第三十六話 種別
門の上で、リリアは三つの荷を指で分けた。
「樽は十まで中へ入れる。入れた水は別桶で測る。函は預かり。預かりは本印ではない。後ろの長い布は門を越えるな。越えた瞬間、次の影の備えを学院が認めたことになる」
十樽。六百リットル。四リットルなら二日弱。倒れる数字を一日以上延ばし、本紙を中に通さないための数だ。数を、トオルが剣の届く距離で短く確認した。
「十日分には足りません。二日分です。二日のあいだに、別の水源か、山の堰の線を触る必要があります。触らないと、次の車が本紙ごと戻ります」
「二日でいい」リリアが返した。返す声が塩でかすれている。「二日分の喉を、記録の外側で生かす。生かした先で、机の条項は棚の預かりのままにする」
御者の中央の男が、蠟の封を掲げたまま笑わなかった。
「水だけ受けて紙を拒むか。拒んだ紙は、次は門ではなく評議会の席に届く。届いた条項を、空白はいつまで握るか」
「握る」防衛卿の声が、扉の内側から落ちた。「緊急は継続中だ。継続のあいだ、本紙は預かり。預かりを本印にする印は、今日も出さない。出さないあいだ、鎖の荷は外の在庫だ」
外の在庫。後ろの長い布が、門の外の土に下ろされる。下ろされた金具の匂いを、キリカが鼻で一度だけ拾った。
「次の影用だ。用の金具を、今日は学院が触らない。触らないことが、第二の山を一日遅らせる」
遅らせる。セレナが十樽の搬入を帳面に書いた。搬入十。計量、ミレイユ立ち会い。函、預かり番号付与。鎖荷、却下。本印なし。書いた字が、第二部最初の物証になる。
中庭で、別桶が十回傾いた。傾いた水が、空の縁を一度に満たさない。満たさないまま、底の殻が指にして数本だけ濡れる。濡れた水を、倒れた者の喉から先に回す。回した順序を、クラッドが乾いた唇で見た。
「順序は正しい。正しい水を、紙なしで飲んだことになる。飲んだ学院は、すでに机の配給網の端にいる。端にいながら条項を拒むなら、次は武力の話になる」
「武力の話にするのは、机の側だ」リリアが石垣から降りながら言った。降りた胴衣が、塩と新しい水の滴でまだ斑に貼りついている。「机が鎖の荷を門の前に置いた。置いた時点で、第一の山の続きではない。続きではないものを、私は残党確認では呼べない」
呼べない。アリアが槍を担いだまま、門の外の金具を睨んだ。睨んだ先に、外套の男はもういない。いない代わりに、中央の男が函の預かり証を受け取って一歩下がる。下がった顔が、平原の机へ報告する目になっている。
「二日」キリカが柱の陰で言った。「二日で堰を触るか、暗渠の先の別脈を当てるか。当てられないと、二十樽の残りが本紙と一緒に戻る。戻ったとき、称号は名前に近づく」
名前に近づく。トオルは計量の残りを頭で置いた。置いた数字が、八十人を四リットルで二日。二日のあいだに山へ出る袋は、今の学院にはない。ないことを、剣の届く距離で旗に返した。
「山へは、水を作ってからしか出られません。作る方法は、門の外の残り十樽を奪うか、堰の截水を戻すかです。奪えば手続きが先に走ります。戻すなら、第一の山の線を逆に辿ることになります」
「線を辿る」リリアが短く決めた。「二日の水で、線の地図を描け。描いた地図を、第二の出撃の名目にする。名目は残党ではない。防の延長だ。延長の先に、机がある」
机がある。神官正が濡れた縁に手を置いた。置いた手の下で、指数本の水がすでに引き始めている。引き始めた円筒を、彼は加護の残りと呼ぶ。呼び方を、帳面は搬入十と預かりと却下の三行で押し返す。押し返した紙の上で、誰もまだ魔王とは呼ばない。呼ばない沈黙が、種別の終わった門に落ちる。落ちた沈黙の向こうで、十樽分の喉が日陰で動き始め、五つの函が棚の預かり番号を持ち、鎖の荷が門の外の土で熱を返している。返している金具が、第二部の本当の影の予告だった。
――第三十六話 了――




