第2章 種まき
「孤独は、最も肥えた畑である。」——キョウカ
【前回のあらすじ】 SNSで数十万人が憧れる令嬢・リオが、NGOの「顔」として降臨。会場の女性たちは、ひと目で心を奪われた。——その奥の小部屋で、もうひとりの「聖女」が、静かに目を閉じている。
サロンの熱気には、仕掛けがある。
翌朝、キョウカは事務所の奥の部屋で、三台のモニターを眺めていた。リオの公式アカウントのコメント欄。そこに流れる言葉を、スタッフのミズキが抽出している。
「消えたい」「誰にも必要とされていない」「職場で透明人間みたい」
「この三人、今夜のうちにお願い」
「はい。『同じ傷を持つ先輩』のアカウントから、個別にDMを送ります」
公式の勧誘は一切しない。入口はいつも、ただの共感だ。あなたの言葉に救われました。私も同じでした。そこから無料のオンライン相談会へ、少人数の読書会へ、そして「共同生活の見学」へ。階段は一段ずつ、本人が自分の足で上ったと思えるように作ってある。
画面の隅には、キョウカが自作した匿名アカウントが並んでいた。「入会して母との関係が変わりました」
「リオさんに声をかけてもらえた夜を一生忘れない」。
どれもキョウカの指が書いた、実在しない女たちの声。
「貢献度のランキングも更新しました。勧誘、寄付、拡散の数で、リオさんとの握手枠が決まります」
ミズキが言うと、キョウカは満足げに頷いた。
家族との連絡が減りはじめた女性には、「あなたを理解しない人たちから卒業する時期ね」と囁く。職場の愚痴を聞き出し、「あなたの価値を踏みにじる人々」という物語に編み上げる。孤立した人間は、居場所を与えてくれた者に、何でも差し出す。
「人は救われたいんじゃないの」
キョウカは、モニターの光に頬を照らされながら言った。
「必要とされたいの。それさえ与えれば、あとは自分から跪いてくれる」
「孤独は、最も肥えた畑なのよ。種を蒔けば、あとは勝手に根を張るわ」
ミズキは何も言わず、手を動かしつづけた。画面の向こうで、また一人、震える指がDMの返信を打ちはじめていた。




