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俺だけ毎日無料10連!~ハズレ職《ガチャ師》は、世界で唯一ガチャが終わらない~  作者: 春野ケイ


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54/61

第54話 避難した集落

 三日目の昼前、針葉樹の森の向こうに、雪を冠った山脈が姿を現した。


「あれが、北の山……。」


 リリアが息を呑む。


 灰色の空を背に、鋭く尖った峰が幾重にも連なっている。その中腹あたりには、雲がかかっていて、頂は見えない。


「竜の巣は、あの奥か。」


 アレスが目を細める。


「その手前に星の遺構があるはずだ。まずは猟師を探そう。」


「ワウ。」


 フェンが鼻を鳴らし、風の匂いを嗅いだ。


 焦げた木の匂いが、かすかに混じっている。


◇◆◇


 麓の集落は、半分が灰になっていた。


 崩れた家の梁、黒く焼け焦げた壁、雪の上に散らばる食器の欠片。


 人の気配は、どこにもない。


「……ひどいな。」


 アレスが低く呟いた。


「一週間ほど前の夜だと言っていたな、避難民は。」


「うん。まだ、焦げた匂いが残ってる。」


 リリアが、小さな人形を拾い上げた。煤で黒くなった布人形だった。


 それをそっと、崩れた家の壁際に置く。


 レオンは焼け跡を歩きながら、片眼鏡を向けた。


────────────────


【解析】


焼失した家屋


火元:上空から(竜の吐息と推定)


特記:被害に偏りあり。北西側が特に激しい


────────────────


「偏りがある?」


 アレスが覗き込む。


「ああ。北西側ばかり、念入りに焼かれてる。山側だ。」


「山の方へ、何かを行かせたくなかった、とか。」


「あるいは、そこにある何かを隠したかったか。」


 レオンは北西を見上げた。


 山の斜面へと続く細い道が、雪の下にかすかに見える。


 その時、フェンが急に走り出した。


「フェン?」


「ワウッ!」


 焼け跡の外れ、煤にまみれていない小さな石造りの小屋の前で、フェンが立ち止まる。


 煙突から、細い煙が立ち上っていた。


◇◆◇


 戸を叩くと、しばらくして、軋む音とともに扉が開いた。


「……誰だ。」


 現れたのは、白髪を無造作に束ねた老人だった。


 顔には深い皺が刻まれ、右目には古い傷跡が走っている。肩には、使い込まれた弓が掛けられていた。


「王都のギルドから来ました。北部の調査の依頼です。」


 レオンが書状を差し出す。


 老人は目を細めて印を確かめると、小さく息を吐いた。


「……王都からか。まあ、入れ。」


 小屋の中は、薪の匂いがした。


 壁には毛皮と干した薬草。囲炉裏の火が、ぱちぱちと音を立てている。


「ダンカンだ。見ての通り、猟師をやっとる。」


「レオンです。こちらはリリア、アレス、それに、フェン。」


「……勇者のアレスか。噂は聞いとる。」


 ダンカンはアレスを一瞥してから、フェンに視線を移した。


「ほう、そいつは立派な狼だ。」


「ワウ。」


 フェンが誇らしげに胸を張る。


 ダンカンは少しだけ口の端を緩めた。


「で、何を聞きたい。」


「竜が来た夜のことを、教えてください。」


 その言葉に、老人の表情が固まった。


 囲炉裏の火を、じっと見つめる。


「……あの夜はな、竜の前に、別のものが来たんだ。」


「別のもの?」


「影だ。」


 ダンカンは、低い声で言った。


「人の形をしていたが、顔がなかった。足音もしねえ。それが、夜更けに集落の真ん中を歩いてな。」


 リリアが、そっと息を詰めた。


「俺は、狩りの帰りで、崖の上から見とった。影は、家々の前に立って、中に向かって何か呟いとった。」


「何を、ですか?」


「声は、いくつも重なって聞こえた。男の声と、女の声と、子供の声と……。それが、同じ言葉を繰り返しとったんだ。」


 ダンカンは目を閉じる。


「『星を継ぐ者は、どこだ』。」


 空気が、一瞬で張り詰めた。


 レオンは、無意識に右腕の袖を引っ張っていた。


 袖の下には、星継ぎの手甲がある。


 アレスの視線が、ちらりとレオンの腕に向いた。


 だがすぐに、何事もなかったように、ダンカンへ向き直る。


「それで、影はどうなった。」


「村人の誰も、知らねえと答えた。すると、影は山の方を指差した。次の瞬間、空から竜が降りてきて、集落を焼き始めた。」


「……山の方を。」


「ああ。北西だ。まるで、そっちへ行かせるなと言うように、念入りに焼いとった。」


 先ほどの焼け跡の偏りと、ぴたりと一致する。


「逃げ遅れた人たちは?」


「俺が崖から縄を下ろして、何人かは助けた。あとは、他の連中が先に逃がしとった。死んだ者は……少なくとも、俺が見た限りでは、いなかった。」


 老人は短く息を吐いた。


「竜は、人を殺さなかった。家だけを焼いた。奇妙な話だ。」


「人を殺さず、建物だけを焼いた……。」


 レオンは考えを巡らせた。


 影が探していたのは、人ではなく、星を継ぐ者。


 そして、山の中に何かがある。竜は、それを守るために家を焼いた?


