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イヴ・メモワール ―隔離された台湾―  作者: アニキ
第二章:本物の闘い、はじまる
29/33

エレメント・クリエイション

 夜10時。

 キョウゴは脈絡もなく突然決闘を要求すると、ユエの返事も待たずに、自ら後ろへ50メートルほど下がり、すでに迎撃の構えを取っていた。それまで傍らで黙って座っていた天上も、それに合わせて立ち上がる。一方、セントは驚きのあまり顎が外れそうなマヌケな顔をしていた。


「えーっと……キョウゴ、どうして急に決闘なんて言い出すのよ?」


「あんたには感謝しているわ、色々と勉強になったもの。でもね、今まではここに来るたびに天上と何回かやり合えたのに、今回はまったく手を合わせないまま終わりだなんて。せっかく頭脳であたしに勝てる奴が現れたんだから、あんたの戦闘力も確かめたいわ!」


「ちょっと待って、あたしには戦えるような超能力なんてないわよ?」


「超能力がない?冗談言わないで、超能力を持たない人間なんて今の時代いるわけないでしょう」


「えーっと……あたしの超能力は、喧嘩に使えるような類のものじゃないのよ」


「なるほどね、D級クラスか、あるいはE級かしら?」


 ――D?E?なるほど、超能力にはそんな階級ランクが存在するのね。初めて耳にしたわ。


 その時、傍らに立っていた天上が不意に口を開いた。

「キョウゴ、ユエの超能力は確かに実戦向きではない。お前が鬱憤を晴らしたいなら、俺が相手をしてやろう」


「あんたと戦っても面白くないわよ、いつも引き分けなんだから!」


「ならば無理強いはよせ、負けは負けだ。手を貸す気がないなら、せめて邪魔をせず速やかに撤退しろ」


「……じゃあ、そこの子供二人は?最初から最後まで何もしていないようだけど、あんたが役立たずを傍においておくはずがないわよね?」

 キョウゴはユエの背後にいるゾゾとユユの二人に鋭い視線を向けた。


 このキョウゴって女、頭がおかしいのかしら。そんなに戦いたいの?まさか矛先を子供に向けるなんて。これにはユエも慌て出した。


「ちょ、ちょっと待ってキョウゴ、あの子たちはただの子供よ!八つ当たりはやめて!」


「ユエお姉様、待って!」

 ユユが突然、ユエの前に毅然と立ちはだかった。


「姉貴、この女、俺たちのことを役立たずって言いやがった!どっちが役立たずか、今すぐ思い知らせてやろうぜ!」


 ――わぁ! これは面倒なことになってきた!


「ゾゾ、ユユ、ちょっと待って……」


「お姉様、わたしたちにも戦わせて?嘉義に来てから、わたしたち何も役に立てていないもの」


「そうだ姉貴!このクソ女に誰が役立たずか見せつけて、身ぐるみ剥がされるまで負かしてやる!膝をついて姉貴の靴を舐めさせてやるんだ!」


 なんてこと、一体どこでそんな下品な言葉遣いを覚えてきたのよ!?クイ兄の教育方針には問題が山積みだ!


「……靴を舐める?ガキのくせに随分と大口を叩くじゃない。あたしはただユエの実力をテストしたかっただけなのに、まさかこんな小僧どもに侮辱されるなんてね」


「侮辱して何が悪いんだよ!そっちが先に俺たちを役立たずって言ったんだろ!」


 とんでもない誤解だ、キョウゴのあのセリフはそんな意味じゃなかったはずよ!でも、今更そんな釈明を挟む余地なんてないわ。両者とも完全に頭に血が上っているもの!


 その刹那、ゾゾとユユは同時に『ゲート』を開き、キョウゴの背後へと瞬間移動した。そして二人がかりで、彼女の背中へ猛烈な回し蹴りを叩き込んだ!流石は双子、恐るべき阿吽の呼吸だわ!

 だがその瞬間、キョウゴの周りに突如として土の壁が文字通り虚空から出現し、二人の蹴りを完璧に遮断した。キョウゴはすぐさま反転して二人に向き直る。


「ちょっと!不意打ちなんて卑怯じゃない!あんたたち、戦いのルールってものを知らないわけ!?」


 喧嘩の最中にルールを説くなんて、キョウゴのそのクソ真面目な正義感は方向性を間違えているんじゃないかしら?

