第63話 竜との再戦・後編
竜の赤い瞳が、レオンを捉えていた。
「フェン、走れ!」
「ワウッ!」
フェンが雪を蹴る。
直後、真上から灼熱の炎が降り注いだ。
黒い岩が溶け、雪が蒸発し、谷全体が陽炎に揺れる。
「ぐっ……!」
風走りの靴の加速で、辛うじて直撃を避けた。
それでも、背中を焼く熱は容赦なく肌を刺す。
竜は翼を畳み、急降下してきた。
巨大な爪が、さっきまでいた岩場を抉る。
「速い……!」
レオンは岩陰に転がり込んだ。
杭は、あと二本。
三本目は谷の北側。四本目は、竜の巣の奥だ。
どちらも、竜が暴れ回る空の下を駆け抜けなければ辿り着けない。
岩陰から、北側の杭を覗き見る。
観察眼を向けた瞬間、レオンは眉をひそめた。
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【解析】
呪縛の杭(残り二本)
呪いが集中し、黒い霧の膜に覆われている
星の力だけでは、膜に弾かれる
穢れを払う力が必要
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「……弾かれる?」
一本目も二本目も、手甲を押し当てるだけで砕けた。
けれど、杭が減るほど、残った杭に呪いが集まっているらしい。
このまま手甲を叩きつけても、膜に阻まれて終わりだ。
「穢れを払う力……。」
真っ先に浮かんだのは、リリアの顔だった。
聖魔導士なら、浄化の魔法が使えるはずだ。
けれど、リリアは尾根の上にいる。杭に触れられる距離まで、彼女を連れてくる余裕はない。
「どうする……。」
息が荒い。
観察眼は、竜の動きを細かく映している。けれど、動きが読めても、体が追いつかなければ意味がない。
その時、ふと思い出した。
今日の無料10連は、まだ引いていない。
「……こんな時に頼るのも、変な話だけどな。」
レオンは岩陰に身を寄せ、画面を開いた。
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無料10連
READY
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「一瞬で終わらせる。フェン、守ってくれ。」
「ワウ!」
フェンがレオンの前に立ちはだかり、頭上を睨んだ。
白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、白、白、白、白、白、白、金、金。
「金が二つ……!」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《耐熱の外套》(SR)
炎や熱波を和らげる、魔力を帯びた外套。
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「これは助かる……!」
レオンは外套を羽織った。
体を包んでいた熱が、すっと引いていく。
もう一枚のカードに目を移して、息が止まった。
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【NEW】
《スキルカード:浄化の光》(SR)
魔力に絡みついた呪いや穢れを、光で洗い流す。
由来職業:聖魔導士
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「由来……職業?」
これまでのスキルカードに、そんな項目はなかった。
観察眼が★3になって、カードの出自まで見えるようになったのだろう。
それよりも。
「聖魔導士って……リリアの職業だ。」
頭の中で、いくつかの断片がつながりかけた。
けれど、竜の咆哮が、思考を断ち切った。
「考えるのは、後だ!」
カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。
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【スキル習得】
《浄化の光》 ★1
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体の奥に、温かな光の感覚が灯った。
使い方が、そのまま頭に流れ込んでくる。
レオンは、岩陰から飛び出した。
竜が炎を吐く。
外套が熱を受け止めた。完全には防げないが、それでも動ける。
三本目の杭は、すぐそこだった。
「頼む……効いてくれ!」
杭に向けて、手のひらを突き出す。
「浄化の光!」
柔らかな白い光が、掌から溢れた。
杭を覆う黒い霧の膜が、氷が溶けるように薄れていく。
露わになった黒い結晶へ、右手の手甲を叩きつけた。
青い光が走る。
杭は音もなく砕け散った。
「やった……!」
