第52話 臨時パーティ、出発
出発の朝、王都アルカディアの北門には、薄い霧が立ち込めていた。
レオンは魔導収納鞄の中身を最後に確認し、リリアは杖の紐を締め直す。フェンは成体になった大きな体で、落ち着かなそうに門の周りを歩き回っていた。
「ワウ。」
「分かってる、もうすぐ行くから。」
フェンの頭を撫でていると、門の向こうからアレスが歩いてきた。
背中には、見慣れた大剣。その後ろには、包帯を巻いた男女が三人ほど付き添っている。
「見送りは要らないと言ったんだがな。」
「そういうわけにいくか、アレス様。」
腕を吊った剣士が、苦笑いを浮かべた。
「回復したらすぐ追いかける。それまで、無茶はしないでくださいよ。」
「分かってる。お前たちこそ、ちゃんと休め。」
アレスは短く答えてから、レオンたちに向き直る。
「待たせたな。行こう。」
「ああ。」
レオンは頷いた。
見送りに立つ三人の視線が、レオンとリリアにも向けられる。
「うちの勇者様を、どうかお願いします。」
「いえ、こちらこそ。」
リリアが丁寧に頭を下げた。
「アレスさんには、昨日もたくさん助けていただきました。」
「……そういう挨拶は、帰ってきてからにしろ。」
アレスが妙に居心地悪そうに言って、先に歩き出した。
門をくぐると、石畳の道が土の街道に変わる。
ここから先が、北部へ続く道だった。
◇◆◇
王都を発って半日。
街道の両脇には、背の低い針葉樹が増え始めていた。
空気も、少しずつ冷たくなっている。
「……会話がないな。」
最初に口を開いたのは、アレスだった。
「そうか?」
「そうだろ。出発してから、ほとんど喋ってない。」
「必要なことは言ってるぞ。『右に曲がる』とか、『水を飲もう』とか。」
「それは会話って言わない。」
アレスが小さく溜息をついた。
リリアが、くすりと笑う。
「レオンは、歩きながら図鑑のことを考えてるんだよ。だから、ほとんど返事が来ないの。」
「リリア。人の頭の中を勝手に説明するな。」
「でも、間違ってないでしょ?」
「……間違ってない。」
認めたレオンに、アレスは呆れ顔を向けた。
「お前、本当に変わってないな。同じ村にいた頃から、そういうところあったか?」
「どうだったかな。あまり意識したことなかった。」
レオンは曖昧に答えた。
「そうか。まあ、俺もお前のことを詳しく知ってるわけじゃない。同じ村の出身ってだけだしな。」
「そうだな。」
あっさりとした、けれど居心地の悪くないやり取りだった。
勇者と最弱職が、今こうして並んで北を目指している。
それを不思議に思う気持ちが、少しだけ胸の隅にあった。
「ワウッ!」
先を歩いていたフェンが、突然低く唸った。
耳が前を向き、尻尾が真っ直ぐに伸びている。
「敵か。」
アレスの顔つきが変わる。
「数は?」
「待って、見る。」
レオンは片眼鏡に魔力を込めた。
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【解析】
霜牙ウルフ(群れ)
数:四
状態:飢餓、警戒中
弱点:額の氷結晶
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「四体。額の氷結晶が弱点だ。」
「分かった。俺が正面を押さえる。リリアは後ろから援護、レオンは全体の指示を頼む。」
「了解!」
アレスの指示は簡潔で、無駄がなかった。
街道脇の茂みから、白い毛並みの狼たちが飛び出してくる。
アレスの大剣が、先頭の一体を弾き飛ばした。
「ウィンドカッター!」
リリアの風の刃が、二体目の足を止める。
「フェン、左の二体を引きつけてくれ!」
「ワウッ!」
フェンが《導きの遠吠え》を響かせると、狼たちの額の結晶が、ほのかに青く光った。
「見えた!」
アレスの剣先が、迷いなく額を貫く。
残りの三体も、フェンの牙とリリアの魔法、レオンのナイフで次々と倒れていった。
戦いは、あっという間に終わった。
「……悪くないな。」
剣を収めながら、アレスがぽつりと言った。
「光らせたら、狙う場所がすぐに分かる。普段なら、一匹ずつ探すところだ。」
「ワウ。」
フェンが得意げに胸を張る。
「お前のそれ、本当に便利だな。」
アレスが、フェンの頭をぎこちなく撫でた。
フェンは少し驚いた顔をしたが、すぐに尻尾を振った。
その時、レオンの前に、見慣れた表示が浮かぶ。
