第49話 貶められた真実
禁書庫の通路は、思っていたよりも奥深くまで続いていた。
壁際に並ぶ棚には、色あせた書物や巻物が整然と収められている。
天井は高く、灯りの届かない暗がりが頭上に広がっていた。
「……とんでもない量だな。」
アレスが辺りを見回しながら呟いた。
「手分けして探そう。星の紋章、あるいは古代ガチャ師に関する記述がないか。」
「分かった。」
三人はそれぞれ、違う棚へと向かった。
古い紙とインクの匂いが、空気の中に静かに漂っている。
足音だけが、やけに大きく反響した。
◇◆◇
しばらく探していると、アレスがふと口を開いた。
「さっきの……《スキル》とかいうやつ、もう少し詳しく聞いていいか。」
レオンは本を繰る手を止めた。
「ああ、別に隠すことでもないしな。」
これまで伏せてきた部分だったが、ここまで来た関係なら、話してもいいだろうと思った。
「ガチャでアイテムや魔物が出るのは知ってるよな。あれと同じ感じで、スキルも出るようになったんだ。」
「スキルが、ガチャで……?」
アレスの眉が、わずかに寄る。
「しかも、同じスキルを重ねて引くと、強くなっていくらしい。」
「……待て。」
アレスが本を置き、レオンの方を向いた。
「それ、理論上はどうなるんだ。」
「どうって?」
「極端な話、どんなスキルでも引ける可能性がある、ってことだろう。」
レオンは少し考えてから答えた。
「まあ、そうなるのかもな。」
「それ、やばくないか……?」
アレスの声が、わずかに低くなった。
「俺たち勇者だって、生まれ持った適性でスキルの幅が決まる。剣技なら剣技、魔法なら魔法、その中でしか成長できない。」
「まあ、そうだろうな。」
「お前のそれは、その縛りが最初からない、ってことになる。」
アレスは腕を組み、考え込むような顔になった。
「スキルガチャなんて、冗談じゃなく、反則みたいなもんじゃないのか。」
「大袈裟だな。」
レオンは軽く笑って受け流した。
「今んとこ、観察眼ってスキルが一個出ただけだぞ。」
「いや、だからこそ気になるんだ。今はまだ、一個だから。」
アレスの声には、冗談とは言い切れない響きがあった。
「剣技なら剣技の師匠につき、何年もかけて体に叩き込む。魔法なら魔法で、才能と修練がいる。それが当たり前だと思ってた。」
アレスは棚にもたれかかり、腕を組んだ。
「でもお前のそれは、極端な話、運さえ良ければ一瞬で手に入る。しかも、他のどんな職業の力でも、理屈の上では引き当てられる可能性がある。」
「もしこの先、もっと強力なスキルを引き続けたら……お前、とんでもないことになるんじゃないか。」
「考えすぎだろ、さすがに。」
レオンはあっさりと流した。
正直、そこまで深く考えたことはなかった。
新しいスキルが出た。
図鑑の枠が増えた。
それ以上でも以下でもない、というのがレオンの実感だった。
だが、アレスの表情は、まだどこか晴れないままだった。
◇◆◇
その違和感を抱えたまま、探索を続けていると、リリアの声が響いた。
「……これ、見て。」
奥の棚の奥、鍵のかかった小さな箱の中に、一冊の古びた書物が収められていた。
箱自体にも、わずかに星の紋章が彫り込まれている。
表紙には、見慣れた星の紋様が刻まれている。
レオンが星継ぎの手甲をかざすと、鍵は音もなく外れた。
箱の蓋を開けると、古い紙特有の匂いが、ふわりと立ち上る。
中には、丁寧な筆致で綴られた記録が収められていた。
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【解析】
王家秘伝の記録
一部判読可能
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「……『かつて、星の力を宿す者たちは、国を陰から支える要であった』。」
レオンは、声に出して読み上げていく。
「『されど、その力はあまりに大きく、王家をも凌ぐ可能性を秘めていた』。」
アレスの表情が、さらに硬くなる。
「『時の王は、その力を恐れ、彼らを歴史から静かに消すことを決めた。表向きは最弱の職とし、人々の記憶から薄れさせることで』。」
レオンの声が、わずかに掠れる。
「『争いを避け、国の均衡を保とうとしたのである』……か。」
そこで、文章は途切れていた。
続きのページは、何かで黒く塗り潰され、判読できなくなっている。
「意図的に、消されてる……。」
リリアが本を覗き込みながら呟いた。
「……これが、全部の理由ってことか。」
アレスが低く呟く。
「恐れられていた、ってだけじゃなくて……王家自身が、意図的に。」
「ああ。」
レオンは静かに本を閉じた。
予想していたこととはいえ、改めて文字で突きつけられると、思っていた以上に重みがあった。
「お前、大丈夫か。」
アレスが心配そうに声をかける。
「平気だ。」
レオンは短く答えた。
ショックがないわけではない。
それでも、不思議と絶望のようなものは湧いてこなかった。
「むしろ、これで一つ、図鑑の空白が埋まった気がする。」
「……お前、本当に変わらないな。」
アレスが呆れたように、けれどどこか安心したように笑った。
リリアも、横でそっと微笑んでいた。
◇◆◇
その日の夜、宿に戻ったレオンは、一人になった部屋でしばらく考え込んでいた。
アレスの言葉が、頭の片隅に引っかかっている。
(スキルガチャ、反則……か。)
正直、ピンとは来ていなかった。
今日見た記録のことも、頭の中でまだうまく整理がついていない。
王家が恐れ、意図的に貶めた力。
それが、自分が今も持っている力と、地続きのものなのかどうか。
それでも、何か大きなものの入口に立っているような、そんな予感だけは確かにあった。
窓の外には、静かな王都の夜景が広がっている。
レオンは小さく息を吐き、明日もまた、この続きに向き合おうと心に決めた。
(第50話へ続く)
【あとがき】
第49話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついに禁書庫の奥で見つかった、王家秘伝の記録。ガチャ師が貶められた本当の理由が、文字として突きつけられました。
そして、アレスだけが薄々気づき始めている、スキルガチャの本当の恐ろしさ。レオン本人はまだピンと来ていない様子ですが……。
次回、第50話もお楽しみに!