その瞬間、竜が苦悶の声を上げ、空中でぐらりと傾いた。
◇◆◇
尾根の上では、リリアが息を呑んでいた。
「杭が、三本目……!」
「ホゥ!」
ミラが翼を広げて警告する。
竜が、進路を変えた。
谷の底ではなく、尾根のほうへ、真っ直ぐ向かってくる。
「こっちに来る!?」
リリアは杖を構えた。
赤い瞳が、真っ直ぐに自分を捉えている。
恐怖で足が竦みそうになった。
それでも、逃げなかった。
「ウィンドウォール!」
風の壁が、尾根に立ち上がる。
炎が壁に叩きつけられた。
轟音。熱風。
リリアの体が、後ろへ吹き飛ばされた。
「きゃ……っ!」
岩に背中を打ちつける。
息が詰まった。
それでも、杖は離さなかった。
竜が、もう一度、大きく息を吸い込む。
「リリア!」
谷の底から、レオンの叫びが響いた。
その時、東の斜面から、黒い影が跳び上がった。
「はああああッ!」
アレスだった。
魔物の群れを抜けてきたのだろう。全身に火傷と傷を負いながら、竜の頭上へ跳躍する。
大剣が、竜の翼の付け根に叩き込まれた。
竜が体勢を崩す。
「今だ、リリア!」
「うん! ウィンドランス!」
リリアの風の槍が、同じ場所を貫いた。
翼の付け根が、びくりと揺れる。
巨体が、ゆっくりと傾いていった。
「もう一押し……!」
レオンは、氷晶の短剣を抜いた。
高度を落とした竜の後ろ脚へ、斬撃を叩き込む。
冷気が、竜の脚を這い上がっていった。
動きが鈍る。
「グオオオオッ!」
竜が、地響きとともに地面に叩きつけられた。
岩場が割れ、雪煙が舞い上がる。
竜は地面に伏したまま、藻掻いた。
「降りたぞ!」
アレスが、竜の翼を押さえつける。
「レオン! 残りは!」
「四本目! あっちだ!」
レオンは、竜の巣の奥を指差した。
竜の巨体の向こう、岩場の最奥に、最後の杭がそびえている。
黒い霧の膜が、さらに濃くなっていた。
「そこまで、道を作る!」
「お願い!」
リリアが、尾根から滑り降りてきた。
息が荒く、頬には煤がついている。
けれど、杖を握る手は、しっかりと前を向いていた。
「ライトランス!」
光の槍が、竜の巨体の脇を駆け抜け、行く手の魔物を貫く。
竜が咆哮した。
「行け、レオン!」
アレスの叫びを背に、レオンは走った。
竜の尾が振り下ろされる。
フェンが飛び込み、尾に噛みついて軌道を逸らした。
「ワウッ!」
道が開く。
レオンは、全力で駆け抜けた。
四本目の杭が、目の前にある。
「これで……最後だ!」
左手の浄化の光で、膜を剥ぐ。
右手の手甲を、露わになった結晶へ叩きつける。
「はああああっ!」
黒い結晶に、強烈な光が走った。
亀裂が、杭全体に広がる。
そして、轟音とともに砕け散った。
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【黒い杭の破壊(二本)】
+16Pt
【今回の獲得】
+16Pt
【運命ポイント】
69Pt → 85Pt
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四本の杭が、全て壊れた。
竜の首の鎖が、ぎしぎしと軋む。
黒い糸が、一本、また一本と千切れていった。
「あとは……核だ!」
レオンは竜の元へ駆け戻った。
喉元の傷の奥で、黒い結晶が脈打っている。
拘束の核。
竜の瞳が、レオンを見た。
赤く濁っていた瞳が、少しずつ澄んでいく。
「俺は、お前を解放しに来た。」
レオンは、ゆっくりと手を伸ばした。
「少しだけ、痛むかもしれない。」
竜は動かなかった。
低く、喉を鳴らしただけだった。
その巨大な瞳が、静かに、レオンの手を受け入れていた。
「いくぞ……!」
手甲を、核に押し当てる。
同時に、浄化の光を重ねた。
白と青の光が、竜の喉元で弾ける。
黒い結晶が、悲鳴のような音を立てて砕け散った。
鎖が、完全に消える。
谷を満たしていた重い気配が、霧のように晴れていった。
◇◆◇
静寂が戻ってきた。
竜は、ゆっくりと巨体を起こした。
赤かった瞳は、深く、静かな金色に変わっている。
レオンたちを一人ずつ見渡し、それから、長い首をゆっくりと垂れた。
「……礼を、言う。」
低く、地鳴りのような声が谷に響いた。
「星を継ぐ者よ。」
「喋った……。」
リリアが息を呑む。
「我は、長き時の中で、縛られていた。思い出せぬほどの、長き時を。」
竜の瞳が、ゆっくりと瞬く。
「お前の手甲の光を、覚えている。かつて、同じ光を持つ者たちが、我をここに連れてきた。」
「古代の、星を継ぐ者たち……。」
レオンは呟いた。
「そうだ。彼らは、我に『扉の番』を頼んだ。」
「扉の……番。」
竜の瞳が、遠い西の空を見た。
「影の主は、その番を奪い、扉を欲した。我を鎖で縛り、意のままに動く獣に変えた。」
