第58話 石版の続き
翌朝、ダンカンの小屋には、薪の弾ける音と、紙をめくるような乾いた音が響いていた。
囲炉裏の傍らの床に、氷の石版が置かれている。
レオンは片眼鏡を構えたまま、石版の表面をじっと見つめていた。
「どう? 読めそう?」
リリアが、湯気の立つお茶を差し出してくれる。
「ありがとう。……なんとか、半分くらいは。」
レオンは椀を受け取り、一口だけ啜ってから、また石版に視線を戻した。
観察眼に意識を集中させる。
氷の下に刻まれた細かな文字が、少しずつ、輪郭を持って浮かび上がってくる。
「ホゥ。」
肩の上のミラが、小さく首をかしげた。
足元では、フェンが囲炉裏の火の前で丸くなっている。
アレスは少し離れた壁際で、大剣の刃を砥石で研いでいた。
しゃり、しゃり、という規則正しい音が、静かな小屋に響く。
「……出た。」
レオンは息を詰めた。
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【解析】
古代の石版(氷瀑の祠)
一部判読可能
「星を継ぐ者は、すべての力の源に触れる」
「ゆえに王は恐れ、ゆえに星は眠らされた」
「星の環は、六つの点で閉じる」
「環が閉じる時、扉は開く」
「開けるのは、星を継ぐ者のみ。されど、追う者もまた、扉を欲する」
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リリアが、そっと息を呑んだ。
「すべての力の源……。」
「環が閉じる時、扉が開く、か。」
レオンは石版を見つめたまま、呟いた。
六つの点。
これまで見つけた遺構を数えていく。
忘れられた洞窟、旧採掘場、廃教会、石橋、星の中枢。そして、この氷瀑の祠。
六つ目は、すでにここで揃っている。
では、星の環とは何を指すのか。
「点が六つって、数が合わないよな。」
「南部の四つに、星の中枢と、この祠で、六つ……。」
リリアが指を折る。
「でも、アレスさんが北部で見た紋章の遺構は? それに、西の点も。」
「そうだ。環の点の数え方が、俺たちの数と違うのかもしれない。」
レオンは、ミラが昨日映し出した星図を思い出した。
あの星図に浮かんだ銀の点は、全部で、八つ。
六つの点で閉じる環とは、そのうちの、どの六つなのか。
あるいは、まだ見つかっていない点が、他にもあるのか。
「……分からないな。でも、方向性は見えた。」
レオンは石版から顔を上げた。
「環を閉じるために、まだ足りない点を見つける。それが、扉を開けることに繋がる。」
「そして、影はその扉を欲しがっている。」
砥石の音が、止まった。
アレスが、刃を見つめたまま、低く言った。
「『すべての力の源に触れる』……。」
「ああ。」
「お前の、あの力のことじゃないのか。」
小屋の空気が、わずかに張り詰めた。
レオンは、少しの間、黙った。
「どうだろうな。……確かに、気にはなる。でも、書かれてる言葉だけじゃ、まだ何とも言えない。」
「そうか。」
アレスは、それ以上は何も言わなかった。
ただ、砥石をもう一度握り直す。
その横顔に、わずかな影が落ちているのを、レオンは見逃さなかった。
その時、レオンの前に、見慣れた表示が浮かんだ。
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【古代の石版・解読】
+8Pt
【星の環の秘密の判明】
+4Pt
【今回の獲得】
+12Pt
【運命ポイント】
10Pt → 22Pt
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(22……。)
レオンは、小さく息をついた。
また少しずつ、積み上がっていく。
◇◆◇
昼前に、レオンたちは小屋を出る準備を整えた。
ダンカンは、囲炉裏の傍らで、黙って干し肉を布に包んでいた。
「持っていけ。」
「そんな、悪いです。」
「いいから持っていけ。腹が減っては、戦にならん。」
押し付けられた包みは、ずしりと重かった。
「ありがとうございます。」
「……あの山の奥は、本当に危ねえ。竜だけじゃない。影が出た夜から、山の獣が一匹もいなくなった。」
ダンカンは、窓の外の雪山を睨むように見た。
「俺は、ここに残る。あの集落の連中が、いつか戻ってくる時のために、家の番をしてなきゃならんからな。」
「無理は、しないでくださいね。」
リリアが心配そうに言う。
「ふん。お前たちに言われたかねえ。」
ダンカンは、ぶっきらぼうに答えた。
それから、アレスに向き直る。
「勇者さんよ。」
「はい。」
「この小僧どもを、頼む。」
「……分かりました。」
アレスは、まっすぐに頷いた。
ダンカンは、わずかに口の端を緩めた。
「帰ってきたら、また汁を作ってやる。だから、全員で戻ってこい。」
