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001 テオゼール


初代ラフィール王国騎士団長として活躍し、異端者戦争でその武勇を馳せた英雄、ルガルド・ウーガポリム・リンベルト。


それがこのオレ、テオゼール・ウーガポリム・リンベルトの父親だ。


ラフィール王国騎士団創立者にして初代騎士団長を勤め、英雄となったルガルドの子息。この肩書きのお陰で、これまで18年の人生でこと生きることに関して、オレは何の苦労もしてこなかった。


数えるのに疲れるほどいるメイドに執事。

首都セヴァルヴィーの一等地にある、豪邸。

警備には王国騎士団の屈強な騎士たちが常に目を光らせている。というのも、王国騎士団の本部の敷地内に、オレの家があるからかもしれないが。


とにかく、何もしなくても食事にはありつけるし、豪邸にいながらにして盗賊を警戒する必要もない。ましてや身の回りのことは全てやる前にメイドがやってしまう。


本当に、つまらない人生だ。



ふと耳を済ますと、廊下からカラカラと小さな音が聞こえてきた。ついでに、食欲をそそるいい匂いも。


オレはベッドから立ち上がり、側にある不必要なまでに豪華な椅子に腰を下ろした。それとほぼ同時に部屋のドアが開く。


「失礼します。テオゼール様、朝食を運んできました」


「レナか、それ似合ってるな」


メイド服ではなく、執事を思わせる真っ黒なスーツに身を包んだレナを見るのは今日がはじめてだった。


金色の髪が窓から入ってきた風を縫うようにして揺れる。


「もうっ、テオ!茶化さないでよ!」


頬を赤くしたレナが敬語を忘れるのは、頻繁にあることだ。そんなときにいう言葉は、いつも決めてある。


「普段からそうやって話してくれよな」


大体この一言で彼女は正気を取り戻すのだ。


「あっ……も、申し訳ありません、取り乱してしまいました」


「構わないさ、それより敬語を止めて欲しいんだけど?」


「それはなりません。私はいちメイドであり、テオゼール様に仕える召使いでありますから」


いつも、この同じやりとりをするのだ。小さい頃、オレはレナと二人っきりでよく遊んだ。学校なんて行かせてもらえなかったし、外に出るときすらも警備のついているオレに、友達なんか出来るはずもなかった。


……レナだけだったんだけどな。


「……分かった。朝飯ありがとな」


「はい。失礼しました、どうぞごゆっくり……」


レナはそう言うと、ワゴンを押して部屋から出て行った。


「さて、いただきますかね」


オレは、寂しさを紛らわすため、夢中で朝食を貪った。不思議と、普段と少し違う味がした。そう言えば、昔食事を粗末にしたときに2代目騎士団長から叱られたことがあったな。


その一切れのパンだけが食べられなくて死んでいく子供がたくさんいるって。

涙と共に泥水を飲んだことのない者には、命の大切さがわからないって。


食べ物を粗末にすることは、命を粗末にすることと同じだって。


別に今この瞬間、食べ物を粗末にしたわけじゃない。でも自然と思い出した。きっと騎士団長の言った「涙と共に〜」ってフレーズが、今の自分に重なったんだろう。


オレは……


「あー!やめやめ!」


まだるっこしい考えは似合わないな。別にオレ泣いてないし。寝起きだからちょっと欠伸しただけ。


考えながらも忙しく箸と口を動かしていたいたため、朝食は殆ど平らげてしまった。まるで味を覚えていない。少し損をした気になったが、些細なことだ。

オレはテーブルに置いてあったベルを鳴らした。

すると5秒待たずに、部屋の扉が開く。


「お呼びでしょうか?」


顔を出したのはレナではなく、しゃがれた声、散らかった少ない白髪、枯れ木のように年老いた老執事だった。


「なんだ、クルシェンか」


内心がっかりしたため、自分でも驚くくらい不機嫌な声が出た。そもそもクルウェンは教育係のうちの1人で、小さいころから厳しくいろいろな勉強をさせられ、逃げ出そうとして何度もこっぴとく叱られた苦い経験があるためあまり好きじゃない。


「朝食、下げてくれ」


「かしこまりました」


クルウェンは一度部屋から出ると、すぐにワゴンを押してまた同じ扉をくぐった。年寄りながらも、レナとは比べ物にならないくらい、テキパキと丁寧に、かつ素早くテーブルの上を片付けていく。

あっという間に机の上のベル以外の物はワゴンに乗り、テーブルは布巾でピカピカに磨かれた。

仕事を終えたクルウェンは、一礼するとワゴンを押しながら部屋から立ち去る。


朝の剣術訓練まではまだ時間がある。さてこの暇な時間何をしようか……。

オレは部屋の隅にある自分の背丈ほどの本棚から適当に一冊の本を引き出した。それの背表紙には「異端者と人」と記されている。


「久しぶりに読んでみるか」


オレはベッドに転がり、本を開いた。

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