第4章 道具と友人
「利用し合うことは、最も正直な愛の形である。」——アオイ
【前回のあらすじ】 聖女アオイは、相談に来た女性の本音を、言葉になる前に言い当てる。頭に流れ込む、無数の心の声。それを彼女は「神のざわめき」と呼んだ。
夜更け、キョウカはアオイの部屋を訪ねた。手には、薄いファイルを抱えている。
「今日の面談の方々の資料です。家族構成、職歴、SNSの履歴。目を通しておいてください」
アオイは、差し出されたファイルを見なかった。
「いらないわ。聞こえるもの」
「保険です。本物のあなたを、私は信じています。でも、信者は疑う生き物ですから」
キョウカは、アオイの前に膝をついた。
「あなたは本物。だから私は、嘘をつけるんです。あなたがいてくれるから、私の作り話にも魂が宿る」
アオイは小さく笑った。
「キョウカさんは、私を道具だと思っているのね」
「はい」
キョウカは迷わず答えた。
「そして私は、あなたを一番大切にしています。道具としても、友人としても」
矛盾を矛盾のまま抱えられるのが、藤堂キョウカという人間だった。アオイはその歪さを、嫌いではなかった。
「利用し合うのは、いちばん正直な愛の形かもしれないわね」
アオイは目を閉じたまま、そう言った。
「互いに、嘘をつかなくて済むもの」
「あなたの嘘も、私には全部聞こえているのよ」
アオイは目を閉じたまま言った。
「あなたの中には、ずっと同じ人の名前が流れている。リオさんの前でだけ、あなたの声は震える」
キョウカの呼吸が止まった。
「……やめてください」
「責めてなんかいないわ。私にも、あなたが必要なの。あなたが作る舞台がなければ、私の超越は誰にも見えないもの」
二人は、同じ部屋で、互いの利用価値を測り合っていた。それは奇妙なほど静かな、共依存だった。キョウカはアオイの力を借りなければ神輿を担げず、アオイはキョウカの野心を借りなければ、最期の舞台を得られない。
キョウカはファイルを置き、立ち上がった。
「いつか、この関係が壊れる日が来ても——」
「来るわ」
アオイが遮った。
「それも、ちゃんと聞こえているから」




