超能ギルド
C.E.2063_05/04_18:12
午後六時を回り、空は次第に闇に包まれ始めていた。
服飾店を後にしたわたしたちは、そのまま街を散策した。ゾゾとユユはずっと興奮しっぱなしだ、新しい服を着替えて非常に喜んでいる、しかも無料。通りには超能力者が溢れているだけでなく、奇妙な格好をした者が非常に多い。さっきの店で見かけたような華麗な衣装を身にまとい、剣や弓、斧といった中世の武器を携えた者たちが、現代的な服装の人々に混じって闊歩している。まるで街全体でコスプレ大会でも開かれているかのようだが、それを奇妙に思う者は誰もいないらしい。
「セント、この前言っていた『防御機構』っていうのは、どういう意味なの?」
ユエは歩きながらセントに質問を投げた。
「おっと、それは弱小な民衆を保護するための措置ですよ。簡単に言えばかつての傭兵制度に似ていますが、専門の斡旋所があり、一般人でも依頼を出せます。傭兵たちもギルドの制約を受けており、昔のものとは少し性質が異なりますね」
「なるほど。じゃあ、戦い向きの能力を持った超能力者は、それで稼いでるってわけね?」
「ケンカだけではありませんよ、ユエ様。言葉で説明するより、直接ご覧になった方が早いでしょう」
それから、セントに連れられ、わたしたちは北門の方へと向かった。
不思議なことに、北門に近づくにつれ人通りはまばらになっていったが、逆に奇妙な格好をした者の比率は上がっていった。北門をくぐり抜けると、そこには三階建ての高さに相当する大きな下り階段があった。階段の先には真っ直ぐな一本道が伸び、その先は……。
「ええっ——!?城壁の外側に、もう一重あるじゃない!」
そうなのだ。この街道は約500メートル続き、北側にあるもう一つの城門へと通じている。つまり嘉義城は内側と外側の二重の城壁に囲まれており、内側の方が地勢が高いため、外側の存在に気づかなかったのだ。
半径一キロメートルで十万人も住めるのかと疑っていたけれど、これなら合計半径二キロメートル以上あるだろう。それだけの人口を収容できるのも納得だわ。
「ユエ様、ここですよ」
セントが足を止めたのは、大階段のすぐそばにある広大な敷地の建物だった。三階建ての鉄筋コンクリート造。周囲は騒がしく、内外には奇抜な格好をした人々がひしめき合っている。
「えーっと……『超能力者互助……工會』?」
ユエが入り口の上に掲げられた巨大な看板を見上げた。
「ええ。通称『超能ギルド』。超能力者を必要とするあらゆる仕事の斡旋を主としています」
「なんだか……漫画に出てくる『冒険者ギルド』みたいね」
「ははは、ユエ様は博識ですね。あなたのようなお若い方が、昔の流行文化を知っているとは」
ユエはまた口を滑らせたわね、まあこの程度なら大目で見よう。昔の漫画など今でもいっぱい残ってるはず、知ったところでそれほど不思議でもないはず。
わたしたちはセントに従い、正面の大きな入り口から中へ入った。そこには古の中國の質屋を思わせるカウンターが並び、各窓口は小さな個室のように区切られ、入り口は布のカーテンで遮られている。その窓口が一列に並ぶ光景は圧巻だ。
「ユエ様、ここがギルドです。ソファでお待ちください。ここで働いている友人を呼んで、詳しく説明させましょう」
「ありがとう、セント」
三人がソファに腰を下ろすと、セントは軽く会釈し、窓口の左奥にあるドアへと消えていった。
〈ユエ、あんたがこれに興味があるのは分かっているけれど、こんなことに時間を費やしている暇はないわよ?〉
「……」ユエは頷いたが、おそらく聞き流しているわね。
数分後、セントが二人の男を連れて戻ってきた。一人はスーツ姿の中年男性、もう一人は同じくスーツを着た青年だ。
「ユエ様、お待たせしました。ご紹介しましょう。こちらは超能ギルド嘉義支部の分部長、そしてこちらが説明を担当する業務員です」
分部長!?なぜいきなりそんな重職が出てくるのよ。
「こ、これはユエ様。お初にお目にかかります、分部長の……」
分部長とやらは、顔を合わせるなり揉み手で卑屈な笑みを浮かべてきた。典型的なゴマすりタイプね。
一方で、隣の青年は軽薄な態度を隠そうともしない。
「うおぉーっ!セントさん、わざわざ紹介するってからどんな大物かと思えば、こんなに可愛い美少女だったなんて!今日は眼福だなぁ!」
「ジョン!……いや、忠樺! 態度に気をつけろ、こちらは大王女の客……」
分部長が冷や汗を流している。
「さあさあ美少女ちゃん、二人で二階へ上がって、じっくりお話ししようじゃないか、ん?」
ジョンという男が、ユエの手を取ろうと身を乗り出してきた。
「え、えーっと……」
ユエは困惑し、その手を握るべきか迷っている。