 それにしても、彼女の超能力はいったい何なのよ?火を操るかと思えば空を飛び、今度は土まで操作するなんて。風か重力も扱えるみたいだし、いくら何でもカオスすぎない?


 その後も、ゾゾとユユは立て続けに門を開閉し、キョウゴの周囲をハエのように飛び回りながら波状攻撃を仕掛けていった。対するキョウゴはその場から一歩も動かず、身体を激しく回転させながら防御に徹していた。どうやら空間跳躍の不規則なアタックパターンを掴みきれず、決定的な反撃に移れないようね。


 あの『門』って、あんなに連続で乱発できるものだったのね。これじゃあ次の攻撃がどの方角から飛んでくるか、予測することすら不可能だわ。しかもそれが二人同時に襲いかかってくるのよ。キョウゴが今、土の防護板で全身を完全に繭のように覆っていなければ、とっくにボコボコにされていたでしょうね。


 この騒ぎを聞きつけた周囲の兵士たちが、野次馬としてぞろぞろと集まり始めたわ。セントは傍らで頭を抱えて地面にうずくまり、どうしていいか分からずただただパニックしている。一方で、ユエの焦りは絶頂に達していた。


「ゾゾ、ユユ、戻ってきなさい!もうやめて!」


「ユエ」

 天上が不意に横から声をかけてきた。

「今からあいつらを止めるのは至難の業だ。少しやり合わせて、頭を冷やさせたらどうだ」


「でも……」


「あらかじめ警告しておくが、お前は絶対に軽挙妄動するなよ。前にも言った通り、キョウゴは俺でも手を焼く相手だ。生身のお前が突っ込めば命を落としかねん。危険な状態になれば俺が介入する、心配するな」


「……分かったわ」


 天上がそこまで言うなら、わたしたちは大人しく観戦することにしましょうか。


 ゾゾとユユの間髪入れない連続攻撃が約1分ほど続いた頃、キョウゴがいよいよ痺れを切らしたようだった。


「あんたたち、鬱陶しいわね!二人がかりで来ていいなんて誰が言ったのよ!?」


 キョウゴが吠えた直後、彼女の周囲に凄まじい突風が吹き荒れ、小さな竜巻となって彼女の身体を天高くへと巻き上げた。


「ふん、これなら手も足も出ないでしょう!」


 けれど、ただ空に浮かんだくらいでは、ゾゾとユユの『ゲート』の敵ではないわ。……と言いたいところだけど、キョウゴの動きはまだ止まらない。彼女は両手を頭上へ高く掲げた。すると次の瞬間、彼女の掌から強烈な閃光が爆發し、この漆黒の闇夜をまるで真昼のように白く染め上げた。視界が完全に真っ白に潰される!

 これって……光の操作!?嘘でしょう、そんなのあり?いくら何でもチートが過ぎるわ!


「うわっ! 何これ!?」

 ユエは恐怖のあまり、咄嗟に両腕で顔を覆って目を瞑った。


「ユエ、これで俺が『手強い』と言った理由が分かっただろう。キョウゴの超能力は──『元素創造エレメント・クリエイション』だ」

 傍らに立つ天上が静かに告げた。


「元素って……全部?」


「あいつが自分でそう名付けただけだから、詳細までは知らん。だが、俺がこれまでに確認しただけでも七、八種類はある。火、水、氷、土、風、雷、光……おそらく、俺がまだ見たことのない属性もあるはずだ」


 なんですって……?わたしはてっきりゾゾとユユの物理操作だけでも十分に規格外だと思っていたけれど、まさかこの世にそんな物理法則を真っ向から蹂躙する能力者がいたなんて。でも、どうして『操作』じゃなくて『創造』なのかしら?操作とは何が違うの?