 それとも、人々を追い払うために?


 まだ、判断材料が足りない。


「山の奥の遺構のことは、ご存じですか?」


 レオンは、慎重に尋ねた。


 ダンカンは、じっとレオンの顔を見た。


「……遺構、か。」


 しばらくの沈黙のあと、老人は立ち上がり、壁の棚から古びた地図を引っ張り出した。


「滝がある。凍りついた、大きな滝だ。その裏に、昔から誰も近づかねえ洞穴がある。」


「氷の滝の、裏……。」


「俺の爺さんの代から、あそこには近づくなと言われてきた。理由は知らん。ただ、星の形の彫り物があるとは聞いとる。」


 老人は地図の一点を、節くれ立った指で叩いた。


「ここだ。明日、案内してやる。ただし、俺が行くのは入口までだ。」


「十分です。ありがとうございます。」


 レオンが頭を下げた時、目の前に、見慣れた表示が浮かんだ。


────────────────


【生存者の証言の収集】


+3Pt


【集落跡の調査】


+2Pt


【今回の獲得】


+5Pt


【運命ポイント】


83Pt → 88Pt


────────────────


(88……。)


 レオンは表情を変えなかった。


 100Ptまで、あと12。


◇◆◇


 その夜は、ダンカンの小屋の隅を借りることになった。


 囲炉裏の火が落ち着いた頃、レオンは部屋の隅で静かに画面を開いた。


────────────────


無料10連


READY


────────────────


 白い空間に、黒い本が浮かぶ。


 夜空に十本の光の柱が立ち上る。


 白、白、白、白、白、青、白、白、青、白。


「Rが二つ。」


 光が収まり、カードが姿を現す。


────────────────


【NEW】


《雪靴の補修糸》(R)


靴や外套の破れを修繕できる丈夫な糸。


寒冷地でも凍らない。


────────────────


────────────────


【NEW】


《スキルカード:気配察知》(R)


生き物の気配を、近距離で感じ取る。


────────────────


────────────────


【NEW】


《気配察知》 ★1 習得


────────────────


 カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。


 周囲の空気が、ほんの少しだけ違って感じられた。


 隣で眠るフェンの呼吸や、外で見張りに立つアレスの足音。それらが、輪郭を持って伝わってくる。


「これは、便利だな。」


 レオンは小さく呟いた。


 スキルの種類が増えるのは、素直に嬉しい。


 図鑑の《スキル》の欄にも、新しい名前が並んでいた。


 その時、小屋の戸が静かに開き、アレスが入ってきた。


「交代か?」


「いや、少し話がしたい。」


 アレスは声を落とし、レオンの隣に腰を下ろした。


「あの猟師が言ってた、『星を継ぐ者』のことだ。」


「……ああ。」


「影が探してるのは、お前じゃないのか。」


 レオンは少し黙ってから、頷いた。


「たぶん、そうだと思う。この手甲のことだ。」


「やっぱりな。」


 アレスは腕を組んだ。


「ダンカンの前では言わなかったが、お前の腕、袖で隠してただろう。いい判断だった。」


「気付いてたのか。」


「同じ村の出身だからな。お前が咄嗟に取る動きは、なんとなく分かる。」


 アレスは真顔のまま、そう言った。


 それから、少しだけ視線を逸らす。


「……お前を狙っているやつがいるなら、俺は剣を貸す。ただし、無茶はするな。」


「それは、ありがたい。」


 レオンは素直に言った。


「でも、図鑑の空白があるなら、行くしかない。」


「お前、本当に……。」


 アレスは何か言いかけて、深い溜息をついた。


「まあ、いい。寝ろ。」


 毛布にくるまって眠るリリアと、足元で丸くなるフェンを見ながら、レオンは目を閉じた。


 明日は、氷の滝の裏。


 星の遺構が、待っている。


(第55話へ続く)


【あとがき】


第54話を読んでいただき、ありがとうございました!


焼け跡の集落で出会った老猟師ダンカンから、竜が現れた夜の恐ろしい真実が明かされました。竜の前に現れた顔のない影。そして、影が繰り返していた「星を継ぐ者は、どこだ」という言葉。


運命ポイントは83Ptから88Pt。100Ptまで、あと12Pt。


次回、第55話では、いよいよ氷の滝の裏にある遺構へ向かいます。お楽しみに!


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