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第二十七話 埋まった脚

前脚は、引き抜くまでに三度もがいた。


もがいた振動が、脆い壁をさらに裂く。裂ける土を、石垣の上からトオルが角度で読んだ。読んだ数字を、剣の届く距離の限界まで近づいて落とした。


「右が薄い。薄い壁を、もう一度旗で寄せれば、肩まで埋まります。肩まで埋まれば、抜け出しは一刻近く遅れます」


一刻。袋の残より長い。長い遅れを、リリアが細身の先端で指し示した。示した先へ、彼女自身が跳ぶ。跳んだ背中の Sweat が、川床の光で白く貼りつく。貼りついた旗を、影の目が怒りごと追う。追った頭が、薄い壁へ体重を乗せた。乗せた肩が、土を大きく陥没させる。


「埋まった」アリアが槍を突いて叫んだ。「前脚と肩だ。尾は自由だ。自由な尾が、次に石垣を払う。払う高さは低い段だ」


低い段。下級生がすでに裏へ下がっている。下がった列の上で、セレナが帳面を抱えたまま射線を維持する。維持した弓が、鼻先の軸を再度ずらす矢を弾いた。弾かれた矢は鱗を貫かない。貫かない矢が、それでも埋まった体の焦点を乱す。乱した間に、ミレイユが濃度を測る。


「甘い臭いが土に吸われている。吸われた肺は、石垣まで薄く届く。届くあいだに、尾の軌道だけを見ろ」


見ろ。尾が振られた。振られた風が、石垣の低い段の砂をすべて上げる。上がった砂の中で、キリカが柱から離れて一度だけ声を上げた。


「軌道は門ではない。門を守るな。守るのは旗の着地点だ。着地点が尾に入ると、再捕捉ごと潰される」


潰される。リリアが着地した位置を、尾の影が舐めて通る。通る風が、金髪を大きく後ろへ流す。流れた Sweat が、川床の砂に線を引く。引いた線の外で、彼女は細身を低く構えた。構えた一閃が、今度は角の手前ではなく、埋まった前脚の関節の方向を舐める。舐めた刃が、金具の残り匂いのする皮を浅く割る。


血ではない。黒い滲みだ。滲みが、土に落ちて甘い臭いを変える。変えた臭いを、影自身が嫌って頭を振った。振った間に、肩の土がさらに落ちる。落ちた重さが、抜け出しを遅らせる。


「傷ついた」トオルが足幅の乱れを読んで言った。「傷は浅い。浅いが、鼻の軸が痛みで定まらない。定まらないあいだに、左側の壁を弓で崩せます。崩せば、埋没が肩から胸へ延びます」


「崩せ」リリアが号令した。


石垣の弓が、左の脆い壁を集中して打つ。打たれた土が、影の胸の方向へ崩れる。崩れた土が、前脚の抜け道を塞ぐ。塞いだあいだが、今日の五度目の勝ちの幅だった。幅の中で、外套の男が門の外で動いた。動いた手が、四度目の杭を出しかけて、石垣の矢に先を折られる。折られた焼印が、十一枚目の隣で十二枚目になる。


クラッドが石垣の下で香水を薄く残した。残した口が、右隣のつもりで川床の旗を見る。見る旗の胴衣は、Sweat と砂と黒い滲みの匂いを帯びている。帯びた旗を、彼は所有の確認に使えない。使えない顔が、机の慈悲の翻訳へ戻る。


「傷つけても死なない。死なない影を、空の犯人にすれば足りる。足りる空白を、いつまで守る」


「守る」防衛卿の声が落ちた。「緊急は防いでいる。防いでいるあいだ、本印は出さない。出さないあいだ、傷は防の結果だ」


防の結果。黒い滲みが、川床の土に小さな池を作る。作った池に水はない。ない池を、影が鼻で触れようとして、痛みで顔を背けた。背けた頭が、旗を見失いかけている。見失いかけたあいだに、リリアが石垣の陰へ半歩戻る。戻った背中が、再捕捉の線から外れる。外れた旗の Sweat が、日陰で一気に垂れる。


トオルは二袋を一と少しに数えた。数えた数字を、剣の届く距離で置いたまま、彼は埋没の深さを読む。読んだ先で、影の後脚が踏ん張っている。踏ん張った力が、抜け出しの予兆だ。予兆を、キリカが本数の外で切った。


「抜ける。抜ける前に、胸の土をもう一度落とせ。落とせば、抜け出しはさらに遅れる。遅れた時間が、袋の最後を超える。超えた先は、門の内側の喉が先に死ぬ」


先に死ぬ。勝ちの幅が、袋の残と競り合う。競り合う中庭で、誰も魔王とは呼ばない。呼ばない沈黙が、埋まった肩と、浅い傷と、日陰の旗のあいだに落ちている。落ちた沈黙の外で、尾が次の軌道を探している。探している風が、石垣の砂を小さく揺らす。


――第二十七話 了――

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