「はははは!ジョン、そのお嬢さんは一人で巨鳥を一匹仕留めた強者だぞ? そんなにベタベタして大丈夫か?」
「……」
セントの一言で、ジョンの表情が凍りついた。事実とは違うけれど、いい助け舟だわ。
「ジョン、ユエ様に『超能ギルド』について説明してやってくれ」
「……ちっ。現れるのはむさ苦しい野郎か凶暴な筋肉女ばかりだと思ってたから、可愛い妹分に当たったと喜んだのに。これじゃあ……はぁ」
「ちょ、ちょっと! それどういう意味よ!? あたしが可愛くないってこと!?」
ジョンの言葉がユエの地雷を直撃した。瞬間、ユエが沸騰する。
〈ちょ、ユエ!下半身でしか物を考えられないような奴の言葉を真に受けないの!〉
「外見だけ可愛くてもなぁ……中身がそれじゃあねぇ」
ジョンは肩をすくめて首を振る。
「お姉さまを侮辱するつもり!?」
「姉貴、こいつ殺していい?」
ユユとゾゾが飛び上がり、その表情は一瞬で険悪なものに変わった。
「わあぁ! 皆さん、落ち着いてください!」
激怒するユエ、殺気を放つ双子、必死に宥めるセント、そして横で泡を吹いて倒れそうな分部長。
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「以上が超能ギルドの基本運営原則、および業務内容になります」
わたしたちはジョンに連れられて二階の個別会議室へと移動した。ジョンは簡単な自己紹介を済ませると、それまでの軽薄な態度をかなぐり捨て、ギルドの目的や設立理由、業務内容について極めてプロフェッショナルな説明を始めた。
ここで、わたしなりに情報を整理しておこう。
忠樺。超能ギルド嘉義支部のトップ業務員であり、次期嘉義支部長の座を内定されている実力者だ。
ありふれた黒髪のセンター分けだが、顔立ちはかなり整っている。左の耳たぶには銀のピアスが光っている。話し方から察するに三十歳前後といったところだろうが、身なりが若々しいため外見はもっと若く見える。
見た目だけでも結構いける、そして説明の最中に見せるプロ意識と流暢な口上は、さすが次期支部長。本気になれば確かな実力を持っていることが伺える。
さて、ここからが本題だ。
超能ギルド設立の目的は、その名の通り超能力者を「斡旋」すること。一般市民、さらには各政府からの依頼を超能力者に繋ぐ役割を担っている。
ギルドは台湾全土の大小あらゆる都市に支部を構えており、領地争いや戦争の影響を受けない唯一の機構だ。彼らは戦争への関与を拒み、政治への介入も一切行わない。政府からの委託も受けるが、それはあくまで民生上の必要性に限られ、政治問題には決して深入りしない。
ギルドがこれほど巨大な勢力を持ち、絶対的な中立を維持できているのは、敵対する勢力同士であってもギルドに手を出すことはないという、台湾全土における不文律があるからだ。
その主な理由は、一般市民にとってギルドが不可欠な存在であり、どの勢力にとっても欠かせない重要民生機関だからだ。彼らに手を下すなど、道徳上は許されないことだ。
さらに、ギルドを経て、いろんな組織の情報と資金を入り混じって、重要な中継器の役割も持つ、結果誰もうかつに手を出すことができなくなる。さもないとギルドに利益がある組織すべてと敵対することになるだろう。
この地位は、旧時代の赤十字社に近い。いや、後に官僚化しすぎて信用をどんどん失った赤十字社よりも、さらに強い権威を持っているようだ。
ギルドの主要業務は、民間や政府からの多様なニーズに対し、適切な超能力者を見つけ出して任務を遂行させること。簡単に言えば仲介業者、あるいは人材派遣会社のようなものね。
超能力者がギルドに登録されると、彼らは執行者――通称「隼」と呼ばれるようになる。彼らは常にギルドからの任務通知を受け取る可能性があり、言ってみれば派遣労働者に近い。わたしたちの知る「自ら仕事を探す」スタイルとは逆で、このギルドは派遣制。任務はギルドから分配されるものであり、望めば手に入るというわけではない。ただし、「隼」にはその任務を拒否する権利も与えられている。
ギルドの内外に溢れていたあの大勢の人々は、皆仕事を待っている連中だったというわけね。
これなら仕事に困ると思われそうだが、現在の台湾における超能力者の需要は極めて高い。民生建設や介護、果ては料理や乳搾りといった任務まで、千差万別だ。もちろん、商人の護衛や巨大な野生動物の駆除といった危険な任務もある。仕事に困ることはまずない、単に時間の問題なのだ。
「ずいぶん……色々あるのね」
ユエはただひたすら頷いているけれど、果たしてどこまで理解しているのやら。
ジョンが言葉を継ぐ。
「ええ。現在、各領地は主権の維持や他勢力の侵攻・略奪への対応に手一杯です。民政に構っている暇などありません。政府に煩雑な民生上の要望を出しても、まともに相手にはされないでしょう」
