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イヴ・メモワール ―隔離された台湾―  作者: アニキ
第二章:本物の闘い、はじまる
23/33

避けられない罠

 C.E.2063_05/04_22:30


 ギルドを後にしたユエは、城内で小さな旅館を見つけてそこに宿を取った。

 セントは城に戻って泊まるよう熱心に勧めてきたけれど、ユエが頑なに拒否したため、彼も諦めるしかなかった。ユエのボディーガードである以上、遠くへ離れるわけにもいかず、セントは隣の部屋に宿を取り、ゾゾとユユはユエと同室になった。二人の子供は大人に付いて一日中歩き回ったせいか、部屋に入るなりバタッとベッドに倒れ込んで眠ってしまった。


 ユエはゾゾとユユの寝顔を見届けた後、蝋燭の火を吹き消し、もう一つのベッドへと横になった。


〈そろそろ、説明してくれないかしら?〉


「説明って、何を?」ユエは横たわったまま、暗闇でほとんど見えない天井を見つめて答えた。


〈どうしてギルドになんて入ったのよ?一刻も早く隔離を解除すべきだって、ずっと言っているでしょう? あんたが遊んでいる時間なんてないのよ!〉


「イーちゃん、どうしてそんなに焦っているの?」


〈さっさと任務を終わらせれば、わたしたちは家に帰れるじゃない〉


「イーちゃん、その言葉、全然説得力がないわよ。あなたは本当にあの研究所に戻って、一生誰かの道具になりたいの?」


〈……〉

 これには反論できなかった。どうやらユエは何かに気づいているようだ。


「はっきりとは言わなかったけれど、あたしには分かるの。あなたの本当の目的は、氷人と接触することでしょう?」


〈……やっぱりあんたには隠し通せないわね。けれど、それがどうしたっていうの?わたしたちは最終的に隔離を解除しなければならない。外界の文明やテクノロジーを中に引き入れることができれば、その後の問題なんて大したことではなくなるはずよ〉


「だから、あたしの死活問題なんてどうでもいいってわけ?」


〈あんた……まさか、いっそのことこの中で暮らそうとでも考えているの?〉


「別にいいじゃない。危険に満ちた場所だけど、少なくとも生きる意味があるわ。何度も言っているでしょう?あたしはここを出たところで、その後の人生は死ぬより苦しいかもしれないんだから」


〈じゃあ、わたしはどうなるのよ?あんたの脳内に一生閉じ込められて、何もできずに過ごすなんて御免だわ!〉


「イーちゃん、あたしと一緒にいる方が、道具として扱われるために戻るよりはずっとマシでしょう?」


〈……〉

 これまた、反論の余地がなかった。


「氷人との接触なら、あたしが必ず何とかしてあげるから。あたしを信じて」


〈はぁ?あんたはいつも無茶ばかりするじゃない。今日もわたしに相談もせず勝手にギルドに加入して。そんな状態でどうやって信じろって言うのよ……〉


「イーちゃん、あなたってどうしてそんなに頭悪いの?」


 なんですって……?世界最強のスーパーコンピュータであるこのわたしが、頭悪い……?


「あたしたちはまだ、隔離装置がどこにあるか知らないでしょう?」


〈ええ、そうよ〉


「じゃあ、その装置はどこに置いてあると思う?」


〈それは当然、最も安全な場所でしょうね……〉


「もしこれが本当に氷人の仕業なら、彼らにとって最も安全な場所はどこ?」


〈……あっ。〉


「これで分かったでしょう? あたしたちはどのみち、まず氷人と接触しなきゃならないのよ。そうじゃなきゃ装置の場所なんて見つけられないわ。隔離を解除するためには、彼らの協力が必要になるかもしれないしね」


 なぜ……なぜわたしはこれほど盲点に陥っていたのかしら?わたしは本当にスーパーコンピュータなの?これほど基本的な推論能力さえ働かないなんてあり得ないわ。まさか、何者かにプログラムを書き換えられたの?

