事を置いていく。何を言っているのかもわからない異国の言葉、きっと私を責めているんだろう。
浮かんでくるのは幸せだった……あの頃の暮らし。
お父様、お母様も……優しかったのにどうして……ローズも私も分け隔てなく大切に育ててくれていた。婚約が決まった時だって喜んで食事会を取り決めてくださって……。
「二人は似合いの夫婦だなぁ、リズ」
「えぇ、身を固める事で互いに勤めに励めるのなら良いことです」
あの時はランスの隣に間違いなく私がいて、ローズは機嫌良さそうに好物のキャビアを食べていたのに。
二人の間には子供が……一体いつからの仲だったんだろう。
私の隣にいながら、ランスはローズに惹かれて……お父様は人でもなく供え物としてしか、私を見ていなかった。
私は誰からも愛されてなど……いなかった。