 これまで、ゾゾやユユを含めてわたしたちが目にしてきた超能力は、すべて何らかの「操作」だったわ。例えば、火を吹くのは周囲の温度や空気を操作した結果だし、水を操るのは空気中の水分子を集めるか、近くの水源から引っ張ってくる……といった具合にね。まあ推測だけど。


 それなのに、キョウゴの能力は「創造」?そんなの熱力学第一法則に完全違反しているわ。きっと、ただのハッタリ染みたネーミングに違いないわね。じゃないと、わたしの推測は最初から間違ったことか、熱力学第一法則が間違ったこと以外に、説明が付かないわ。


 それにしても、そんな大層な名前を自分で付けるなんて、このキョウゴって子、間違いなく子供の頃にアニメや漫画の見すぎよ。


「そ、そんなの……勝てるわけないじゃない……」

 ユエは呆然と口を開けて固まっていた。


 天上はそれには答えず、ただ腕を組んだまま、鋭い眼差しでキョウゴの一挙一動を凝視し続けている。


 強烈な閃光を放った後、キョウゴの掌にあった光の塊は次第に収縮し、両手の間に凝縮されて一本の発光する大剣へと姿を変えた。


「──『閃光剣スパーク・ブレード』!」


 キョウゴはその光の剣を地面に向けて力任せに振り下ろした。その瞬間、光の刃は何十倍にも伸長し、美しい軌跡を描きながら、閃光で身動きの取れなくなっていたゾゾとユユのちょうど真ん中へと叩きつけられた!

 周囲の芝生は一瞬で炭化し、数千度もの超高熱が大地を縦に深く切り裂いて、真っ赤に融解した深い溝を作り出した。


 ゾゾとユユは明らかに心底肝を冷やしていた。だって、あの光の刃が直撃した場所は、二人のわずか10メートル足らず横だったのだもの。あと少しずれていたら、今頃二人とも塵も残さず蒸発していたわ。

 これがキョウゴの力か。いや、これは全力ではないはず、ただの脅迫だろう。しかしただの脅迫だけでも、電子人格であるわたしですら恐怖を感じた。


「どう?怖気づいたかしら、ガキ共。大人しく降伏しなさい!」


 ゾゾは憎々しげに顔を上げ、上空のキョウゴを睨みつけた。すると次の瞬間、ユユが不意に片手を掲げた。その刹那、キョウゴの身体を包んでいたあの竜巻が、唐突に掻き消えたの。


「え? ――きゃあああぁぁぁっ!?」

 支持を失ったキョウゴが、真っ逆さまに落下を始める。


 そう、ゾゾとユユだって風圧を操作することくらいお手の物よ。キョウゴの竜巻が打ち消されたことで、彼女は自由落下で地面へと引きずり下ろされていく。


 ……って、ちょっと待って。前にあの怪鳥と戦った時、ユエが「ハゲワシの周囲の空気を抜いて」って指示したら、二人は「そんなのできない」って言わなかったっけ?今やっていることって、完全にそれと同じ原理じゃない。何で急にできるようになっているわけ!?


 双子の攻撃はこれだけでは終わらなかった!

 キョウゴが落下するその瞬間、ゾゾが彼女の真下の空間に門を開いた。結果、キョウゴは滑稽なほど唐突にゾゾの目の前へと転がり落ちる格好になり、これには彼女も目を丸くして驚愕していたわ。そしてゾゾは、キョウゴに体勢を立て直す隙を一切与えることなく、彼女の胸元目掛けて強烈な右アッパーを叩き込んだ!


「ガッ、はぁっ!? ――」


 ゾゾが軽く放ったように見えたその一撃だったけれど、キョウゴは10数メートルも後方へと飛んだわ。なるほど、ゾゾは右拳に強烈な風圧を凝縮させ、それを相手にぶつけると同時に高圧空気を一気に解放したのね。まるでエアガンを至近距離で胸元にゼロ距離射撃したようなものよ。


 キョウゴは地面を何度も激しく転がってようやく止まり、苦悶の表情を浮かべながら、片手で地面を支え、もう片方の手で胸を強く押さえた。見るからに相当な激痛のようね。


「……クソガキ共、こっちが手加減してやっていれば、いい気になりおって。おまけに二人がかりで一人をなぶるなど、卑怯千万ではないか!?」


 キョウゴは痛みを怒りでねじ伏せるように力強く立ち上がると、次の瞬間、彼女の身体から猛烈な紅蓮の炎が噴き出した。その炎は彼女の全身を完全に包み込み、周囲の草木を瞬く間に焼き尽くしていく。


 けれど、キョウゴはその場から一歩も動こうとせず、ただひたすら己の炎を滾らせることに集中していた。火勢は次第に強まり、その範囲を広げていく。一体何を企んでいるのかしら?防御に徹しているのか、それとも大技の溜めに入っているの?


