表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵は記憶喪失。犯人だけがわかってしまう。  作者: 一 偏次
第一章 探偵会会長「殺人事件」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/7

第四話 慈烏反哺-2 ~事件発見~

 龍族の男は虚呑(このみ)を一瞥すると、目が合った途端に目を逸らした。

 そして、そんなところを見た覇方(はかた)は男を睨みつけ、男もそれを返した。

 自分とこの男、そしてこの男と覇方(はかた)は知り合いなのだろうか。覇方(はかた)のこの顔は、見知らぬ間の人に見せるような顔ではなさそうだと、彼女は感じた。


「も〜!そんなんだから、ふられ」


 少女は男に軽く一殴りされると、急にしおらしくなった。

 涙目になりながら、少女は自らの頭を撫でた。


「きみたちは何者なんだ」


 虚呑(このみ)は無意識に、覇方(はかた)の裾を握った。

 覇方(はかた)が抵抗しなかった。だから彼女はただついて行った。

 彼女にとっては、目の前の男も、少女も、下手すると誘拐犯そのものだった。


「何者、か」


 男は悲しみも喜びもなく、平坦に虚呑(このみ)の言葉をなぞった。

 表情を変えることはなく、男は言葉を切った。

 虚呑(このみ)が男の顔を見ても、何かヒントを得られるわけじゃなかった。


「記憶喪失なんだ。きみたちのことを忘れてしまったのかもしれない」


 居心地の悪さに耐えかねたように、虚呑(このみ)は言葉を漏らした。

 彼女は2人の顔をちらちらと見た。

 少女はあくびをして、男はただ目を伏せただけだった。


面火(めんひ)は初対面だけどね?というか!なよなよ助手は、なんで車の中ででも面火(めんひ)のこと紹介してくれなかったわけ?」


 少女は覇方(はかた)を見て、小さい身体で足をじたばたとしていた。

 覇方(はかた)は口角を無理やりあげて、苦笑いをした。


仮銘(かめい) 面火(めんひ)面火(めんひ)のフルネーム!それで、3級探偵!こっちは無愛想なドラゴンちゃんね?」


 一体どのくらいまで級があるのだろうか。今まで虚呑(このみ)が出会ったのは、柚原 此岸の特級、そして覇方(はかた)の1級しかいなかった。

 彼女はその、「無愛想なドラゴンちゃん」に目を合わせた。


辰宿(ひやどり) 試言(みこと)だ。会長の命とはいえ、助手の立場でそんな態度とはな。豪胆なものだ」


 試言(みこと)面火(めんひ)に、冷ややかな視線を送った。

 会長とは、探偵会の会長を指すのだろう。

 彼の大きな尻尾が、怒りからか少し上がっていた。

 覇方(はかた)は口を抑えて咳払いをし、なんとか笑いを抑えていた。


「え、え〜っと!一応辰宿(ひやどり)さんも、特級探偵なんだよ。あと会長もだけど」


 面火(めんひ)は怯えるように、わざとらしい「さん」をつけた。

 虚呑(このみ)にとって、自身を含めると15人のうちの3人目、会長も含めると4人目の特級探偵だ。


「特級探偵って、もしかして探偵の中では珍しく無いのか?」


 特級と付く割には、虚呑(このみ)の周りに全体の5分の1もいた。

 彼女は探偵ならば、大半は特級なのではないかという推測をした。


「あははは!そんなわけないでしょ!まあ活躍するのは大抵1級か特級だからぁ、……んふ、ふふっ、新聞の中では珍しくないかもぉ?」


 面火(めんひ)はお腹を押さえて笑った。

 そんな姿に、虚呑(このみ)は眉を下げた。

 どうやら、彼女の疑問はあまりにも間抜けだったようだ。

 付け加えるようにフォローされたことが、彼女の心を一層傷つけた。


「特級探偵って、何ができるんだ?」


 虚呑(このみ)はさんざん特級探偵が「すごい」という話は聞いていた。しかし、具体的にどう「すごい」のか、未だに彼女には想像できなかった。

 単なる名誉称号だったりするのだろうか。


「警察の捜査の指揮をちょっとできたり、探偵資格がない助手を事件現場に2人まで連れていけるとか、被疑者指名権があったりとか」


 これらを言えることが一種のステータスのように、面火(めんひ)は背伸びをしながら言った。

 彼女は試言(みこと)へ白い目で見られているのにも気がつく気配がなく、すらすらと言い続けた。


「あと、不捜査特権ってのがあって、探偵の自由がどうとかで悪いことしてる疑いあっても捜査されないんだって」


 警察の捜査の指揮権があるとは、さすが「すごい」資格だ。

 しかし、今の虚呑(このみ)には、助手は1級探偵の覇方(はかた)しかいない。彼女にとっては良い特典と言えなかった。