 いいえ、違う。本当は最初から気づいていたはずよ。わたしという電子人格システムは、イヴ・システム本体との同期を、あの赤毛野郎に起動された時点で完全に切断されているのだわ。今、イヴ・システムそのものと直接リンクしているのはユエであって、わたしではない。わたしは単に、そこから独立させられただけの電子人格に過ぎないのよ。


「あたしがギルドに入った目的は、情報よ。この身分を利用して、天上やセント、それに春姉レイランの権力を借りれば、あたしたちが必要とする情報に繋がりそうな任務を優先的に回してもらえるわ。任務を言い訳にすれば、台湾のあちこを合法的に動き回れるし、ギルドが戦争や政治に介入しないという立場も利用できる。ギルドの保護があれば、あたしたちを利用しようとする連中も、ギルドの勢力を恐れて手出しを諦めるはずよ」


〈例えばレイランや、天上のような連中を、ね?〉


「その通り。天上は初対面の時、あたしたちを『戦士』と呼んだでしょう?それに、この一帯の最高権力者である春姉が、あの男の言葉には従うのよ。このことから、天上が嘉義の本当の権力中枢であり、同時に軍人であることは容易に推測できるわ。そんな男が囲い込みたがる人材なんて、政府や戦争の役に立つ人間に決まっている。身も蓋もない言い方をすれば、あたしたちを戦争に駆り出したいのよ」


〈分かったわ。そうすれば、レイランや天上が向けてくる、あの異常なほど手厚い好意の網から逃れることもできるわね〉


「ええ。春姉やセントのことは大好きだけど、それでも彼らから距離を置く方法を見つけなきゃならない。それに、仮に彼らから離れられたとしても、お金がなきゃ何もできないわ。生きていくことすらままならなくなる。ギルドに入れば、同時に旅費も稼げるでしょう?」


 なるほど、わたしには反論の余地などどこにもなかったわ。この娘がやろうとすることには、いつも完璧なまでに合理的な理由があるのだから。


 #


 翌日、朝食を済ませたわたしたちは、すぐさまギルドへと向かった。昨日の入會申請は、分部長がその場で審査すらなしで通過させてくれたものの、証明書の作成といった最低限の手続きは必要だったからだ。そのため、今日は再び足を運ぶことになった。


「はぁ!?何で不許可になってるのよ?あなた、昨日は審査なんていらないって明言したじゃない!」


「ユエ様、どうかお怒りをお靜めください!わたしどもも圧力を受けているのです。もしユエ様をご入會させてしまえば、この嘉義支部ごと取り壊されてしまいかねません……!」


 現在、ユエはギルド二階の會議室で、冷や汗をだらだらと流す分部長を色をなして詰問していた。


「あたしの加入を阻んだのは誰よ。まさか、春姉?」


「ユエ様、大王女様が我々に干渉することは不可能なのです……」


 言われてみればそうだわ。ジョンが昨日言っていた通り、各領地の政府はギルドに干渉できない。たとえレイランがギルドを敵に回すことを辭さずに動いたとしても、ギルドにはそれを無視するだけの権力と実力があるはずなのだから。


「じゃあ誰だって言うのよ!? まさか……」


「天上様です」


 やはり、あいつか。レイランは、天上には表向き何の職位もないと言っていた。ならば、あいつが裏から干渉すれば、政府は少なくとも表向きは無関係を決め込めるというわけね。


「やっぱりね。でも、あいつはどうやってそれを知ったの?ほんの十時間ぐらい前の出來事よ?」


「申し訳ありません、ユエ様。わたしが話しました」

 これまでずっとユエの傍らに控えていたセントが、ここで口を開いた。


「セント……」


「昨夜、天上様が直々にわたしのところへ来られ、皆様の様子を尋ねられたのです。あのお方を欺くなど、わたしには到底できません」


「……」


 ユエはセントを見つめたが、怒るに怒れないようだった。

 ユエだって、最初からセントが護衛であると同時に自分たちを監視する目でもあることは百も承知だったはずよ。一挙手一投足が監視されている以上、セントに情報が漏れるのは織り込み済み。だから怒る理由もないのだけれど、まさかこれほど早く手が回るとは思わなかったわね。それに、これはセントにとっての「裏切り」ではない。そもそも最初から『仲間』でもないしな、彼はただ、己の職務を全うしただけなのだから。