「ガキ共、命が惜しくなければ来い!あたしに近づいた瞬間、黒焦げになるわよ!」


 なるほど、一種の防御結界というわけね。これなら確かに、ゾゾとユユの死角からの瞬間移動による肉弾戦を完全にシャットアウトできるわ。けれど残念ながら、キョウゴは二人の超能力の本質を何も分かっていない。ただ近接攻撃を防ぐだけでは、彼ら相手には何の対策にもならないのよ。


 それを見たゾゾは、ふっと不敵に手を伸ばし、先ほど彼女の風を打ち消した時のように、その炎を強引に鎮火させようと試みた!


「……あれ?」

 ゾゾは小首を傾げ、心底不思議そうな顔をした。


「ゾゾ、何やってるのよ!?早くあいつの火を消しちゃいなさいよ!」

 ユユが焦ったようにゾゾに向かって叫ぶ。


「い、いや……やったんだよ!?」


「全然消えてないじゃない、まだボーボー燃えてるわよ!?」


「おかしいな……ユユ、さっきあいつの竜巻はどうやって消したんだ?」


「消した?わたしは消してなんかいないわよ。別の風を作り出して、あいつの風を吹き飛ばしただけだもの」


 なんですって!?ということは……もしかして超能力によって生み出された物理現象は、根本的に「不自然」なものであり、ゾゾとユユは他人が作り出した人為的・非自然的なエネルギーそのものを直接干渉して消滅させることはできない、ってことかしら?でも筋が通らないわね。いくら超能力という超常的な力で制御されているとはいえ、物質や現象そのものは自然界の法則に従っているはずなのに。


「あんたたちが何をごちゃごちゃ企んでいるかは知らんが、手が尽きたというなら、次はこちらの番よ!」


 キョウゴはそう言い放つと、力強く一歩を踏み出し、弾丸のような速度でゾゾとユユ目掛けて一直線に飛行突撃を仕掛けてきた。


「うわぁ! ゾゾ、何とかして!」

「待っ……とりあえずズラかるぞ!」


 双子は左右二手に別れて飛び退き、キョウゴはその真ん中を猛烈な勢いで突き抜けていった。激しい劫火を身に纏ったその超高速の突進は、さながら巨大な火球そのものだった。


「逃がすか!」


 キョウゴは急ブレーキで止まると、反転しながら両手を大きく広げた。彼女の周囲を取り巻いていた炎が、無数の小さな火球へと分裂していく。


「──『火雨ファイア・レイン』!」


 キョウゴの咆哮とともに、無数の小火球がまるで意志を持った生き物のように、凄まじい風切り音を立てて二人の元へと殺到した。


「うわっと!」

 ゾゾとユユは状況の悪化を察知し、瞬時に足を止めると、すぐさま門を開いて遙か彼方へと転移し、辛うじてその爆撃の嵐から逃れた。

 本当にこの二人のチームワークは恐ろしいわね。別々の方向へ逃げたはずなのに、門を抜けて転移した先では、またぴったりと同じ場所に合流して二人背中を合わせているのだから。


「チッ、あんたたちのその瞬間移動、本当に目障りね」


 キョウゴは前方へ右手を突き出し、再びその声を響かせた。

「──『大地之手アース・ハンド』!」


 ちょっと待って。さっきからずっとツッコミたかったんだけど、このキョウゴって子、どうして技を出すたびに毎回律儀に叫んでいるの?それって完全に無駄じゃない?絶対に漫画の読みすぎよ。

 けれど、彼女が放ったその技の効果は絶大だった。ゾゾとユユの足元の大地から突如として巨大な土の塊が隆起し、二人の両足をがっちりと挟み込んで固定してしまった。完全に身動きが取れない!


