第56話 魔族とは
「……なるほどな。あんたに負けたことを知られないためにそんなでたらめを言い出したのか。腐ったあの国らしいやり方だぜ」
アルテリアにこれまでの経緯を説明すると、アルテリアは納得した様子であった。この者は先の魔族との戦争は人族から仕掛けたことであると知っていたようだし、あの国の者へ不信感を抱いていたのであろう。
「本当にあの国の者は愚かですね。ですが兵士たちも本当のことを言えば家族ごと処刑されることはわかっているでしょうし、表立っては隠し通せそうな気もします」
あの国の現状を知っているミラがそう言うのならそうであろうな。まったく、魔族の統治でもそんなことはせぬぞ……。
「少なくともあんな国よりもあんたのことが信用できることはわかった。だけど、もうひとつだけ聞きたい。……あんたが魔族に協力しているという話は本当なのか? 魔族は人を喰うんじゃないのかよ?」
以前アデレア国へ訪れた際、去り際にアルテリアにはそのように伝えた。この者は勇者の孫であることだし、直接魔族が殺したわけではないが、魔族に強い恨みを抱いている可能性がある。我とミラは魔族の生まれ変わりであり、セレネは魔族だ。魔族と接することを拒絶してもおかしくはない。
ただ、今は魔族が人を喰らうことに関して疑問を持っているようだ。もしかすると我が話したことによってそのことが人族の嘘であると気付いたのかもしれぬ。
「まず魔族は人など喰わず、人族と同じで肉や野菜を食べる。確かに一部の魔族は人族を食べたり、その血を吸ったりすることもできるが、あえて言葉を解して姿が似ている人族を自ら進んで喰らう者などいない。そしてそれを言ってしまえば一部の人族も魔族を喰らう者がいたようだ」
「……っ!?」
我の言葉にアルテリアが驚く。
たとえ種族が違えど、言葉を発して同じような姿をしている者を喰らうことが忌避すべきことであるのは人族も魔族も変わらない。だが、一部の人族はとある魔族を喰らい、滅ぼすまで至ったという記録が残っている。どちらかというと人族の方や野蛮であるようにも思える。
まあ、これについては我も本当のところは知らぬので、人族に敵意を持たせるための作り話である可能性もあるがな。
「我が魔族に与していることについては本当だ。我らには魔族の協力者がいる。だが、先の戦争の復讐をしようというわけではない。まだ生き残っている魔族を救いたいのだ」
「………………」
ユルグと同じで我が魔王の生まれ変わりであることはまだ伏せておく。いずれ時がくればそのことを伝える可能性はあるがな。
復讐をする気がないというのは本当のことである。そもそも今の我とミラは人族であるがゆえ、人族が同族となってしまう。そして戦争に負けたとはいえ、それを恨んでいるわけではない。我を討った勇者も戦争のあとは魔族をかばって処刑されたようだし、勇者に対する恨みなどもない。
「……確かに他のやつらから聞いている魔族の話が本当なのかは正直疑わしかったし、父さんが爺さんに聞いたっていう話とも違っていた。それに俺は実際に魔族を見たことがないのに初めから悪だと決めつけるのは違えもんな。それじゃあ、あの街のやつらと同じだ」
「そうか」
まさか目の前にいるセレネが魔族だとは思ってもいないだろう。今はアデレア国を訪れた時と同様に帽子をかぶらせている。今の様子であればそのことを話しても大丈夫だと思うが、もうしばらく様子を見るとしよう。
アルテリアもアデレア国では勇者の孫というだけで酷い扱いを受けていたことだし、そういった偏見で判断することはないと思うがな。
「さて、話は以上だ。そなたたちが我の領地にいる間の生活は保障しよう。しばらくこの屋敷で生活をしてみて、合わぬようであれば元の国へ送ってやる。あの国のように街の者がそなたたちを害することはないと思うが、もしもそういったことがあれば我に言え」
この街の者にはこの者たちが我の客人であると伝えてあるゆえ、アデレア国のようにこの者たちを害し、この者たちにだけ物を売らないということはないはずだ。この領地での犯罪者どもは厳しく罰し、我が直々に処罰を行ってきたこともあって愚かなことをする者はいない。
ユルグの話によるとカルヴァドス領では税を減らし、犯罪者や盗賊どもがいなくなり、生活が豊かになったことで治安が以前とは比べものにならないほどよくなっているらしい。豊かな生活が送れている間はくだらないことをする者が減るというのは道理であるな。
「……わかった。俺だけじゃなくて、孤児院のみんなも連れてきてくれて感謝する。それで、俺はあんたに対して何をすればいい?」




