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俺だけ毎日無料10連!~ハズレ職《ガチャ師》は、世界で唯一ガチャが終わらない~  作者: 春野ケイ


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第61話 作戦会議

 洞窟の入口から差し込む朝の光が、岩壁をうっすらと白く染めていた。


 レオンは、冷たい岩肌に背を預けたまま、目を覚ました。


 昨夜の逃走の疲れが、まだ体の芯に残っている。


「起きたか。」


 洞窟の入口で、アレスが外を見張っていた。


「どうだ?」


「追手はいない。雪崩が効いたんだろう。」


 アレスは振り返らずに答える。


「ミラの羽根は?」


「見てみろ。」


 レオンは、毛布の中で丸くなっているミラを、そっと抱き上げた。


「ホゥ。」


 小さな梟が、眠そうに目を開ける。


 その羽根の先を見て、レオンは眉をひそめた。


「……赤くない。」


「そうだ。昨夜の夜半から、少しずつ薄れていった。」


 アレスが頷く。


「影が、この辺りから離れたんだろう。」


「西ノ果テデ、待ッテイル、って言ってたな。」


「ああ。本当に、そっちへ向かったのかもしれない。」


 アレスは、少し考えてから言った。


「ならば、今、あの谷には影がいない。」


「……そうか。」


 レオンは、ゆっくりと息を吐いた。


 竜は、影の命令を聞かなかった。


 赤い瞳は、影ではなく、レオンの手甲を見ていた。


「ねえ、みんな。」


 リリアが、目をこすりながら起き上がった。


「朝ごはんを食べながら、話し合おう? ちゃんと、これからのこと。」


「そうだな。」


 三つの椀に、干し肉と雪を溶かした湯で作ったスープが注がれていく。


 湯気が、洞窟の冷たい空気に溶けていった。


◇◆◇


「まず、状況を整理しよう。」


 レオンは、地面に小石で簡単な図を描いた。


「谷には竜と、百を超える魔物の軍。影は、おそらく西へ向かった。雪崩で、軍の一部は動けなくなってる。」


「ああ。」


「ここまでが、確かな情報。……問題は、竜だ。」


 レオンは、小石を一つ、図の中央に置いた。


「竜は、影の命令を聞かなかった。それなのに、砦を襲って、集落を焼いたのは、竜だ。」


「命令を、聞いていたはずだよな。」


「ああ。つまり、あの竜は、『聞けない時』と『聞く時』があるんだ。」


 アレスが、眉を寄せる。


「どういうことだ。」


「たぶん、何かで縛られてる。普段は縛りが効いてて、影の命令に従ってる。でも、昨日は、縛りに綻びがあった。」


「綻び……?」


「俺の、手甲に反応した。」


 レオンは、袖をまくった。


 星継ぎの手甲が、洞窟の薄暗がりの中で、淡く光っている。


「竜の瞳は、これを見て揺れてた。敵意でも怒りでもなくて、何か……懐かしむような。」


「懐かしむ……。」


 リリアが小さく呟いた。


「もしかして、この手甲を作った古代の人たちと、竜は、昔、繋がりがあったのかな。」


「その可能性はあると思う。」


 レオンは、遠見の水晶を取り出した。


「昨日、水晶越しに竜を見た時。……あの時は気付かなかったけど、今になって、思い出したことがある。」


 水晶を覗き込む。


 記憶の中の竜の姿が、水晶の表面に、うっすらと浮かび上がった。


「竜の首の付け根に、黒い鎖みたいな模様があった。」


「鎖?」


「ああ。鱗の隙間に、まるで焼き付けたみたいな、細い黒い線が絡みついてた。あれが、縛りの正体かもしれない。」


 アレスが、はっとしたように顔を上げた。


「俺が斬った、喉元の傷……。」


「そう。あの傷は、その鎖のすぐそばにある。傷のせいで、鎖が弱まってたのかもしれない。」


「なるほど……。」


 アレスは、腕を組んで考え込んだ。


「つまり、あの鎖を断ち切れば、竜は影の支配から解かれる、ということか。」


「可能性は、高い。」


「だが、そう簡単じゃないぞ。」


 アレスが、険しい顔で言う。


「谷には、まだ軍が残ってる。それに、竜自身が、暴れ出す危険がある。」


「分かってる。……だから、段取りが要る。」


 レオンは、小石をいくつか並べ直した。


「一つ目。軍を、竜から引き離す。」


「二つ目。竜を、地面に降ろす。」


「三つ目。俺が竜に近づいて、鎖に手甲で触れる。」


「……お前が、一番危険な役じゃないか。」


「手甲に反応したのは、俺の方だ。他の誰にも、できない。」


 レオンは、静かに言った。


「だから、他のみんなには、俺が竜に辿り着けるように、道を作ってほしい。」


 洞窟の中が、しんと静まり返った。


「……無茶を言うな。」


 最初に口を開いたのは、アレスだった。


「もし失敗したら、お前が一番危ない。」


「分かってる。」


「リリアは、どう思う?」


 アレスが、リリアを見る。


 リリアは、少しの間、黙っていた。


 それから、ゆっくりと顔を上げた。


「私は、反対したいよ。」


