002 フレイズとユウマ
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「くそっ……」
ラフィール王国騎士団イアーナ隊を率いる女性、フレイズ・イアーナが小さく呟く。
辺りには48の死体と、フレイズを含めた2人の負傷者。今、彼女の部隊は全滅寸前を迎えていた。
「化け物め……」
フレイズ隊は王国騎士団の中でも精鋭の部隊で、その位は準Aクラスとされている。つまり、戦闘特化の武力行使を得意としているのだ。
しかし、いまその武力で敗北し、多数の騎士が馬と共に地に伏している。
たった1匹の魔物によって。
生き残っているのはフレイズと、先日フレイズ隊に配属されたばかりの新米騎士、ユウマ・シェルイーゼの2人。
魔物に目立つ外傷はなく、騎士の死体を貪り喰っている。
「ユウマ、動けるか?」
「はい……なんとか」
一応の現状、2人の戦闘力に支障はない。しかしこの2人であの魔物を撃破するのは不可能だろう。正面から戦えば、敗戦全滅は避けられない。
「ユウマ、今から私がヤツを惹き付ける。その間に、君は逃げるんだ」
「隊長……」
「大丈夫。君が跨がっている馬は我ら騎士団の優秀なサラブレッドなんだ。必ず逃げ切ることができる」
フレイズは腰に差した剣を抜き、魔物に向けて構えた。距離はおよそ20メートル。この馬なら10秒足らずでその至近距離まで接近できる。フレイズは手綱を今一度しっかりと握り直した。
「駄目です!隊長が退いてください!僕よりも騎士団が必要としているのはあなたです!」
ユウマは必死で叫び、フレイズに撤退を促すが、彼女はその制止を振りきり、手綱を軽く馬の首へ当てる。
馬はそれを合図に、魔物へ向けて蹄を蹴り上げ走り出した。フレイズは僅かに横を向き、後方に声が通るよう大きく息を吸い込む。
「心配するな!必ず生きて帰るから!」
それだけ言うとフレイズは、巨大な猪の姿をした魔物に向き直り雄叫びと共に死地へ赴いた。




