第63話 持っている武器
「あ、あれがクリムゾンドラゴンか……」
「深紅の鱗に巨大な身体……。すごい、あれがドラゴン……」
騎士団の者と共に巣があるという丘の上へ移動してきた。巣にドラゴンはいなかったので、少し離れた大きな岩陰で騎士団の者たちと共にしばらく身を隠していると、幸い1時間ほどでこの巣の持ち主であるクリムゾンドラゴンが姿を現した。
今の我の身体の10倍以上ある大きな体躯、手足の先には鋭く鋭利な鍵爪、真紅の鱗に純白の巨大な翼を上下させて空を舞う。騎士団の者の多くはドラゴンを初めて見るようで、驚きの声を上げる。数人は足が震えているようだ。
「アルテリアはドラゴンと戦った経験はあるのか?」
「……いや、ドラゴンと戦ったとこはない。だけどあれくらい大きな魔物となら戦ったことがある」
「そうか、ドラゴンはあの巨体に似合わず素早く動く。空を自在に飛ばれると非常に厄介だから、まずは翼を狙うといい。それとドラゴンの攻撃で一番怖いのはブレスだ。それだけは絶対に喰らうなよ」
「おう!」
どうやらルーカスはドラゴンと戦った経験があるようで、アルテリアに助言を与えている。
アルテリアは戦った経験がないようだが、臆している様子はなさそうだ。ずっとソロで森へ入り、孤児院全員を養っていたこともあって、それなりの修羅場はくぐってきているのだろう。
「だ、団長、本当に一人で戦わせるつもりなのですか……?」
「もちろん最初だけだ。状況を見てすぐに我々も加勢する。すでに説明したが、お前たちもブレスには気をつけろ。ゼノン様、それでいいですね?」
「ああ。いざとなれば我も助力するし、怪我をしてもミラがいる。即死攻撃だけは気を付けるのだぞ」
「りょ、領主様自ら……。それにミラ様がついていてくれるのならば勝利は約束されたも同然だ!」
「ああ、ミラ様にいいところを見せねば!」
騎士団の士気が上がっていく。本当にミラの人気はすごいものだな……。
「よっしゃあ、行ってくるぜ!」
「ちょ、ちょっと待て、まさかその剣でクリムゾンドラゴンに挑むつもりか!?」
「ああ。これしか持ってねえんだよ」
アルテリアがロングソードを抜き、いざクリムゾンドラゴンへ挑もうとしたその時、ルーカスがアルテリアを引き留めた。
それまでアルテリアを一人で行かせることに反対しなかったということは、アルテリアがそれなりの力を有していることを見抜いていたのであろう。だが、さすがにそのボロボロの刀身を見て引き留めざるを得なかったようだ。
「……この剣ではクリムゾンドラゴンの鱗を貫くのは不可能だな。それによく見れば、その防具も素材はある程度まともな物を使用しているが、どこか不格好だな?」
「魔物の素材を使って俺が自分で作ったやつだから仕方ねえだろ」
「「「………………」」」
アデレア国では勇者の孫として犯罪者のような扱いを受けていたこともあり、まともな武器や防具を店で手にすることはできなかったのだろう。剣の方は大金を積んで得たのかもしれぬが、鍛冶屋で手入れさせるのは無理だったのかもしれぬな。
騎士団員たちもこれには絶句していた。
「さすがにそれで挑むのは無謀であろう。ミラ、あれを」
「……はい、承知しました」
ミラがガルオンの背に乗せて持ってきた荷物の封を開け、それを我に手渡した。
「なっ、この剣は!?」
「ま、まさかこの剣は!」
剣を受け取ったアルテリアとルーカスが驚く。さすがに2人ともこの剣のことは知っているようだな。
「な、なんでここに聖剣があんだよ!?」
「やはりこれは昔勇者が使っていたという古代の遺物。確かアデレア国が保持していたと聞いていたが……。そういえば、アデレア国と協定を結んでいたと言っていましたな! まさか聖剣を借り受けることができたとは!」
この聖剣はもちろんアデレア国のルシアスが持っていたものを戦利品として奪ったものだ。アルテリアには先の戦いの経緯については説明をしたが、聖剣のことについてまでは話していなかった。
ルーカスや他の騎士団員にはアデレア国と協定を結んだことは伝わっているようだ。まあ、一応対外的には借りていることになっているからある意味では正しいのか。本来であれば国同士での貸し借りなどできない代物なのだがな。
「アルテリアの祝福を以前聞いていたゆえ、一度試させようと思って持ってきていた。まさか持っている剣がそこまでなまくらだとは思ってもいなかったぞ……」
以前我がアルテリアにクリムゾンドラゴンの討伐の話を持っていった際に信頼の証ということで、アルテリア自ら自身の祝福を我に告げてきた。
その祝福は『聖騎士』。人族の中では希少で有能な祝福であるとユルグから聞いている。そしてこの者の祖父が授かった『勇者』の祝福ほどではないが、この聖剣と非常に相性の良い祝福のようだ。