 その声は、静かだった。


「怖いし、危ないし、レオンに何かあったらって思うと、胸が苦しくなる。」


「リリア……。」


「でも、レオンが決めたことなら、私は一緒にやる。レオン一人にはさせないよ。」


 リリアは、まっすぐにレオンを見て、微笑んだ。


「だから、約束して。無茶はしても、無理はしない。危なくなったら、必ず、私たちを頼って。」


「……ああ。約束する。」


 レオンは、深く頷いた。


 アレスは、小さく息を吐いた。


「分かった。俺も付き合う。……ただし、俺が危ないと判断したら、その時点で作戦は中止だ。いいな。」


「了解。」


「よし。」


 アレスが、地面の小石を睨む。


「では、具体的な手順を詰めよう。」


◇◆◇


 その日の午後、レオンとアレスは、隠密と気配察知を使って、谷の縁まで偵察に出た。


 レオンは、新しく手に入れた隠密に意識を向けた。


 自分の気配が、すっと薄くなる。


 足音も、雪を踏む感触も、まるで世界から切り離されたように静かだった。


「……これは、便利だな。」


「お前が静かになるのは、少し不気味だ。」


 アレスが、小声で言った。


 尾根の岩陰から、そっと谷を覗く。


 眼下の光景は、昨日とは明らかに違っていた。


 整列していた魔物たちの姿は、まばらになっている。


 雪崩に飲まれた一帯では、傷ついた霜牙ウルフや雪鬼が、雪の中でもがいていた。


 統率を失ったように、あちこちをうろついている魔物も多い。


「影がいないと、あの程度か。」


「完全に統率が解けたわけじゃない。でも、動きが散漫だ。」


 アレスの目が、細くなる。


 谷の中央で、竜は静かに横たわっていた。


 今度は、観察眼を全開にする。


────────────────


【解析】


古の竜(拘束状態)


首の付け根に、魔力の鎖による拘束


弱点:拘束の核(喉元の傷の奥)


────────────────


「やっぱり……。」


 レオンの声が、わずかに震えた。


 竜の首に、黒い鎖が見えた。


 鎖は、地面に、そして遠く西の空へと伸びているように見える。


 その時、レオンの前に、見慣れた表示が浮かんだ。


────────────────


【竜を縛る魔力の鎖・発見】


+6Pt


【運命ポイント】


42Pt → 48Pt


────────────────


「何か出たか。」


「いや、大したことじゃない。」


 レオンは短く答えた。


 それよりも、竜の胸が、ゆっくりと上下しているのを見て、胸が詰まるような気持ちになった。


 あの鎖の下で、竜は、ずっと苦しんでいたのかもしれない。


 古の竜。


 解析にそう表示されたことが、頭から離れなかった。


◇◆◇


 その夜、洞窟で作戦の最終確認をしたあと、レオンは、静かに画面を開いた。


────────────────


無料10連


READY


────────────────


 白い空間に、黒い本が浮かぶ。


 夜空に十本の光の柱が立ち上る。


 白、白、白、白、青、白、白、白、白、白。


「Rが一つ。」


 光が収まり、カードが姿を現す。


────────────────


【NEW】


《スキルカード:観察眼》(R)


すでに習得済みのスキルです。


────────────────


────────────────


【スキル進化】


《観察眼》 ★2 → ★3


対象の「状態」と「構造」まで、見通せるようになる。


────────────────


 カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。


 その瞬間、世界の見え方が、また一段階変わった。


 壁の岩の層、積もった雪の下の地形、仲間たちの息遣いのリズム。


 それぞれが、細かな線と模様として、頭の中に流れ込んでくる。


「……すごいな、これ。」


 洞窟の隅で、ミラがこちらを見ていた。


 その小さな体の中を流れる魔力の筋までもが、淡く透けて見える。


「明日は、これが役に立つはずだ。」


 レオンは、静かに呟いた。


 竜の鎖の構造を見抜けるかもしれない。


 洞窟の入口では、アレスが、黙って剣の手入れをしている。


 リリアは、杖に魔力を込めながら、小さく祈るように目を閉じていた。


 フェンが、レオンの足元で、静かに丸くなる。


 夜が、静かに更けていった。


 夜明けまで、あとわずか。


(第62話へ続く)


【あとがき】


第61話を読んでいただき、ありがとうございました!


影の居ない谷で、竜を縛る「魔力の鎖」の存在が明らかになりました。竜を解放するために、レオンたちは大きな賭けに出ます。


運命ポイントは42Ptから48Pt。観察眼は★3へ進化し、見通せるものがさらに増えました。


次回、第62話からいよいよ竜との再戦です。お楽しみに!


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