↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
42/42

第三十九話 別脈

二日目の朝、円筒の濡れは指一本を切っていた。


切った分を、ミレイユが別桶の底で確認する。確認した数字が、搬入十の残りが予定より速く減っていることを示す。速い理由は、日陰の倒れた者への優先配分だ。優先を、帳面は防の延長の支出として書く。


「暗渠を開ける」リリアが短く命じた。命じた金髪は結い直され、行軍の塩は落ちている。「開ける人数は、第一部と同じく縄と一本の列だ。列の先に、キリカの目を置け」


縄と一本。トオルが備品棚から、以前の夜と同じ道具を出す。出す位置は剣の届く距離のまま、名目は防の延長の内側だ。内側の暗渠は、再充填された粘土がまだ固い。固い面を、アリアが石突きで叩き、音の変わる箇所を探す。


「ここだ。音が鈍い。鈍い下が、詰め物の厚い所だ」


厚い所。セレナが帳面に位置を写し、キリカが指で縁をなぞる。なぞった感触が、山の継ぎ目と同じ焼成だと短く頷く。


「学院側の截水も、同じ手だ。同じ手を剥がすと、局所の入りは戻る。戻る量は、円筒を満たさない。満たさないまま、机の本紙は棚で待っている」


待っている。クラッドが暗渠の口を見て、乾いた唇を開く。


「剥がして指が戻っても、二日は延びない。延びない水で山の板を触れば、袋が先に死ぬ。先に死ぬ前に、預かりの本紙を押せ。押せば、残り十樽が門を開ける」


「押さない」防衛卿の声が、遠くから落ちた。「開けるのは暗渠だけだ。開けた先の本印は、今日も出さない」


出さない。空白の下で、詰め物が一塊ずつ外へ出る。出る粘土に焼印の欠片が混ざり、セレナがそれを十二枚目の隣へ写す。写した形が、第二部の物証を厚くする。厚くした紙の横で、トオルが水位の炭線を見直す。


「剥がしたあと、すぐには踊りません。以前と同じです。一刻おいて、指が戻るか見る」


一刻。中庭の列が、空の縁から離れて日陰へ下がる。下がった喉に、朝の配給が三リットルで渡る。渡した分を、帳面が在庫から引く。引いた先で、神官正が手を合わせる。合わせた手の下で、円筒はまだ静かだ。


静かさのあと、水面が動いた。


動いた幅は、指一本に届かない。届かない戻りを、ミレイユが別の炭で印す。印した差が、第一部の一本半より弱い。弱い理由を、キリカが暗渠の風で読む。


「山側の板が本設のままだ。本設が截水を抱えたままなので、学院側だけ開いても、入りは細い。細い入りを、夜の桶が飲めば、すぐに消える」


すぐに消える。リリアが縁に立ち、弱い戻りを見た。見た目が、旗の凱旋を拒否する。拒否した声が、列に落ちる。


「記録せよ。開けた。戻った。足りない。足りないことを、本紙を押す理由にしない。しない根拠を、棚へ戻せ」


棚へ戻せ。セレナが弱い戻りの数字を、防の延長の末尾に書く。書いた紙の上で、トオルが二日目の残を計算し直す。


「在庫は、四リットルなら今夜で切れる側です。三リットルに絞れば、明朝まで持つ。持った先に、次の車か、板を触る出撃かしかない。出撃は九袋では板を上げられない」


上げられない。アリアが槍を担いだまま、門の外の金具の方向を顎で示した。


「金具はまだある。あるなら、机は次の影を諦めていない。諦めていない机に、弱い指を見せても、本紙は下がらない」


下がらない。キリカが暗渠の口で、剥がした粘土の層を数える。数えた層が、再充填の回数を示す。


「二回詰められている。二回目は、評議会のあとの手だ。手の速さは、平原が学院の一夜を見ていた証拠になる。証拠を、名前の代わりに紙へ残せ」


名前の代わり。誰も魔王とは呼ばない。呼ばないまま、弱い指の戻りが中庭の記録になる。記録の横で、倒れる者は減らない。減らない数字を、ミレイユが日陰で支え、クラッドが慈悲の翻訳を乾いた口で続ける。続ける翻訳を、リリアは塩の落ちた旗で切る。


「今夜は桶を出すな。出すと、弱い戻りが消える。消した分を、加護の減少と呼ぶな。呼んだ瞬間、棚の数字が負ける」


負けるな。神官正の白い衣が、縁で一度止まる。止まった先で、円筒の弱い光が、本印のない学院の二日目を照らしている。照らした光の向こうで、預かりの本紙が棚で眠り、門の外の金具が熱を返し、平原の机が次の車の手配をまだ止めない。止めないことが、第二部の二日目の終わりに近い顔だった。


トオルは剣の届く距離で、炭の差を旗に見せた。見せた差が、指一本未満の勝ちだ。勝ちは、山を閉じない。閉じない勝ちを、袋の残が今夜で飲み干す。飲み干したあとに残るのは、預かりの函と、継ぎ目の地図と、足りない別脈の記録だけだ。


――第三十九話 了――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。