「なるほど。自分で民生事業を運営できる能力を持つ人は少ないから、このギルドが人材探しを手伝っているのね」
「正解です。建築会社などの私企業も存在し、自力で建設特化の超能力者を募集していますが、募集の範囲は限られています。ですから、多くの企業もギルドを通じて全台湾から人材を斡旋してもらっているのです。もちろん遠すぎていきたくない場合は、さっきも言った通り拒否権が持っています。そして派遣先が気に入ったら、ギルドを脱退し、そのままその会社の正式社員に着くこともできる。」
なるほど、全台湾からの募集、つまり超能力たちも全台湾のあちこちに派遣される可能性がある、だから隼と呼ばれるのね。
「そして最近の人気案件は、重要指名手配犯の捕縛や、潜在的脅威となる巨大野生動物の駆除ですね。危険ですが、期間が短い上、名声も報酬も非常に高いですから」
「大体分かったわ。でも、どうして犯人の捕縛を?警察はいないの?」
「……セントさん、これどう返せばいいんだ?」
ジョンは困惑した表情を浮かべ、セントに助けを求めた。
「はははは!ユエ様は本当に博識であらせられる。警察などというものまでご存知とは」
「え、えーっと……本で読んだのよ」
ユエは気まずそうに答えた。
「なるほど。ならばユエ様、かつての警察がどのような基盤の上で社会秩序を維持していたか、ご存知ですか?」とジョンが問いかける。
「え、えーっと……わ、分からないわ」
「一言で言えば、それは『暴力』です。それも合法的かつ正当な暴力です」
「暴力……」
「ええ。かつての警察は政府、ひいては国民から授権されていた。武力と公権力を合法的に行使し、不法を抑止、鎮圧することで治安を維持していたのです。同時に警察は政府と国民に管理され、武力を持っていても乱用できないようバランスが保たれていました」
「じゃあ、軍隊と変わらないのね?」
「軍隊との存在意義は異なります。担当する任務も対象も規模も全く違いますが、原理は同じですね。武力という最強の『抑止力』があったからこそ、警察は機能していた。一般市民が警察に逆らうことは、全国規模の暴動以外は不可能でした。一般人には武力がなく、たとえあっても、組織化され強固な指揮系統を持つ警察に対抗する術はなかったのです。ですが、今は……」
「一般人が、武力を持っているのね」
「その通りです、ユエ様。一般人が、一人で大勢をなぎ倒せるほどの強大な武力を手にしている。それはアメリカのように銃が所持され、政府に管理されているようなレベルではありません。何の管制も拘束も受けない、無秩序な武力がそこら中に転がっているのです。現在の台湾において、個人の武力は普遍的に認められた力であり、明確な法律も存在しない。警察が公権力を行使しようにも法律という根拠がないのです。抑止力として機能しない警察など、形骸化した存在に過ぎません。警察を呼ぶくらいなら、隣に住む隣人を呼んだ方が早いし強い、そんな世界ですよ」
「ユエ様、それこそが超能ギルドが存在する最大の意義なのです。民衆に仕事を与えて、生きる気力をもたらすだけでなく、治安維持と民衆の生命・財産保護、そしてある程度各領地の軍事拡張を抑えることができます。ギルドがなかったら、今この嘉義城のような活気あふれた町を作り上げることはまずありえないのです。」
セントがジョンの言葉を引き継いだ。
「分かったわ。過剰な力を持つ超能力者に仕事と報酬を与え、同時に超能力を合法的に行使できる目標を与えることで、彼らをコントロールしているのね」
「その通りです。各領地は長期にわたる戦争のため、治安維持に軍人を割く余裕などありません。仮にいたとしても、その軍人が犯罪者や野獣に勝てるとは限らない。我々の目的は、政府や民間が埋められないその欠落を補うこと。雇用を生むことで、困窮ゆえに犯罪に手を染める者を減らすことにも繋がります。すくなくとも、ギルドに入れば、昔のような奪い合いをしなくても生きていける」
「素晴らしい組織なのね……」
ユエはひたすら感心している。どうやら理解はできたようね。
「ええ、そうです。超能力の弱い俺でも、この体裁のいい仕事で女の子を口説けるかと思ったが、数年やっても結果は……」
ジョンは語り終えると、毒気を抜かれたように消沈してしまった。
惜しい性格ね。今の説明の鮮やかさなら、女の子の一人や二人、簡単に口説けそうなものだけれど。
「完全に理解したわ。それじゃあセント、ジョンさん。あたしをギルドに入れてもらえる?」
……はぁ!?
〈ユエ!わたしの話を全然聞いていなかったの!?〉
ミッションをこなすゲームに興じている暇なんて、わたしたちにはないのよ!