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【霜牙ウルフ・討伐】
+3Pt
【新種登録】
+5Pt
【今回の獲得】
+8Pt
【運命ポイント】
60Pt → 68Pt
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(霜牙ウルフ、図鑑登録完了。)
レオンは小さく拳を握った。
アレスの前なので、表情には出さないようにしたが、リリアにはお見通しだったらしい。
「顔、笑ってるよ。」
「出てないはずだぞ。」
「出てる。」
アレスが首を傾げる。
「何の話だ?」
「こっちの話だよ。」
レオンは慌てて誤魔化した。
◇◆◇
日が傾く頃、街道沿いの小さな宿場跡に野営を張った。
かつては旅人で賑わっていたらしい。今は、屋根が半分崩れた石造りの建物が、風除けにちょうど良かった。
「一番手は俺が見張りに立つ。」
アレスが焚き火の前に座り込む。
「お前たちは先に休め。」
「いいのか?」
「勇者の仕事だ。」
不器用な言い方に、リリアがまた笑いを堪えている。
レオンは天幕の中に入り、静かに画面を開いた。
毎日この瞬間だけは、どんなに疲れていても外せない。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、白、白、青、白、白、青、白、白。
「今日はRが二つ、か。」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《保温の携行鍋》(R)
少量の魔石で、煮炊きと保温ができる小型の鍋。
野営での食事を、格段に快適にする。
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【NEW】
《雪上歩行の靴底》(R)
靴に取り付ける滑り止めの金具。
凍結した地面や雪面でも、安定して歩ける。
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「……北部に向かってるって知ってて出してるだろ、これ。」
思わず呟くと、隣で毛布にくるまっていたリリアが、小さく笑った。
「ガチャも、ちゃんと分かってくれてるのかな。」
「そうだといいんだけどな。」
残りは食料や薬草、包帯といった、旅を支える補充品。派手さはないが、頼もしい。
レオンは靴底を取り出し、明日のために自分とリリア、アレスの分の金具を揃えておいた。
「フェンの分は、さすがにないな。」
「ワウ。」
天幕の入口で丸くなっていたフェンが、問題ないと言うように鼻を鳴らした。
「寒いのも、平気だって。」
「頼もしいな。」
レオンは笑って、画面を閉じた。
◇◆◇
見張りを交代したあと、焚き火の前で、レオンはアレスと並んで座った。
夜の空気は冷たく、星が驚くほど近く見える。
「お前、よくあんな顔で魔物の図鑑登録を喜べるな。」
「顔に出てたか?」
「出てた。ほんの一瞬だけだが。」
アレスは薪を足しながら、横目でレオンを見る。
「俺は、魔物を倒すたびに『次はもっと強い奴が出る』としか考えない。お前みたいに、倒すことを楽しみにはできない。」
「楽しんでるわけじゃないけどな。」
レオンは少し考えてから言った。
「知らないものを知るのが、好きなだけだ。」
「それが一番強いのかもしれないな。」
アレスは小さく笑った。
「お前のそういうところは、嫌いじゃない。」
「そりゃどうも。」
焚き火がぱちりと弾ける。
遠くの空、北の山並みの上に、星の群れが瞬いていた。
あの向こうに、竜がいる。そして、竜を従える何かも。
不安がないと言えば嘘になる。
それでも、レオンの胸の奥では、まだ見ぬ遺構と、まだ埋まっていない図鑑の枠が、静かに熱を帯びていた。
「そろそろ寝ろ。明日は、もっと冷える。」
「ああ。おやすみ。」
レオンは天幕に戻りながら、ふと北の空を見上げた。
明日から、本当の意味での旅が始まる。
(第53話へ続く)
【あとがき】
第52話を読んでいただき、ありがとうございました!
第5章スタートです。アレスとの臨時パーティで、北部へ向かう旅が始まりました。
連携はまだぎこちないものの、フェンの《導きの遠吠え》とアレスの剣が噛み合い、最初の戦いは無事に勝利。運命ポイントは60Ptから68Ptへ増えました。
次回、第53話もお楽しみに!




