第三十八話 継ぎ目
九袋は、門の内側で分けられた。
分けた重さを、トオルが八人の列に配る。配る位置は剣の届く距離のまま、名目は防の延長だ。延長の先頭にリリア、左にセレナ、先触れにアリア、医にミレイユ、案内にキリカ。荷と弓が最後尾を固める。固めた列が、閉じた門の脇の警備扉から出る。出る瞬間、塩の旗が外の乾いた風に当たる。
旧街道は、第一部より轍が深い。深い轍の横に、折った杭の穴がまだ口を開けている。口の中に焼印の欠片はない。ない穴を、キリカが本数の代わりに足の裏で数える。
「表の線は死んでいる」短い声。「裏の線は、水の音で探す。音が途切れる箇所が、裏打ちの継ぎ目だ」
音が途切れる。仮堰の下流で、流れは細い。細い水が、焼いた床の上を真っ直ぐに走る。真っ直ぐが、神の川ではない。人の川だ。人の川の縁で、アリアが槍を突いて止まった。
「継ぎ目だ。粘土の色が一段違う。違う段の下から、湿りが薄い。薄い側が、学院方向の涵養を切っている」
切っている。セレナが帳面に角度と色を書く。書いた横で、トオルが指を土に当てる。当てた感触が、第一部の暗渠の詰め物と同じ焼成だ。
「ここを剥がすと、局所の漏水は戻ります。戻った水が学院の円筒に届くかは、半日では分かりません。分かるのは、机の截水がこの継ぎ目で連続していることだけです」
連続している。リリアが細身を抜かず、継ぎ目の前に立つ。立った胴衣が、行軍の Sweat で再び貼りつく。貼りついた旗を、山の風が見る対象にしないための距離を、彼女は自分で取る。
「剥がすな。剥がした痕跡が、工事局の手に再充填の名目を与える。名目を与えず、位置だけを紙に落とせ。落とした紙が、次の出撃の芯になる」
芯になる。ミレイユが継ぎ目の湿りを布で拭い、匂いを嗅ぐ。嗅いだ顔が、医の顔になる。
「鉄と焼成だ。腐った水ではない。腐っていないなら、剥がしたあとの回復は期待できる。期待を、今日の袋では買えない」
買えない。九袋の減りを、トオルが帰路の分と照らす。照らした残が、六袋強。強のまま帰れば、学院の二日目の喉に足せる。足す選択を、キリカが下流の音で止めた。
「下流に、もう一段ある。一段は仮堰の本体側だ。本体の門が半開のままだと、截水は継ぎ目だけでは終わらない。門の板を見ずに帰ると、地図が一本足りない」
一本足りない。アリアが先に低くすり寄る。寄った先で、仮堰の板が楔の跡を残したまま、新しい板に替えられている。替えられた板に、焼印が小さい。小さい印を、セレナが目で写す。
「送り直しだ。第一部の楔は消された。消された上に、本設の板が乗っている。乗っている板を、八人では上げられない」
上げられない。リリアの号令が、列を帰路へ向ける。向ける声が、Sweat の熱の中でも低い。
「位置は取った。継ぎ目と、替えられた板と、焼印。三つを棚へ戻す。戻したあとに、袋の残を学院の喉へ渡せ。渡した二日目で、次の手を決める」
次の手。門の外の金具は、往路と同じ土にある。ある布を、帰りにキリカが再度見た。見た目が、次の影の予告を口に出さない。出さないまま、列は警備扉から中へ戻る。戻った九袋は、六袋と少しに減っていた。減った分を、計量の帳面が防の延長の支出として書く。
中庭の円筒は、指数本の濡れをすでに失いかけている。失いかけた底を、神官正が加護の減少と呼ぶ。呼び方を、トオルは継ぎ目の地図で押し返す。押し返した紙の上で、截水は山と学院を一本で繋いだまま残っている。残った線を、誰もまだ魔王の線とは呼ばない。呼ばない沈黙が、六袋の残と、預かりの本紙と、門の外の金具のあいだに落ちる。落ちた沈黙の向こうで、二日目の喉が始まり、平原の机は替えられた板の報告を待っている。
リリアが影でトオルを止めた。止めた距離は、指定どおり剣の届く長さだ。行軍の Sweat が頰に張り、塩の下に新しい熱がある。
「地図は一本足りない。足りない一本は、板の奥だ。奥を触るには、袋が足りない。足りない袋を、机の残り十樽から取るな。取ると手続きが先に走る。先に走らせないために、明日は暗渠の別脈を当たる」
別脈。山の継ぎ目を剥がさない代わりに、学院側の経路を再点検する。再点検が、第二部の二日目の仕事になる。仕事の前に、六袋の水が日陰の喉へ渡される。渡された水は、本紙の条項を中に通していない。通していないことが、今日の種別の続きだった。
――第三十八話 了――




