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俺だけ毎日無料10連!~ハズレ職《ガチャ師》は、世界で唯一ガチャが終わらない~  作者: 春野ケイ


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51/59

第51話 王都への道、その先へ

 竜の襲撃から一夜明けた朝、レオンたちは王都の冒険者ギルド本部に呼び出された。


 通されたのは、普段は幹部しか使わない奥の会議室だった。


 円卓の向こうに座るのはドルン。その隣に、昨日から一睡もしていない顔のアレス。そして末席には、分厚い眼鏡を押し上げる老学者エヴァンスの姿があった。


「揃ったな。」


 ドルンが重たい声で切り出す。


「まず、昨日の礼を言う。お前たちが避難誘導を手伝わなければ、死者が出ていてもおかしくなかった。」


「俺たちは、できることをしただけです。」


 レオンが答えると、ドルンは小さく鼻を鳴らした。


 ガチャ師を「外れ職」と切り捨てていた男の口から、頭を下げるような言葉が出る。それだけで、この王都での時間が無駄ではなかったことが分かった。


「で、本題だ。あの竜について、気付いたことはあるか。」


「……目です。」


 レオンは少し考えてから言った。


「ただの獣の目じゃありませんでした。傷を負っても、逃げ方に迷いがなかった。こちらの戦力を測って、退いたように見えました。」


「俺も同じ印象だ。」


 アレスが頷く。


「北部で見た統率された魔物の群れと、動きの質が似ている。竜が群れの一部なのか、竜を率いる何かがいるのか……そこまでは分からないが。」


「誰かが、裏で指揮している。」


 エヴァンスが静かに口を開いた。


「そして、その何者かは、星の紋章と無関係ではないかもしれませんな。」


 レオンは広げられた地図に目を向けた。


 南部の四箇所と、北部の一箇所。そこに、エヴァンスが昨夜のうちに書き足したらしい線が加わっている。


「南部と北部の点を結ぶと、国全体を囲う大きな図形になります。ですが、西部の点がまだ一つも見つかっておりません。」


「図形が完成していない、ってことですか。」


「ええ。西に何かあるのか、それとも、誰かが意図的に消したのか。」


 エヴァンスの視線が、ちらりとレオンの手甲に向く。


「そこで、ですな。」


 ドルンが、円卓の上に一枚の書状を置いた。


 ギルド本部の印と、もう一つ、王家の紋が押されている。


「ギルド本部からの、正式な依頼だ。」


 部屋の空気が、わずかに引き締まる。


「北部山岳地帯の遺構を調査し、竜の動向を探る。王都の騎士団は国境の守りで手一杯だ。動けるのは、少人数の精鋭だけになる。」


「……それを、俺たちに?」


「そうだ。アレスの推薦もある。」


 レオンはアレスを見た。


 アレスは気まずそうに視線を逸らす。


「勘違いするな。俺の仲間たちは、昨日の戦いで怪我人が出ている。回復までは動かせない。かといって、俺一人で行ける場所でもない。」


「つまり。」


「……一時的に、お前たちと組みたい。」


 一瞬の沈黙のあと、レオンは思わず苦笑してしまった。


「まさか、同じ村の出身と組むことになるとはな。」


「それは、こっちの台詞だ。」


 アレスも、困ったように笑う。


 リリアが小さく肩を揺らして笑った。


「二人とも、同じこと考えてたんだね。」


「ワウ。」


 フェンが、どこか誇らしげに尻尾を振る。


 組む理由は、ただ一つ。目的の場所が同じで、足りないものを補い合えるから。それだけで十分だった。


「引き受けます。」


 レオンは書状に手を伸ばした。


「ただし、条件があります。北部の遺構は、俺が先に見たい。」


「お前、そこかよ。」


 アレスが呆れた声を出し、ドルンまでもが、咳払いで笑いを誤魔化した。


 その時、レオンの目の前に、見慣れた表示が浮かんだ。


────────────────


【竜の動向に関する情報提供】


+5Pt


【今回の獲得】


+5Pt


【運命ポイント】


55Pt → 60Pt


────────────────


(60Pt……。次の100まで、あと40か。)


 レオンは表情を変えないまま、書状に署名した。


◇◆◇


 会議のあと、エヴァンスが呼び止めてきた。


「レオン殿。一つだけ、老人の杞憂を聞いていただけますかな。」


「何でしょう。」


「あの禁書庫の記録箱は、昨夜のうちに元通り封をしておきました。ですが、王城には、あの箱の中身を知られたくない方々がいる。ご用心を。」


「……分かりました。ありがとうございます。」


 モーリス伯爵の、意味深な笑みが脳裏をよぎった。


 歴史には、触れてはならない領域がある。


 あの言葉は、親切な忠告だったのか、それとも。


 考えても、答えは出ない。


 だが、一つだけ確かなことがある。


 真実を隠そうとする者がいるなら、それを暴いて図鑑を埋めるだけだ。


◇◆◇


 その夜、宿の部屋で、レオンは静かに画面を開いた。


 竜の襲撃も、会議も、依頼も関係ない。


 一日一回の無料十連だけは、何があっても外せない。


────────────────


無料10連


READY


────────────────


 白い空間に、黒い本が浮かぶ。


 夜空に十本の光の柱が立ち上る。


 白、白、青、白、白、白、金、白、青、白。


「お、SRだ。」


 光が収まり、カードが姿を現す。


────────────────


【NEW】


《北方の防寒外套》(SR)


