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序章〜異端者戦争〜


今この瞬間、日付が変わった。時刻は零を指す。当然のことながら辺りは暗く、灯りのないこの草原の中心では「異端者」と呼ばれる自身の力が無ければ、歩行すら困難な程に視界は無いだろう。

空には星々が輝いているのだろうが、曇が光を遮り僅かにもそれらは見えない。


私は立ち上がり、腰に付着した草を払いのけると、側で倒れている男、ウルイードを見下ろした。


「もう……行くのかい?」


ウルイードが呟いた。あまりに弱々しい声が、彼の体力の限界を語っている。


肌寒い風が吹いた。彼のの長く白い、女性のような美しい髪が、それにつられて優雅に、儚く踊った。



「ウルイード、私は」

「無理に気を使う必要はないよ。僕は君に倒されたこと、後悔はしていないから」


ウルイードの胸には、黒い刀身の大剣が突き刺さっている。


ラオスデュートス。私の剣だ。


「なら……この戦争を起こしたことについて、後悔しているか?」


その瞬間、ウルイードの表情がこわばったのが見えた。だがその瞳だけは柔らかく、ただ私に暖かい眼差しを送っている。


「さあね、自分でも……よくわからないな」


「私は、お前の選択が間違っていたとは思わない。結果として多くの命が失われはしたが、この15年で人間と異端者の格差は殆ど無くなった。世界は……お前のお陰で変わったんだ」

私の言葉に、嘘や偽りはなかった。現に私はウルイードと共に歩んだ時期もあったし、異端者として虐げられるものの気持ちも辛さも、分かち合ってきたのだ。


世界は、いや、世間は間違いなくこの戦争を機に考えを改め、それによって多くの人が救われ、これから先も人権について考えられる機会が増えてくるだろう。


「……ありがとう。君は僕の敵だ。だけど……最高の親友だったよ」


「……ああ」


ウルイードは、人間ではない。「異端者」だ。そのため胸に穴が空こうが、恐らく手足が吹き飛んでも死にはしない。だが、彼の胸に刺さっているのはラオスデュートス。私が持つ、命を刈り取る闇の剣だ。


いくら長くても、あと半刻も持たないだろう。


「哀しそうな顔をするなよ」


そんな私の心境に気付いたのか、ウルイードは優しく言った。


「気付いてるよ。その複雑な感情だけじゃない……君が隠してることも」


私の胸に、熱い閃光のような痛みが翔けた。


「天空の力の代償……もうあらわれているんだろう?」


「……」


「悲しい顔をするなよ。最後ぐらい……笑顔を見せてくれ……」


「……ああ」


言われるがまま、ぎこちなく、私は笑った。平凡な日常はもう帰ってこない。



二度と。


「ありがとう……ルガルド」


かくして、異端者戦争は終結したのだった。

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