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探偵は記憶喪失。犯人だけがわかってしまう。  作者: 一 偏次
第一章 探偵会会長「殺人事件」

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第四話 慈烏反哺-3 ~事件発見~

 分厚いはずの扉の先から聞こえてきたその音は、虚呑(このみ)の本能へと危険を知らせた。

 覇方(はかた)虚呑(このみ)を自身の後ろへと手で誘導し、試言(みこと)へ頷いた。

 面火(めんひ)はためらいながらも、続いて試言(みこと)へと目を合わせた。

 試言(みこと)は3回ノックした。しかし、返事はなかった。


「会長、入ります」


 扉の軋んだ音は、試言(みこと)が扉を勢いよく開ける音にかき消された。


 中には男と女が1人ずつ。

 試言(みこと)以外の足が、確認することを拒むように、一瞬止まった。

 虚呑(このみ)が目をやったころには、試言(みこと)に組み伏せられ、銃を持った鳥族の男は気絶していた。

 そして、革張りの椅子に座っている人物。その女は、机へうつ伏せになっていた。


「会長……!」


 面火(めんひ)は、その会長と呼ばれた、うつ伏せになっている人物へと駆け寄った。

 長い尻尾が力なく床へと倒れ、色の抜けた肌が机の黒とコントラストをなしていた。

 揺さぶられることで、つやのない長い髪がばたりと倒れた。


「救急と警察を。電話機は?」


 覇方(はかた)は顎へ伝う汗を拭い、冷静を装って尋ねた。

 虚呑(このみ)は、面火(めんひ)が首を振らないことを祈った。

 面火(めんひ)は何度も首や胸元、手首を確認した。そして一呼吸おいて、会長から手を離した。


「救急車はいい」


 机に手をついて、面火(めんひ)は自身を支えた。

 それなのに、彼女は真っ直ぐな目をしていた。

 虚呑(このみ)は焦点を、ようやく会長へと合わせた。


「ここに銃の痕があるけど、ぜんぜん血が垂れてない。亡くなった後に撃たれたってことだよ」


 面火(めんひ)が指した額辺りに血が滲んでいた。

 しかし、一般に想像するような、撃たれたあとの血の出方ではなかった。

 虚呑(このみ)は唾を飲み、唇を噛んだ。

 発砲で亡くなった訳ではないということが、この部屋を一段と冷え込ませた。


「警察もやめておけ」


 試言(みこと)の張った低い声が頭に響くようだった。

 彼は大きな手を、血が垂れるほどに強く握った。


「歴代の会長はみな何かしらの事件に巻き込まれ死亡した。調べによれば、捜査を担当したのは全て特殊収束室だ」


 捜査一課 特殊収束室を、虚呑(このみ)は知っていた。

 ちょうど昨日、 此岸(しがん)が言及していたこと。

 彼らが担当した事件は、どれも証拠が改ざんされているという噂があった。

 彼女は、震える膝をおさえた。


「今、真相を明かさなければならない」


 試言(みこと)は会長へとゆっくり目を向けた。

 虚呑(このみ)には差し出せるものがない、代償を支払うことでしか価値はない、そう言われている気がした。

 虚呑(このみ)は首を振り、息を軽く吸った。


「それならまず、私が能力で犯人を」


「だめ」


 覇方(はかた)は被せるように、その言葉を発した。

 虚呑(このみ)は一度強い瞬きをした。

 震えた手で自身の唇を撫で、覇方(はかた)は深く息を吐いた。


「……一度、4人で捜索しよう。警備員がいなかったのが気になる」


 鳥族の男──鳥男を厳重に縛り上げ、試言(みこと)が台車ごと運んでいた。

 虚呑(このみ)覇方(はかた)の横顔を見たが、読み取れることは何もなかった。

 4人は、再び1階へと降りた。

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