第51話 王都への道、その先へ
竜の襲撃から一夜明けた朝、レオンたちは王都の冒険者ギルド本部に呼び出された。
通されたのは、普段は幹部しか使わない奥の会議室だった。
円卓の向こうに座るのはドルン。その隣に、昨日から一睡もしていない顔のアレス。そして末席には、分厚い眼鏡を押し上げる老学者エヴァンスの姿があった。
「揃ったな。」
ドルンが重たい声で切り出す。
「まず、昨日の礼を言う。お前たちが避難誘導を手伝わなければ、死者が出ていてもおかしくなかった。」
「俺たちは、できることをしただけです。」
レオンが答えると、ドルンは小さく鼻を鳴らした。
ガチャ師を「外れ職」と切り捨てていた男の口から、頭を下げるような言葉が出る。それだけで、この王都での時間が無駄ではなかったことが分かった。
「で、本題だ。あの竜について、気付いたことはあるか。」
「……目です。」
レオンは少し考えてから言った。
「ただの獣の目じゃありませんでした。傷を負っても、逃げ方に迷いがなかった。こちらの戦力を測って、退いたように見えました。」
「俺も同じ印象だ。」
アレスが頷く。
「北部で見た統率された魔物の群れと、動きの質が似ている。竜が群れの一部なのか、竜を率いる何かがいるのか……そこまでは分からないが。」
「誰かが、裏で指揮している。」
エヴァンスが静かに口を開いた。
「そして、その何者かは、星の紋章と無関係ではないかもしれませんな。」
レオンは広げられた地図に目を向けた。
南部の四箇所と、北部の一箇所。そこに、エヴァンスが昨夜のうちに書き足したらしい線が加わっている。
「南部と北部の点を結ぶと、国全体を囲う大きな図形になります。ですが、西部の点がまだ一つも見つかっておりません。」
「図形が完成していない、ってことですか。」
「ええ。西に何かあるのか、それとも、誰かが意図的に消したのか。」
エヴァンスの視線が、ちらりとレオンの手甲に向く。
「そこで、ですな。」
ドルンが、円卓の上に一枚の書状を置いた。
ギルド本部の印と、もう一つ、王家の紋が押されている。
「ギルド本部からの、正式な依頼だ。」
部屋の空気が、わずかに引き締まる。
「北部山岳地帯の遺構を調査し、竜の動向を探る。王都の騎士団は国境の守りで手一杯だ。動けるのは、少人数の精鋭だけになる。」
「……それを、俺たちに?」
「そうだ。アレスの推薦もある。」
レオンはアレスを見た。
アレスは気まずそうに視線を逸らす。
「勘違いするな。俺の仲間たちは、昨日の戦いで怪我人が出ている。回復までは動かせない。かといって、俺一人で行ける場所でもない。」
「つまり。」
「……一時的に、お前たちと組みたい。」
一瞬の沈黙のあと、レオンは思わず苦笑してしまった。
「まさか、同じ村の出身と組むことになるとはな。」
「それは、こっちの台詞だ。」
アレスも、困ったように笑う。
リリアが小さく肩を揺らして笑った。
「二人とも、同じこと考えてたんだね。」
「ワウ。」
フェンが、どこか誇らしげに尻尾を振る。
組む理由は、ただ一つ。目的の場所が同じで、足りないものを補い合えるから。それだけで十分だった。
「引き受けます。」
レオンは書状に手を伸ばした。
「ただし、条件があります。北部の遺構は、俺が先に見たい。」
「お前、そこかよ。」
アレスが呆れた声を出し、ドルンまでもが、咳払いで笑いを誤魔化した。
その時、レオンの目の前に、見慣れた表示が浮かんだ。
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【竜の動向に関する情報提供】
+5Pt
【今回の獲得】
+5Pt
【運命ポイント】
55Pt → 60Pt
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(60Pt……。次の100まで、あと40か。)
レオンは表情を変えないまま、書状に署名した。
◇◆◇
会議のあと、エヴァンスが呼び止めてきた。
「レオン殿。一つだけ、老人の杞憂を聞いていただけますかな。」
「何でしょう。」
「あの禁書庫の記録箱は、昨夜のうちに元通り封をしておきました。ですが、王城には、あの箱の中身を知られたくない方々がいる。ご用心を。」
「……分かりました。ありがとうございます。」
モーリス伯爵の、意味深な笑みが脳裏をよぎった。
歴史には、触れてはならない領域がある。
あの言葉は、親切な忠告だったのか、それとも。
考えても、答えは出ない。
だが、一つだけ確かなことがある。
真実を隠そうとする者がいるなら、それを暴いて図鑑を埋めるだけだ。
◇◆◇
その夜、宿の部屋で、レオンは静かに画面を開いた。
竜の襲撃も、会議も、依頼も関係ない。
一日一回の無料十連だけは、何があっても外せない。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、青、白、白、白、金、白、青、白。
「お、SRだ。」
光が収まり、カードが姿を現す。
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【NEW】
《北方の防寒外套》(SR)
旅用の防寒マントの上位にあたる、極寒地向けの外套。