「セント、あたしから天上に会って直接話すことはできる?」


「それが……天上様は多忙な身であり、あちこち飛び回っていますので、居場所を絞り込むことはかなり難しい。我々も、あのお方が今どこにいらっしゃるのか把握していないのです」


「ユ、ユエ様。今朝、天上様が来られてあなたを入會させるなと警告された際、あなたへの連絡手段を預かっております」


 分部長は恐る恐る、幾重にも折り畳まれた小さな紙切れをユエに差し出した。その手つきは、まるで不発弾でも扱っているかのようだった。


 ユエはそれを開き、一瞥するなり言葉を吐き捨てた。


「……嵌められたわ」


 彼女が憤るのも無理はない。なぜなら、その紙切れに書かれていたのは、ユエが昨夜まさに「おさらばしたい」と語っていたそのものだったからだ。


『自由を望むならば、まずは代償を支払え。お前は俺に貸しがある、戦功を以てそれを償還せよ。嘉義前線を優先とし、雲林前線をこれに次ぐものとする』


 #


 C.E.2063_05/06_09:23


 昨日、あの紙切れを受け取った直後、ユエはセントに頼んでゾゾとユユを街へ連れ出してもらい、ついでに移動手段の準備を依頼した。そして自分は適当な理由をつけて旅館へと引きこもり、枕に頭をうずめて丸一日一言も発さなかった。わたしが話しかけても完全に無視。一体何を考えているのやら、そのまま眠ってしまった。


 そうして現在、わたしたちは馬車に揺られ、布袋ほたい城へと向かう道中にいる。

 ゾゾとユユはもの凄く興奮している。馬車に乗るのが生まれて初めてだからだ。もちろん、ユエにとっても初めての経験だけど。


「姉貴、見て!すっげえデカい怪物モンスターがいる!」

 ゾゾが車の窓にしがみつき、沿道の景色を興味津々で眺めながら叫んだ。


「ゾゾ、あれはキリンっていうのよ。草食動物だから、怪物じゃないわ」


 いやいやいや、ユエ、何でそんなに冷静なのよ。あれはもう立派な怪物でしょうが!だってあのキリン、二十階建てのビルくらいの高さがあるのよ!?


「はははは! ゾゾ様、怖がることはありませんよ。巨大な動物のすべてが人間を襲うわけではありません。あのキリンは相変わらず草を食べるだけですからね!」


 いやいやいや、あの図体でどうやって草を食べれるのか。まさか樹木でも食うの?

 この世界は本当に恐ろしすぎるわ。二十階建て相当のキリンだなんて。しかも一匹だけじゃない、果てしない廃墟のあちこちを何匹も徘徊しているのだから。


「ふふ、面白い世界ね」


 キリンを見つめるユエの表情は、何とも言い表しがたいものだった。諦めなのか、それとも吹っ切れたのか。何はともあれ、昨日丸一日休んだおかげで、彼女の機嫌はすっかり直ったようね。


「セント、あなたが言っていた『嘉義前線』って、布袋ほたいのことなの?」ユエがセントに顔を向けた。


「厳密には違います。ただ、布袋は前線に最も近い大型の要塞なのです。天上様が『嘉義前線にいる』と仰るなら、おそらく布袋城のなかにいらっしゃるはずですよ」


「分かったわ。じゃあ、まずは天上と会って、話はそれからね」


〈ユエ、どうしてそこまで天上の言う通りにするのか理解できないわ。たとえ本当に貸しがあったとしても、あいつの命令に大人しく従う必要なんてないでしょう?ゾゾとユユがいれば、嘉義から脱出することなんて難しくないはずよ?〉


「……ちょっと確かめたいことがあるの」


「おや?ユエ様、何か仰いましたか?」

 ユエの小さな独り言を耳に挟んだセントが尋ねる。


「ふふ、何でもないわよ……」


 まさかユエの奴、また何かとんでもないことを仕出かすつもりじゃないでしょうね?