竜は、そこで言葉を切った。
焼け落ちた谷の彼方、遠い北の集落の方角へ、金色の瞳が向けられる。
「……我の炎が、多くを焼いた。それは、消えぬ。」
「あなたのせいじゃ、ない。」
リリアが、小さく首を振った。
「縛られていたんでしょう?」
「それでも、焼いたのは我だ。」
竜は静かに言った。
アレスが、何か言いかけて、口を閉じた。
拳を握ったまま、黙って竜を見つめている。
「西だ。扉は、西にある。」
竜は、レオンを見た。
「影の主は、お前を待っている。だが、お前ひとりでは行くな。……星の力は、仲間と共にあってこそ、環を成す。」
「……分かった。」
「少しだけ、眠らせてくれ。話の続きは、目覚めてから。」
金色の瞳が、静かに閉じる。
大きな胸が、穏やかに上下し始めた。
「……終わったな。」
アレスが、大剣を地面に突き立て、その場にどさりと座り込んだ。
全身が火傷だらけで、肩で息をしている。
「アレスさん! すぐ治しますから!」
リリアが駆け寄り、回復魔法をかけ始めた。
「ホゥ。」
ミラが、レオンの肩に降りてくる。
フェンが、足元にぐったりと座り込んだ。
レオンは竜を見上げた。
その寝顔は、長い悪夢から解き放たれた子供のように、穏やかだった。
その時、目の前に、見慣れた表示が浮かぶ。
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【古の竜の解放】
+20Pt
【今回の獲得】
+20Pt
【運命ポイント】
85Pt → 105Pt
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「……105。」
レオンは、小さく息を呑んだ。
100を超えた。SSR確定ガチャが、また使えるようになったのだ。
けれど、今は、それよりも気になることがあった。
◇◆◇
しばらくして、傷の手当てを終えたリリアが、レオンの隣に腰を下ろした。
アレスは少し離れた岩に背を預け、目を閉じている。眠っているのか、考えているのか、分からない。
「ねえ、レオン。」
リリアが声を落とした。
「さっきの光、私の浄化魔法に、よく似てた。」
「……ああ。似てて当然だ。」
レオンは右手を開いた。
掌には、まだ温かな光の余韻が残っている。
「あれは、ガチャから出たスキルだ。由来職業は、聖魔導士。……リリアの、職業だ。」
「え……?」
リリアの目が、丸くなった。
「私の職業の、スキルを? レオンが?」
「ああ。観察眼が★3になって、カードの出どころまで見えるようになった。だから、間違いない。」
レオンは、そこで言葉を切った。
頭の中で、断片が一つずつ噛み合っていく。
観察眼、気配察知、耐寒、隠密。
これまで引いたスキルは、誰にでも使えそうなものばかりだった。
そこに今日、聖魔導士の力が混ざった。
どの職業のスキルなのかなんて、これまでは気にしたこともなかった。
「ガチャ師って、さ。」
レオンは、ゆっくりと口を開いた。
「剣士の技も、魔導士の魔法も、聖職者の祈りも、全部、引ける職業なのか?」
「それって……。」
リリアが息を呑む。
「石版にあった。『星を継ぐ者は、すべての力の源に触れる』って。」
「うん……。」
「影も言ってた。お前は、その意味をまだ理解していない、って。」
「じゃあ、それが……。」
「ああ。」
レオンは、自分の掌を見つめた。
「外れ職なんかじゃ、ない。……逆かもしれない。」
離れた岩の上で、アレスが、ゆっくりと目を開けた。
「……やっと、気づいたか。」
低い声が、風に混じって届く。
「俺は、ずっとそう思っていた。」
レオンは、苦笑するしかなかった。
「先に言ってくれよ。」
「確証がなかった。お前自身が、気づくべきことだった。」
アレスは、それだけ言って、また目を閉じた。
リリアが、くすりと笑う。
レオンは、空を見上げた。
雲の切れ間から、朝の光が差し込んでいる。
その光の中で、竜の黒い鱗が、うっすらと青く輝いていた。
全職業のスキルを引ける。
その意味を、すべて理解するには、まだ時間が足りない。
けれど、ひとつだけ、確かなことがあった。
「……ガチャは、まだまだ終わらないな。」
レオンは、小さく呟いた。
その口元は、自然と、笑みの形になっていた。
(第64話へ続く)
【あとがき】
第63話を読んでいただき、ありがとうございました!
四本の杭を破壊し、ついに竜を解放しました。土壇場で引いたスキルカードは、リリアと同じ聖魔導士の《浄化の光》。ここでレオン自身が、「ガチャ師はあらゆる職業のスキルを引ける」可能性に気づきます。
運命ポイントは69Ptから105Pt。再びSSR確定ガチャが使える状態になりました。
次回、第64話は「最強の証明」です。お楽しみに!