「必ず。」
レオンは、深く頭を下げた。
小屋を出ると、冷たい風が頬を打った。
雪を被った山脈が、青い空の下に、静かにそびえ立っている。
その山の、さらに奥の北東。
ミラの羽根の先が、わずかに赤く染まっていた。
◇◆◇
竜の巣へ続く道は、山の斜面に沿って、細く蛇行していた。
足元には、昨夜降った雪が、膝の下まで積もっている。
雪上歩行の靴底が、ここでも大活躍していた。
「ミラ、赤い色は、強くなってる?」
「ホゥ。」
ミラが、レオンの肩の上で、小さく首を振る。
「変わらない、か。まだ、距離はあるみたいだ。」
「油断はするな。」
先頭を歩くアレスが、振り返らずに言った。
「竜の巣に近づけば、魔物の数も増えるだろう。」
「分かってる。」
夕暮れが近づいた頃、斜面の途中に、岩壁がせり出した窪みを見つけた。
風を避けるには、ちょうどいい場所だった。
「今夜は、ここで野営にしよう。」
「うん。」
アレスが雪を踏み固め、リリアが火床に火を灯す。
フェンは周囲を見回って、安全を確認していた。
火床の傍らに腰を下ろすと、リリアが、そっと隣に座った。
「ねえ、レオン。」
「ん?」
「石版のこと、考えてたでしょ。『すべての力の源』って。」
「……バレてたか。」
レオンは苦笑した。
「正直、まだ実感はないんだ。ガチャ師は最弱って言われてきたけど、実際は違うかもしれない。それは分かった。でも、それが『すべての力の源』なんて大きな話に繋がるのかは、まだ分からない。」
「うん。」
「アレスが気にしてくれてるのは、ありがたいと思う。でも、考えすぎても、答えは出ない気がして。」
「レオンらしいね。」
リリアは、くすりと笑った。
「でも、私は、何があってもレオンはレオンだと思うよ。ガチャが大好きで、図鑑が大好きで、ちょっと変わってて。」
「褒めてるのか、それ。」
「褒めてるよ。」
火床の火が、リリアの横顔を、ほんのりと照らす。
「だから、もし何かあっても、私はここにいるからね。」
「……ありがとう。」
レオンは、短く、けれど心からそう言った。
少し離れた場所で、見張りに立つアレスが、聞こえないふりをして、遠くの山を眺めていた。
レオンは、窪みの奥で、静かに画面を開く。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、白、白、青、白、白、白、金、白。
「お、SRか。」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《スキルカード:気配察知》(R)
すでに習得済みのスキルです。
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【スキル進化】
《気配察知》 ★1 → ★2
気配の「大きさ」や「強さ」まで、感じ取れるようになる。
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カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。
途端に、周囲の空気が、ひときわ鮮やかに感じられた。
岩壁の向こうに潜む、小さな生き物の気配。遠くを飛ぶ鳥の、羽ばたきの気配。
それぞれが、輪郭と、大きさを持って、伝わってくる。
「……これは、すごいな。」
もう一枚のカードに目を移す。
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【NEW】
《氷晶の短剣》(SR)
氷の魔力を宿した短剣。
斬りつけた相手の動きを、わずかに鈍らせる。
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「氷の短剣。冷気を扱えるやつか。」
レオンは、ナイフと見比べた。
今までの得物より、ずっと軽く、手に馴染む。
「竜の巣に行く前に出てくれて、助かった。」
残りは、食料や薬草などの補充品。
派手ではないが、確実に、旅を支えてくれる。
レオンは画面を閉じ、焚き火の前に戻った。
揺れる炎の向こうで、雪が、静かに舞っていた。
ミラの羽根の先が、わずかに、また赤みを増したように見えた。
「……近いな。」
レオンは、小さく呟いた。
(第59話へ続く)
【あとがき】
第58話を読んでいただき、ありがとうございました!
氷の石版から明らかになった、「星の環」と「扉」の存在。そして「すべての力の源に触れる」という不穏な一文。アレスだけが、その意味に薄々気づき始めています。
運命ポイントは10Ptから22Ptへ。気配察知は★2に進化し、新たなSR短剣《氷晶の短剣》も手に入りました。
次回、第59話もお楽しみに!