旅用の防寒マントの上位にあたる、極寒地向けの外套。


吹雪や冷気の魔力にも耐え、氷点下でも行動に支障をきたさない。


────────────────


「北部の山岳地帯に行くって決まった日に、これか。」


 レオンは思わず笑った。


 ガチャは時々、タイミングの良さが怖くなる。


「前に出たマントの、上位版ってところか。」


────────────────


【NEW】


《スキルカード:観察眼》(R)


すでに習得済みのスキルです。


────────────────


────────────────


【スキル進化】


《観察眼》 ★1 → ★2


────────────────


 カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。


 視界が、ほんの少しだけ冴えたような感覚があった。


 片眼鏡越しに自分の手を見ると、いつもの解析表示に、うっすらと追加の項目が増えている。


「被りが進化になるのは、やっぱり嬉しいな。」


 残りの白カードは、食料や薬草、それに替えの包帯。旅立ち前に補充できるのは、素直にありがたい。


 部屋の隅では、成体になったフェンが、大きな体を窓際に丸めて眠っていた。


◇◆◇


 翌朝、宿の食堂で朝食をとっていると、アレスが顔を出した。


「悪い、少しだけいいか。」


 向かいの椅子に腰を下ろすと、アレスは周囲に視線を走らせ、声を落とした。


「例のスキルの件だ。人前では絶対に使うな。いや、使うこと自体はいいが、仕組みを誰にも話すな。」


「分かってる。話してるのは、お前とリリアだけだ。」


「ならいい。」


 アレスは水の入ったコップを握ったまま、少し黙った。


「……お前のそれが、本当に俺の思っている通りのものなら、国が黙っていない。昨日の記録を見て、余計にそう思った。」


「大袈裟だって。観察眼が一個、強くなっただけだぞ。」


「その『一個』が、おかしいんだよ。」


 アレスは小さく息を吐いた。


「まあいい。お前が気付いていないなら、それでもいい。ただ、俺が勝手に心配してることだけは覚えておけ。」


「ああ、覚えておく。」


 レオンは軽く返した。


 正直、アレスがなぜそこまで気にするのかは、まだ分からない。だが、同じ村の出身者が本気で案じてくれていること自体は、素直にありがたかった。


「それと、仲間の見舞いに行く。お前らも来るか。」


「え?」


「治癒師が、リリアに礼を言いたがってる。昨日、怪我人を何人も診てくれただろう。」


「あ……行く!」


 リリアが勢いよく立ち上がった。


 その横で、レオンはパンを咥えながら、小さく笑う。


 ハズレ職と呼ばれた頃には、想像もできなかった朝だった。


◇◆◇


 その日の夕方。


 王都の外れの丘で、リリアと並んで夕焼けを眺めていた。


 眼下には、アルカディアの街並みが広がっている。


 石畳の道、尖塔、夕暮れに溶ける城壁。初めて見た時は圧倒されたこの景色も、今は少しだけ見慣れてきた。


「出発は、三日後になったんだよね。」


「ああ。アレスの仲間の怪我の様子を見て、準備を整える。」


「……なんだか、すごいところまで来ちゃったね。」


 リリアが小さく笑った。


「ベルン村を出たときは、こんな風になるなんて、思ってなかったな。」


「俺もだよ。」


 レオンは正直に答えた。


「ハズレ職なんて言われて、笑われて。でも、ガチャを回し続けたら、ここまで来た。」


「うん。」


「竜がいて、魔物を率いる何かがいて、王家は昔の歴史を隠してる。正直、手に余る話だと思う。」


 けれど、と続けた。


「怖いより、見てみたい気持ちの方が強い。何が隠されてるのか、どんな図鑑が待ってるのか。」


「ふふ。レオンらしいね。」


 リリアが少し呆れたように、けれど優しく目を細める。


「でも、私も同じ。レオンと一緒なら、どこまででも行けそうな気がするよ。」


「リリア……。」


「ワウ!」


 足元でフェンが吠えた。


 まるで、自分も忘れるなと言うように。


「もちろん、お前もだ。」


 レオンはフェンの頭を撫でる。


 二人と一匹で、北へ向かう。そこに、アレスという同郷の勇者が加わる。


 どんな遺構が、どんな敵が、どんなカードが待っているのか。


 想像するだけで、胸の奥が静かに高鳴った。


 夕日が、ゆっくりと地平線に沈んでいく。


 北の空の向こうには、黒い山並みが霞んでいた。


 あの山の奥で、竜が待っている。


 その背後にいる何者かも、きっと。


「行こう。」


 レオンは短く言った。


「うん。」


「ワウ!」


 最弱と呼ばれた職業の本当の価値を、世界はまだ知らない。


(第52話・第5章へ続く)


【あとがき】


第51話を読んでいただき、ありがとうございました!


これで第4章「王都への道」は完結です。王都で出会った人々、偏見との戦い、アレスとの再会、禁書庫の真実、そして竜の襲来。たくさんの出来事を経て、レオンたちはついに次の目的地へと動き出します。


次の舞台は、竜が飛び去った北部の山岳地帯。まさかの臨時パーティ結成となったアレスとの旅、そして星の紋章が示す新たな遺構。いよいよ物語は、大きな局面へ向かっていきます。


第4章を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!次回、第5章スタートです。お楽しみに!


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