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第三十五話 車

第一の山が閉じてから、半日で車の音が戻った。


戻った車輪は一両ではない。三両。前の荷台に樽が二十。中の荷台に函が五つ。後ろの荷台に、布で巻いた長いもの。長いものは杭ではない。杭にしては重い。重い影が、門の外の乾いた風に揺れる。揺れた先で、キリカが本数の感触を一度だけ止めた。


「水だけではない」小さな声。「函は書記局。長い布は、工事局の見本ではない。見本にしては、鎖の金具の匂いがする。金具は外したあとの、次の備えだ」


次の備え。土の中の影が静止しているあいだに、平原の机が次の道具を運んできた。運んできた車を、閉じた門はまだ通さない。通さない棒の上で、リリアの白い胴衣が塩のまま立っている。立った旗に、凱旋の色はない。ない終わりのあとに来る車を、彼女は剣の届く距離で測った。


「種別を言え」


御者は三人。中央の男が、外套を着ていない。着ていない顔が、十七話の客より机に近い。近い手が、函の蠟を門の上へ見せる。見せた封が、下書きではない。下書きより太い。太い封を、セレナが副長の印で一度だけ読む。


「保護の本紙だ。本紙に、水位の約束と、配給の期間と、学院を予備とする条項がある。条項の末尾に、まだ名はない。名の代わりに、『水位を一人で決める者』と書いてある」


一人で決める者。呼ぶな、と言っていた名前の、手前の称号だ。手前の称号が、第一部の山を越えて門に着いた。着いた紙を、防衛卿は扉の内側から見ない。見ない空白が、本印を今日も出さないための最後の壁になる。


クラッドが中庭から声を上げた。声の香水は消えたまま、渇いた喉だけが残っている。


「二十樽だ。二十樽は三日を超える。超える水を、閉じた棒で拒めば、倒れる数字が旗を折る。折れたあとに本紙を押せば、予備は戦争ではない。戦争ではない保護を、今の空白で拒むな」


「拒む」リリアが短く返した。返す声が、塩の旗のままかすれる。「拒んだ先に、第二の山がある。第二の山は、土の中の影ではない。影を導いた机だ。机の本紙を、渇きの代わりに受け取れば、棚の記録は内側の話になる。内側の話にした瞬間、第一の山は失敗する」


失敗。トオルは空の袋を床に置いたまま、二十樽の容量を頭で割った。割った数字が、九百六十リットル前後。三日の配給。三日で学院は生きる。生きた先に、本紙の条項が残る。残る条項を、彼は剣の届く距離で旗に返した。


「水は足りる。足りる水と、本紙は同じ車です。同じ車を通すと、水位は机のものになります。机のものにしたくないなら、別の水源か、車の函だけを拒む種別が要ります」


種別。アリアが石垣の上から、後ろの荷台の長い布を見た。見た目が、槍の石突きを一度だけ床に落とす。


「鎖の金具だ。外したあとの、次の影用だ。次の影は、まだ山にいない。いない備えを、水の隣に積んでいる。積んでいる机は、第一の山を失敗だと思っていない」


思っていない。キリカが門の柱に背を預け、平原の方向を示した。示した先に、角のある王はまだ見えない。見えないまま、水位を一人で決める者が、車の函で学院を予備にしようとしている。しようとしている手を、神官正は空の縁から慈悲と呼ぶ。呼び方を、棚の紙が誘導の破壊と埋没の語で押し返す。押し返した記録の上で、誰もまだ魔王とは呼ばない。呼ばない沈黙が、第二部の最初の門に落ちている。落ちた沈黙の向こうで、二十樽の木が熱を返し、本紙の封が新しく、閉じた棒が塩の旗の下で揺れている。揺れているあいだ、倒れる数字は日陰で増え続け、平原の机は名前の手前の称号だけで戦争の手続きを運んできている。


リリアが細身の柄に手を置いた。置いた指が、第一の山の砂でまだ粗い。粗い指が、第二の山の入り口で旗を止めている。止めている旗の Sweat は、もう塩しか残していない。残した塩を、門の外の称号が測っている。測っている目を、トオルは家なしの距離から見た。見た先に、水と紙と次の鎖が同じ車に載っている。載っている車を、どう種別するかが、閉じた山のあとの最初の仕事だった。


――第三十五話 了――


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