「うわ! ユユ、これ何!?」


「ゾゾ、早くこれを消してよ!」


「だから消せないんだってば!ユユこそ自分でやってみろよ!」


「わたしも消せないからあんたに聞いてるんでしょうが!」


 勝機を確信したキョウゴは、自身の周囲の炎を収めると、勝ち誇った笑みを浮かべながら、一歩一歩ゆっくりと双子の方へと歩み寄ってきた。


「ふふ、これでもう瞬間移動はできないわね?あんたたちのその空間転移、なかなか珍しい超能力だから、いろいろと勉強させてもらったわ──これで終わりよ。大人しく降伏しなさい」


「へへん、おめでたい頭のクソ女だな。誰が負けるかってんだよ!出来るもんならやってみろ!」


「生意気なガキ共め、少し痛い目を見せて教育してあげるわ!」


 キョウゴが手を掲げると、虚空から二つの小さな石ころが出現した。彼女はそれらをそれぞれゾゾとユユの大腿部へと狙いを定め、弾丸のごとき速度で射出したの。

 しかし、その石が放たれたまさにその瞬間──ゾゾとユユは各自の目の前の空間に素早く門を展開した。射出された石ころはそのまま吸い込まれるように門の中へと飛び込み──そして……


「アガッ!? ――」

 キョウゴが背後から何者かに強打されたかのような悲鳴を上げ、無様に前方へとぶっ倒れた。


「へへーんだ! ユユ、この作戦、本当に大成功じゃん!」


「当然でしょ?」


 双子は門の転送効果を応用し、キョウゴが放った石の軌道を彼女の「真後ろ」へと繋げた。結果、二つの石は寸分の狂いもなくキョウゴの不意を突いて、彼女の後頭部へクリーンヒットしたというわけ。まあ、キョウゴもお仕置きのつもりで手加減していたから威力がそれほどでもなかったけれど、もし本気で撃ち出していたら、今頃自分の攻撃で気絶していたわね。


「あんたたち……!どうやら、本気を出さなければ恐怖というものを理解できないようね!」


 キョウゴは痛む後頭部を押さえながらフラフラと立ち上がり、再び全身を猛烈な炎で包み込んだ!

 けれど、ゾゾとユユはまるでこの瞬間を待ち構えていたかのように、その顔に不敵な笑みを浮かべたの。


「ゾゾ!」


「応よ!」


 ゾゾの返答と同時に、二人は同時に両手を高く掲げ。すると次の瞬間、キョウゴの頭上の空間から、滝のような凄まじい大水柱が容赦なく降り注いだの!


「ぶ、ふぇっ!? @#&$*!?」


 キョウゴはもはや悲鳴ともつかない奇声を上げたわ。これじゃあ炎が強制鎮火されるどころか、まともに呼吸することすらできないじゃない!


「へへんだ!消せないなら、水でジャブジャブ薄めて消しちまえばいいんだよ!」


 キョウゴは大きく後ろへと跳び退き、辛うじてその激流の直撃コースから脱出したけれど、その姿は完全に哀れな濡れネズミと化していたわ。


「あんたたち……一体どんな超能力の持ち主なのよ!?あたしの風を吹き飛ばしたかと思えば、今度は水を噴き出すなんて、どうしてそんなにたくさんの奇妙な現象を引き起こせるわけ?まさか、あんたたちの超能力も、あたしと同じ……?」


「へへーんだ、誰がバカ正直に教えるかっての!」


 双子はキョウゴに反論の隙すら与えず、今度は彼女の周囲の空間に大量の石を具現化し、全方位から彼女を完全に包囲した。


「な……あんたたち、本当に何者なの!?」


 直後、周囲に浮かぶ石が、一斉に中心のキョウゴ目掛けて弾丸のごとく撃ち込まれ始めた。キョウゴは慌てて強固な土の防壁を張り巡らせ、さながら鉄壁の繭のように全身を完全に覆い隠して石の猛攻を防ぎに回った。けれど、これでキョウゴは完全に防御一辺倒となり、その場から一歩も動けない状態へと追い込まれた。


 絶え間なく降り注ぐ石によって、彼女の張る土の防壁は次々と砕かれ、破砕される。けれどその破壊された瞬間、内側からはすぐさま新しい土の壁が補填され、必死の修復が繰り返されていた──。


 この膠着状態がおよそ三十秒ほど続いた。ゾゾとユユは一向に手を緩める気配がなく、石の雨を降らせ続けている。防壁の維持を強いられているキョウゴもまた、完全にその場から身動きが取れなくなっていた。