 不捜査特権は、どう考えても悪用しかされなさそうな代物に思えた。


「その、被疑者指名権って?」


 虚呑(このみ)にとっては当然の疑問だった。しかし、どうやら当然であるべきではないらしい。

 面火(めんひ)は鼻で笑い、足でどんと地面を蹴った。


「被疑者指名権は、『探偵が犯人として指名した者は、必ずその事件の被疑者となる』ってやつ」


 わざわざ特級探偵の権利として示す必要があるのだろうか。虚呑(このみ)は「はぁ」と相づちを打った。

 どうにも反応が悪いことに気づき、面火(めんひ)はさらなる説明を加えた。


「例えばAがAのものを盗んだ犯人に指名されたら、Aが窃盗事件の被疑者になるの!」


 謎の例えを、面火(めんひ)は腰に手を当て、カッコつけるようにして言った。


「えっと、その。うん……」


 虚呑(このみ)はぼんやり口を開けたまま、返事とも言えない返事を投げた。

 面火(めんひ)はあまりにも理解しない様子に地団駄を踏んだ。


「楽しくおしゃべりするのもいいけど、本題に入らせてほしいな」


 覇方(はかた)は困ったように、それでもどこか嬉しそうに言った。

 こんな所にいるというのに、あまりに気が抜けていたことを、虚呑(このみ)は反省した。


「迎えがあるとは聞いてなかったよ。それに、なんで時間通りに来なかったんだ?13時に来いって話だったのに。電話してほしかったなぁ」


 覇方(はかた)試言(みこと)へと身体を向け、爽やかな笑顔で笑っていた。

 しかし、声には怒りが滲み、再び緊張感を空気に戻した。

 目線は試言(みこと)に送られていたが、なぜか面火(めんひ)が怯えていた。


「事務所の電話機は、何年も前に壊れたと聞いている。一体どうやって電話すればいい」


 試言(みこと)は舌打ち混じりに、眉をひそめた。

 D区の電話機が壊れやすく、携帯電話が一切普及していないことへの噂を、虚呑(このみ)はなぜか覚えていた。

 といっても、怪電波を政府がとか、にわかには信じられない陰謀論のような話ばかりだったはずだ。


「そんなことより、送った手紙に書いたはずだ。9時半に着きたいから、9時10分に迎えに行くと。まさか会長の命に反するとは」


 覇方(はかた)が反論するように、試言(みこと)にハガキを見せた。

 虚呑(このみ)からは中身は見えなかったものの、裏面の少し歪んだ「辰宿(ひやどり) 試言(みこと)」という文字が読めた。


「俺の字ではない。そもそも、手紙を送った。……それに、この内容も。誰がこんなことを」


 試言(みこと)は思い当たることがあるような無いような顔で、ハガキを弄んでいた。

 そんな彼から奪い取るように、覇方(はかた)はハガキを手元へと戻した。

 覇方(はかた)はしばらく顎に手を当て、ハガキの表面を読み返した。

 虚呑(このみ)が覗き込もうとするのに気づくと、焦ったように再び試言(みこと)へと押し付けた。

 虚呑(このみ)試言(みこと)は苦い顔を並べた。


「も〜。せっかく着いたんだし、早く入ろうよ」


 面火(めんひ)の飽き飽きしたような声へ引かれるように、大きなビル──探偵会本部へと進んだ。




 エントランスへと進むと、現代的な内装と、一時代昔の壁面が、建物としての歴史を感じさせた。

 観葉植物があちこちに植えられていた。しかし、食虫植物のようなものばかりで、選んだ人の「趣味」が反映されていた。


「あれ、警備員さんは?休館日だから?」


 面火(めんひ)は辺りを見回した。しかし、節電仕様の灯りがついているだけで、がらんとしていた。

 あまりの音のなさに、虚呑(このみ)は耳を立てた。


「いや、警備員は必ず配置されているはずだ。早く会長室へ」


 試言(みこと)は自身の頬を握るように触った。

 焦りが滲むような試言(みこと)の声が妙に響いた。

 4人は足早に、エレベーターへと乗り込んだ。

 試言(みこと)は複数のボタンを、なにやらコマンドのように押していた。

 着いたのは最上階ではなく、17階だった。

 廊下を曲がると、重厚な観音開きの扉があり、その上には会長室と記されていた。


 耳が痛むような音。破裂音というより、空気を割ったような音。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良い意味でキャラクターの色が強い物語の印象を受けます。 その中でサスペンス要素が加わり、先が楽しみになる構成になっているところが好感です。 緊張感も伝わってきてとてもよく、星を5つ入れさせていただきま…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