 わたしたちは、かつて遺されたひび割れと穴だらけの道路に沿って、ひたすら南西の布袋ほたい地区へと移動していた。

 それにしても、この馬車の構造は本当にちぐはぐだわ。前で引っ張っているのは二頭の馬なのに、後ろの客車部分はなんと現代の乗用車の形状をしているの。といっても、ただの鉄の殻だけで、エンジン付きのフロント部分はない。具体的に言うなら、SUVのフロントをすっぱり切り落としたような形ね。

 タイヤはもちろんゴム製だけど、サイズがやたらと大きい。明らかにこのボロボロの道路に対応するためのもので、どこかオフロードカーのおもむきがあるわ。だから、道中ずっとガタガタと激しく揺れはするものの、それほど不快ではなく、速度もかなり出ていた。


「ユエ様、もう間もなく到着しますよ」

 セントが振り返ってユエに言った。


「ええ。あ、そうだ、聞き忘れるところだったわ。前線ってことは、今まさに戦争中なのよね?相手は誰なの?」


「それはもちろん、台南たいなんですよ」


「少し戦況を教えてもらえる?」


「承知いたしました」


 それからセントは、台南戦区の状況を簡潔に説明してくれた。

 セントの最初の説明は、この土地の基本的な統治制度についてだった。

 現在の台湾には実質的な中央政府が存在せず、群雄割拠状態にあり、各勢力がそれぞれの縄張りを支配している。その主要勢力の中で、レイランの勢力は最大規模を誇る一つであり、雲林うんりん嘉義かぎ地区を掌中に収めている。

 だが、支配地域が広大すぎる上に現代的な通信設備を欠いているため管理が行き届かず、統治方式は中世ヨーロッパのような「郡県分封制ぐんけんぶんぽうせい」――簡単に言えば、封建社会へと逆戻りしているらしい。


 とはいえ、台湾は狭い。一つの領地を無数の「郡」に細分化する必要はないため、領地全体を統括するトップが一人だけ置かれる。彼らはそれを「総理そうり」と呼ぶ。レイランは領主であり、嘉義総理を兼任している格好ね。雲林総理は別の人物で、最初から地方のトップであり、それからレイランによって承認・任命される。レイランに忠誠を誓うが、領地の実質的な主権は総理に握られている。そして各都市には、総理によってそれぞれ「城主じょうしゅ」が配されているの。

 特徴的なのは、実質的な兵権を握っているのは城主であり、逆に総理には兵権がないという点だ、これは総理によって直接の謀反を防ぐためだろう。そして城主はすべて総理によって任命される――つまり領主や総理の親信たち。だから、たとえ城主同士が実力や権力を背景に私闘を始めたとしても、総理には他の城主を招集して制圧、もしくは城主としての身分と権力を剥奪はくだつする権限があるため、城主の暴走を抑止できる仕組みになっている。


 要するに、形の上では封建制度と言いつつも、その本質は「契約制けいやくせい」ではなく「委任制いにんせい」。下位が直接上位に支配される垂直管理体系であり、実際には封建制とはまるで異なるわ。これも台湾という土地が狭すぎるがゆえに、最高権力者の手が容易に隅々まで行き届くからでしょうね。

 もっと具体的に例えるなら、伝統的な海軍の大艦隊編成に酷似している。領主が「総司令官」、総理が「分艦隊司令官」、そして城主が「艦長」だ。つまり、直接的な戦闘力を握っているのは現場の艦長たち、というわけ。一番違うのは、艦長、そして司令官たちの地位は、一部は上からの任命だが、一部はもともと現地にいる強豪をそのまま承認されるものだった。だから軍隊と違って、必ず上の命令を聞くわけではないが、鎮圧する手段は多い。


 話を現在の問題に戻しましょう。嘉義と台南の間で繰り広げられているのは「戦争」と呼ばれてはいるけれど、実態は単なる攪乱に過ぎない。台南側には本気で嘉義に攻め込む気はなく、悪く言えばただの嫌がらせだ。