「ねえ、天上。あたしちょっと不思議なんだけど」

 傍らで観戦していたユエが、不意に天上へ問いかけた。

「ゾゾとユユがキョウゴの超能力を相殺できない理由はまだ分からないけれど、どうしてキョウゴのほうも、双子の繰り出す攻撃を逆に操って利用しようとしないの?このままじゃ、ただ繭の中に引き籠もって一方的に殴られるだけじゃない」


「――できないからだ」


 できない……? そんなバカな。じゃあキョウゴは今までどうやって数々の元素を操ってきたっていうのよ?


「俺のほうこそ、あの二人の超能力がどういう仕組みなのか訊ねたいくらいだ。一見するとキョウゴと同系統の物理操作能力に見えるが、どこか違和感がある」


「ああ、あの子たちの能力は『絶対優先アブソリュート・オーバーライド』って言うの。あたしが勝手に付けた名前なんだけど、原理はどうやら一種の物理干涉らしいわ」


「物理……干涉、そのすべてをか?」


「あたしも詳しくは分からないけれど、この世界のあらゆる自然現象を強引に上書きして干涉できることらしいわ」


「……そうか、ククク、ならどこが違うのかだいたいわかった。物理干涉……物理干涉か……ククク……」


 天上はどうしてしまったのか、ひどく不自然な笑みを浮かべていた。


「天上、もったいぶらずに早くどこが違うのか言いなさいよ」


「ああ。お前は先ほど、双子が自然現象に干涉できると言ったな。だがキョウゴの超能力には干涉できない。原理は極めてシンプルだ。キョウゴの能力が──そもそも自然界の産物ではなく、『人工物』だからだ。だからこそ、あいつらは干涉できないのだろう」


 ――やっぱり、わたしの推測通りね。けれど、人の意思によって生み出された自然物は、不自然なものに変質してしまうというの?それじゃあまだ物理的な説明がつかないわ。


「お前は、なぜキョウゴが双子の繰り出す岩や水を逆に操って反撃しないのかと訊ねたな。理由は、あいつの本質が『操作』ではないからだ。だから、できない」


 操作じゃないなら、一体何だっていうの?


「さっき言っただろう、キョウゴの超能力は『元素創造』だと。彼女の原理は、双子のように自然界に元から存在する物理現象へ干涉するのではない。──何もない空間から、『文字通り、質量を無から創造している』のだよ」


 ――なんですってぇぇ!?そ、そんなこと、本当にあり得るの!?


 ゾゾとユユの超能力は、どこまでいっても大自然の物理法則に対する「干涉」に過ぎないわ。彼らが干涉した物質はもともとこの世界に存在していたものであり、原子構造や相対座標を書き換えているだけ。つまり、質量保存の法則には一切違反していないのよ。


 簡単に言えば、双子が何もない空中から石の山を生み出して投げつけているように見えても、それは実のところ、付近にある地盤から石を転送してきたか、周囲の元素を一時的に物質変化させて組み合わせただけに過ぎない。世界全体の総質量は常に一定のまま。


 ──けれど、キョウゴの能力はその大前提を真っ向から違反している。

 この宇宙に本来存在するはずのない質量を、何もない虚空から直接物質化させているのだ。だから、一見するとただの自然現象に見えても、その本質はこの世界に存在してはならない「不自然な異物」。

 だからこそゾゾとユユの干涉は弾かれ、逆にキョウゴのほうも、双子が操る本物の「自然界の物質」を干涉することができないんだわ!


「なるほどね……。だったら、キョウゴの致命的な弱点がどこにあるか分かったわ」


「ほう?この僅かな会話で、もう見抜いたか?」


「あたしの推測だけど、何もないところから質量を創造するなんて能力、エネルギーの消費量が尋常じゃないはずよ。なら、あいつに絶え間なく元素を『創造』させ続ければいいの。体力を急速に消耗させるためにね」


 その通り!双子の能力がいわば「すでに存在する材料を使って家を建てる」ようなもので、運搬と組み立ての労力しか使わないのに対し、キョウゴの能力は「材料そのものをゼロから分子レベルで製造する」ようなもの。かかる負担コストは双子の数十倍、あるいは数百倍に及ぶわ。


 つまり、ゾゾとユユは運よく、知らず知らずのうちにキョウゴの弱点を的確に突き続けているというわけね!


