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 わたしの行いのうち最も悔い改めるべきものは、この生まれてきたと言う行為ではあるまいか。いや、あまり拙速に答えを求めるのは慎もう。まずはニコラース・テュルブ博士の解剖学講義に耳を傾ける七人の外科医のように、自分の記憶の死骸に分け入り、筋肉や神経の一筋一筋を慎重に分析し、その機能や構造を理解した上で、神の高みから問題を俯瞰してみよう。記憶にない光景を想像で補ったり、予め与えられた前提から事物を切り出すのではなく、記憶のぶよぶよとした死骸を虚心に解剖し、その組織標本の形態や病変を詳細に分析することから始めてみよう。

 それにしてもなんてぶよぶよしているんだ。普通の死体ならば備えているはずの体幹骨や結節、筋線維が見当たらない。どこまで行っても無駄な白色脂肪組織ばかりで、メッツェンバウムを握るこちらの指先まで脂質でぬめついてくる。

 おや、異物肉芽腫反応の痕跡を留める組織があるではないか。そこだけ脂肪壊死を引き起こしている。

 わたしの中に認められる最初の異物。

 数日前の話だ。ウォルマートの入っている複合商業施設の出口付近を左右に少しジグザグを描くような格好でゆっくりと歩いている少年がいた。出口に差し掛かると、後ろを歩いていた女性が、かれを避けるように追い抜いて行った。するとかれの襟首の後ろに名札のようなものがクリップで止められているのが見えた。

 障がいがあります。

 わたしは歩調を緩めて、かれの様子を仔細に観察することにした。外は曇天と雖も穏やかな光が四月の到来を告げている。少し湿気を含んだ空気がこれから訪れるだろう梅雨の蒸し暑さとそのあとに襲ってくるはずの酷暑を予感させる。そんななか少年は「ヒッ、ヒッ」と小さく引き攣るような声を断続的に上げながら、やはりジグザグを描くようにゆっくりと歩き続ける。少し前を歩いていた黒い服の女が立ち止まると、少年を振り返り片手を差し伸べる。少年は夢遊病者のようにその方角に体を揺らしながら歩み寄っていく。

 美しい母子像だ。それにしてもかれの背に貼られた免罪符のような札は、害をなす者には七倍の復讐が与えられることを警告するカインの刻印のような生々しさも備えている。かれはその背中の刻印の意味を理解しているのだろうか。おそらく理解していないだろうことが、一層可憐さを際立たせる。

 つまり彼は日の出とともに目を覚まし、星々を観測した後に眠りにつく。

 つまり彼は使い方の分からないポケモンカードを呪物のように崇拝する。

 つまりかれはダンゴ虫の友人である。

 つまりかれは月と星の移動に関して細心の注意を払っている。

 つまりかれは電車の往来の中に宇宙の静寂を見出す。

 つまりかれは雨の降る日には、機嫌がいい。

 つまりかれは月は母親であり、その傍で瞬いている明るい星は自分であると信じている。

 つまり彼は私だ。

 かれは、わたしだ。


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