 その理由は、台南地区ももともとはレイランの領地だったから。それが二年前、奇妙な原因によって台南が謀反むほんを起こし、当時の台南総理が「台南領主」として台頭。結果として現在の膠着状態が生まれたのだという。この二年間、台南側はほぼ毎月のようにイチャモンをつけてくるけれど、いつも小競り合いをしてはすぐに退いていく。明らかにただ引っかき回したいだけね。


「どうしてそんなことをするの? まるでおままごとのような戦争なんて、お金の無駄じゃない?」


「台南領主自身、本当は独立して領主になりたかったわけではないのです。彼は完全に、脅されていたのですよ」


「脅されていた?」


「はい。台南はあまりに広大であるため、古くから各地区の城主による自治管理が行われていました。そして彼らの中には、お嬢様の方針に一貫して反対する者が少なくなかった。しかし、単独でお嬢様に立ち向かう力はない。そこで彼らは結託して『台南独立』を掲げ、大義名分を作り上げたのです。当時の総理一人の力では、その圧倒的な独立の潮流を抑え込めるはずもなく、城主たちに刃を突きつけられて反乱の代表に祭り上げられた――平たく言えば、完全な身代わりです」


「だとしたら、城主たちはなぜそんな子供騙しの茶番を容認しているの?」


「彼ら城主はもともと、先代の領主と台南総理の二人によって信頼された者たちだからです。総理を含め、城主たちは亡き先代領主に絶対の忠誠を誓っていました。彼らの目的はお嬢様を引きずり降ろすことですが、かつては苦楽を共にした仲間であり、革命の絆がある。だからこそ、この戦いはいつも腰が引けている。互いに身内を傷つけることを恐れつつも、お嬢様に自分たちの意見を認めさせたい、あるいは彼らにとって都合の良い人物を上に据えたい。要するに、比較的温和な武力による諫言なのです」


 なるほど、レイランが若くして一地方の覇主となれたのは、父親の地盤を引き継いだからなのね。


「なるほどね、まるでお菓子をねだって駄々をこねる子供じゃない。だったら放っておけばいいのに。どうせ本気の殺し合いにはならないんでしょう?」


「ええ、お嬢様も彼らが本気で戦う気がないことを見抜いておられますし、だからといって統治方針を変えるわけにもいかない。そのため、彼らの嫌がらせにはずっと目をつむってこられました。……ですが、最近になって状況が変わったのです」


「どういう意味?」


雲林うんりんと北部の彰化しょうか領は、長年敵対関係にありました。しかし、これまでは局所的な小競り合いに過ぎず、本格的な戦争に発展することは稀でした。ところが半年前、彰化側に突如として『極めて強力な超能力者の集団』が現れたのです。これにより戦力バランスが完全に崩壊し、雲林の前線は敗退を続けています。この半年の間に雲林の西半分はほぼ彰化に奪われ、これ以上後退すれば、いよいよ嘉義にまで刃が届くことになる」


 ちょっと待って。半年前、極めて強力な超能力者……これって、澎湖ほうこの状況と全く同じじゃない?


「だから今は、全力を集中して彰化を防がなきゃいけないのね……」


「その通りです。身内同士で内乱を起こしている場合ではない。だからこそ、お嬢様は天上様に頭を下げ、台南を説得して共に敵に立ち向かうよう要請されたのです。しかし……」


「失敗したの?」


「全体としては成功したと言えます。台南の連中とて、かつての領主――つまりお嬢様のお父上と共に血汗を流して築き上げた嘉義や雲林が奪われることは望んでいない。ましてや、それが自分たちの喉元を脅かす事態など論外です。しかし、現在前線で指揮を執り、嫌がらせを続けている『あの指揮官』が、何とも一言では言い表せない人物でして……」


「相当な厄介者ってことね?」


「申し訳ありません、ユエ様。私がお話しできるのはここまでです。あのお方の名を口にするなど、恐ろしくてとてもできません。詳細は天上様に直接お尋ねください」


 気になるわね。あのセントや天上をこれほど頭を抱えさせ、わざわざ助っ人を引っ張ってこさせるほどの人物だなんて。けれど、なぜよりによってユエを?天上の真の目的は一体どこにあるのかしら。

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