「その通り、それが理論上の弱点だ。お前、本当にキレ者だな」

 天上はそう言うと、感心したようにユエを見つめた。


「あたしが賢いんじゃないわ。ゾゾとユユだって、あんまり無茶な能力の使い方をすると気絶しちゃうもの。だからあなたたち超能力者が超能力を使う時は、一様に体力を激しく消耗するんだろうって推測しただけよ」


「ククク、お前はそのセリフでまた自爆したぞ。今無意識で、自分自身をその『超能力者』の枠組みから排除して語っていたからな」


「……っ」

 ユエはハッと開いた口を閉じ、天上を猛烈に睨みつけた。


「お前はあまり喋らないことを勧める。お前はボロが出やすすぎるんだ」


「どうせあんたはあたしを外から来た人間だと決めつけているんでしょう。だったらもう、言い訳するのも面倒だわ」


「その話はまた暇な時にでもしよう。それより、今の戦況はあまり芳しくない。一方がひたすら土の壁を造って補修し、もう一方がひたすら石を具現化して投げつけている。完全に泥沼の消耗戦だ」


「消耗量が圧倒的に少ない分、ゾゾとユユのほうが有利に見えるけれど。何より二人分だもの」


「フッ、キョウゴを過小評価してはいかん。なぜ俺があいつを『手強い』と言ったと思う?」


「どういう意味よ?」


「体力の消耗が激しいのは確かに弱点だが、俺はそれが『理論上の弱点』だと言ったはずだ。あいつが真に手強いである理由はな──俺が最後にあいつの体力が尽き果てたのを見たのは、もう何年も前のことだ。当時はまだほんの子供だった。この二年間、あいつが嫌がらせに来るたび、俺は何度も撃退を試みた。だが、戦闘はどれほど長引かせても、あいつは一向に疲れる気配を見せないのだ。だから言っただろう、俺にはあいつを撃退することはできない。やるなら、一瞬で殺すしかないのだと」


 まさか……これほどの力があるのに、ガス欠もしない……?こりゃもう無敵じゃないか?


 天上がそう語り終えた瞬間、キョウゴを全方位から圧殺していた無数の石の雨が、目に見えて減少し始めた。明らかにゾゾとユユの体力が限界を迎えている。


「ゾゾ……もう、無理……石が、上手く出せなくなってきた……」

 ユユの手が、徐々に重そうに下がり始める。


「このクソ女、なんでビクともしないんだよ!?こっちは二人で戦ってるんだぞ、あの壁は無限湧きかよ!?」


「……あのわざで、あいつをぶっ飛ばすしかないわね!」


「ユユ、ダメだ!あれは本当に人を殺しちまうぞ!天上の兄貴たちも『絶対に殺すな』って言ってただろ!?」


「負けてあいつの靴を舐めるよりマシよ!!」


 ユユはそう叫ぶなり、奮然と両手を前方へ突き出した。かつて怪鳥との死闘の最中にラーニングした「高熱ブレス」を、一切の躊躇なくキョウゴの土の繭へと目掛けて放射した!


 この一撃は劇的な効果を発揮した。キョウゴを覆っていた強固な泥の防壁が高熱によって高速で溶解し、ボロボロと剥がれ落ちていく。流石の彼女も、防壁の製造速度が、熱波による破壊速度に追いつかなくなってきたのだ。


「な、何よこれっ!?――」


 キョウゴの顔に初めて真の驚愕が走る。危険を察知した彼女は即座に、大きく後方へと跳び退いて、高熱ブレスの射程圏外へと命からがら脱出した。


「どうやら、本当の本気を出さざるを得ないようね。ただの生意気なガキ共だと思っていたけれど、まさかここまであたしを手こずらせるなんて!」


 キョウゴの全身から再び凄まじい炎が噴き上がった。その火勢は先ほどまでの数倍に達していた。同時に、彼女の周囲の空間に無数の火球が出現。その一つ一つがこれまでの数倍の巨大さへと膨れ上がり、夜の荒野のすべてを赤々と不気味に照らし出した。