吹雪や冷気の魔力にも耐え、氷点下でも行動に支障をきたさない。
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「北部の山岳地帯に行くって決まった日に、これか。」
レオンは思わず笑った。
ガチャは時々、タイミングの良さが怖くなる。
「前に出たマントの、上位版ってところか。」
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【NEW】
《スキルカード:観察眼》(R)
すでに習得済みのスキルです。
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【スキル進化】
《観察眼》 ★1 → ★2
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カードが光の粒になって、体の中へ溶けていく。
視界が、ほんの少しだけ冴えたような感覚があった。
片眼鏡越しに自分の手を見ると、いつもの解析表示に、うっすらと追加の項目が増えている。
「被りが進化になるのは、やっぱり嬉しいな。」
残りの白カードは、食料や薬草、それに替えの包帯。旅立ち前に補充できるのは、素直にありがたい。
部屋の隅では、成体になったフェンが、大きな体を窓際に丸めて眠っていた。
◇◆◇
翌朝、宿の食堂で朝食をとっていると、アレスが顔を出した。
「悪い、少しだけいいか。」
向かいの椅子に腰を下ろすと、アレスは周囲に視線を走らせ、声を落とした。
「例のスキルの件だ。人前では絶対に使うな。いや、使うこと自体はいいが、仕組みを誰にも話すな。」
「分かってる。話してるのは、お前とリリアだけだ。」
「ならいい。」
アレスは水の入ったコップを握ったまま、少し黙った。
「……お前のそれが、本当に俺の思っている通りのものなら、国が黙っていない。昨日の記録を見て、余計にそう思った。」
「大袈裟だって。観察眼が一個、強くなっただけだぞ。」
「その『一個』が、おかしいんだよ。」
アレスは小さく息を吐いた。
「まあいい。お前が気付いていないなら、それでもいい。ただ、俺が勝手に心配してることだけは覚えておけ。」
「ああ、覚えておく。」
レオンは軽く返した。
正直、アレスがなぜそこまで気にするのかは、まだ分からない。だが、同じ村の出身者が本気で案じてくれていること自体は、素直にありがたかった。
「それと、仲間の見舞いに行く。お前らも来るか。」
「え?」
「治癒師が、リリアに礼を言いたがってる。昨日、怪我人を何人も診てくれただろう。」
「あ……行く!」
リリアが勢いよく立ち上がった。
その横で、レオンはパンを咥えながら、小さく笑う。
ハズレ職と呼ばれた頃には、想像もできなかった朝だった。
◇◆◇
その日の夕方。
王都の外れの丘で、リリアと並んで夕焼けを眺めていた。
眼下には、アルカディアの街並みが広がっている。
石畳の道、尖塔、夕暮れに溶ける城壁。初めて見た時は圧倒されたこの景色も、今は少しだけ見慣れてきた。
「出発は、三日後になったんだよね。」
「ああ。アレスの仲間の怪我の様子を見て、準備を整える。」
「……なんだか、すごいところまで来ちゃったね。」
リリアが小さく笑った。
「ベルン村を出たときは、こんな風になるなんて、思ってなかったな。」
「俺もだよ。」
レオンは正直に答えた。
「ハズレ職なんて言われて、笑われて。でも、ガチャを回し続けたら、ここまで来た。」
「うん。」
「竜がいて、魔物を率いる何かがいて、王家は昔の歴史を隠してる。正直、手に余る話だと思う。」
けれど、と続けた。
「怖いより、見てみたい気持ちの方が強い。何が隠されてるのか、どんな図鑑が待ってるのか。」
「ふふ。レオンらしいね。」
リリアが少し呆れたように、けれど優しく目を細める。
「でも、私も同じ。レオンと一緒なら、どこまででも行けそうな気がするよ。」
「リリア……。」
「ワウ!」
足元でフェンが吠えた。
まるで、自分も忘れるなと言うように。
「もちろん、お前もだ。」
レオンはフェンの頭を撫でる。
二人と一匹で、北へ向かう。そこに、アレスという同郷の勇者が加わる。
どんな遺構が、どんな敵が、どんなカードが待っているのか。
想像するだけで、胸の奥が静かに高鳴った。
夕日が、ゆっくりと地平線に沈んでいく。
北の空の向こうには、黒い山並みが霞んでいた。
あの山の奥で、竜が待っている。
その背後にいる何者かも、きっと。
「行こう。」
レオンは短く言った。
「うん。」
「ワウ!」
最弱と呼ばれた職業の本当の価値を、世界はまだ知らない。
(第52話・第5章へ続く)
【あとがき】
第51話を読んでいただき、ありがとうございました!
これで第4章「王都への道」は完結です。王都で出会った人々、偏見との戦い、アレスとの再会、禁書庫の真実、そして竜の襲来。たくさんの出来事を経て、レオンたちはついに次の目的地へと動き出します。
次の舞台は、竜が飛び去った北部の山岳地帯。まさかの臨時パーティ結成となったアレスとの旅、そして星の紋章が示す新たな遺構。いよいよ物語は、大きな局面へ向かっていきます。
第4章を読んでくださった皆さま、本当にありがとうございました!次回、第5章スタートです。お楽しみに!