「怪我をしてもあたしを恨まないでね、あたしをここまで追い詰めたのはあんたたちなんだから!」


 彼女が腕を大きく一振りすると、周囲を埋め尽くしていた巨大火球群が、まるでガトリングガンのように超高速で双子へと掃射された。

 ゾゾとユユは慌てて門を展開し、火球をキョウゴの背後へと転送してカウンターを試みる。しかし、反射された火球は彼女の身体を包む劫火の結界に接触した途端、そのまま霧散し、本体にはかすり傷一つ与えられない。


 攻撃が無効化されたと悟り、さらにこれほどの圧倒的な物量を門だけで捌ききるのは不可能だと判断した双子は、自分たちの周囲にさらに多くの門を展開して防壁とし、火球の猛爆に耐えるしかなかった。──攻守は、完全に逆転した。


 だが、このような強引な防衛策には当然限界がある。キョウゴの巨大火球はあらゆる角度から双子を蹂躙し始め、門に吸い込まれた火球が別の門から予期せぬ方向へ射出され、二人の周囲の草を焼き尽くして激しい濃煙を立ち上らせる。おまけに彼らの門には5秒という致命的な時間制限がある。絶え間なく門を再展開し続けなければならず、二人はすでに完全に押し潰されかけていた。


 ユエの顔が恐怖に歪んだ。大量の火球と濃煙に完全に包囲された双子を前に、彼女は傍らで叫ぶことしかできない。これほど完璧な全方位への絨毯爆撃の渦中へ、たとえユエが加速して救出に飛び込んだとしても、すべてが回避することなど不可能なのは明白だった。


「ゾゾ、ユユ! 上よっ!!」


 二人の頭上から、一際巨大な二つの特大火球が、真っ直ぐに落下を始めていた。前後左右からの挟撃を捌くのに必死な双子は、その真上からの攻撃に全く気づいていない。


 この時、天上が静かに腰の刀の柄へと手を伸ばした。

「勝負あったな」

 彼はそう低く呟くと同時に刀を抜いた。あの二つの特大火球を、自ら叩き斬るつもりだ。


[出力50%]


 ――天上が救出へと踏み出そうとした、その瞬間。周囲の時間せかいが、名実ともに完全なる「静止」へと陥った。


 ユエは天上が動こうとしたことすら気づいていなかった。彼女は『ゾゾとユユを救う』という一念だけに支配されていたのだ。

 己の肉体を、かつて到達したことのない神速の境界へと強制加速させ、完全に静止した火球の嵐の真っ只中へと、弾丸のように突入した。


 しかし彼女は理解していた。もしこの超加速の慣性のまま二人を強引に引っ張り出せば、その凄まじい衝撃で子供たちの肉体はバラバラに吹き飛んでしまう。だからこそユエは、完全にフリーズした火球の間を神業で縫うようにすり抜け、二人の傍らに到達した瞬間、意図的にそのスピードを減速させた。


 彼女は左右の手に一人ずつ抱え、細心の注意を払って「優しく」二人を攻撃範囲の外へと連れ出した。


「ユ、ユエお姉ちゃん!?」


「姉貴!?」


 減速したとはいえ、超加速の慣性は相応に残っていた。二人の身体は芝生の上を何メートルも激しく転がり、攻撃圏外へと投げ出された。そして二人を救い出した当のユエは、言葉を発するだけの力すら残っておらず、そのまま泥のようにその場へたおれ伏した。

 子供たちを傷つけないために速度を落とした彼女の判断は正しかった。けれど、それと引き換えに──彼女自身は火球の猛火から身をかわす術を失ってしまった。


 ゾゾとユユは全身泥だらけで手足に火傷やけどを負っていたけれど、幸いにも命に別状はなかった。……けれど、ユエの容態は最悪だった。減速したとはいえ、火球の直撃こそ超人的な反射で回避したものの、周囲を埋め尽くしていた火球の「掠め」による超高熱から逃れることはできなかった。


 50%という莫大な過負荷による肉体崩壊に加え、至近距離を通り過ぎた無数の火球の熱波)による重度の火傷。ユエの全身の皮膚は、見るも無惨に裂け、真っ赤に焼けただれていた。

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