第46話 情報の交差点
会議から数日後、アレスが王都ギルド本部にレオンたちを訪ねてきた。
鎧を脱ぎ、普段着姿で現れたアレスは、会議の時よりもいくらか気さくな雰囲気を纏っていた。
「北部で見つけた紋章、写し取ったものを持ってきた。」
広げられた羊皮紙には、見覚えのある星の形が描かれている。
几帳面な筆致で、縮尺まで丁寧に記されていた。
「……これ、ほとんど同じ形だな。」
レオンは思わず声を漏らした。
「だろうな。だから気になって、持ってきたんだ。」
アレスは腕を組みながら、どこか真剣な表情を浮かべていた。
「お前たちが見つけた紋章、詳しく見せてもらえるか。」
「もちろん。」
レオンはこれまでの発見をまとめた資料を取り出した。
忘れられた洞窟、旧採掘場、廃教会、石橋、そして星の中枢。
ただし、図鑑や運命ポイントといった内部システムについては、相変わらず伏せたままだった。
「これだけの数が、一つの場所を指し示していたのか……。」
アレスが唸る。
「お前の方の遺構も、何か指し示してる可能性があるな。」
「ああ。実は、俺もそれを調べたくて来たんだ。」
◇◆◇
「それなら、ちょうどいい人がいる。」
レオンはアレスを連れて、エヴァンスの研究室へ向かった。
相変わらず書物が積み上がった部屋に入ると、エヴァンスが机から顔を上げる。
「おお、これはこれは。」
突然の来客に、エヴァンスは驚きながらも、すぐに目を輝かせた。
「《勇者》様まで足を運んでくださるとは。」
「堅苦しいのはなしで頼む。」
アレスが苦笑しながら答えた。
「それでは……アレス殿、と呼ばせてもらおう。して、今日は?」
「北部で見つけた、似たような紋章の話を聞きたくてな。」
エヴァンスは北部の紋章の写しを受け取ると、食い入るように見つめ始めた。
「……なるほど、なるほど。」
彼は壁の地図に、新しい印を書き加えていく。
「南に四つ、北にも複数。これを線で結んでいくと……。」
エヴァンスの手が、地図の上で止まった。
「どうした?」
レオンが覗き込む。
「見てくれ。これまでの遺構の位置と、北部の情報を合わせると……国全体を覆うような、巨大な図形が浮かび上がる。」
地図に引かれた線は、複雑に絡み合いながらも、どこか意図を感じさせる形を描いていた。
「これは……意図的な配置、ってことか?」
アレスが眉をひそめる。
「おそらくはな。古代の人々が、何らかの目的を持ってこれを築いた可能性が高い。」
エヴァンスは興奮を隠しきれない様子で続けた。
「まだ点と点が足りない。南部、西部にも同種の遺構があるとすれば、全体像はもっとはっきりするはずだ。」
「西部は、まだ調べられていない地域だな。」
アレスが地図の空白部分を指でなぞる。
「全貌が分かれば、古代ガチャ師文明の真の目的に迫れるかもしれん。」
レオンは地図を見つめながら、静かに拳を握った。
図鑑のカテゴリが、また一つ大きく動こうとしている。
そんな予感があった。
◇◆◇
研究室を出た帰り道、王都の通りに、にわかに緊張が走った。
どこからか、警鐘の音が響いている。
「何だ……?」
アレスが声の方へ視線を向ける。
通りを駆けてくる衛兵の一人を、アレスが呼び止めた。
「何があった!」
「《勇者》様……! 東区画に魔物が出現しました! 複数です!」
「分かった、案内しろ!」
アレスが即座に動き出す。
「俺たちも行く。」
レオンも迷わず続いた。
現場に着くと、路地の奥から、小型の魔物の群れが次々と飛び出してくる。
住民たちが悲鳴を上げながら、建物の中へ逃げ込んでいく。
「数が多いな……!」
「俺が前に出る! お前たちは援護を頼む!」
アレスが剣を抜き、一気に斬り込んでいった。
圧倒的な剣技で、次々と魔物をなぎ倒していく。
その太刀筋には、一切の迷いがなかった。
「リリア、フェン、挟み撃ちだ!」
「うん!」
「ワウ!」
レオンたちも、それぞれの役割で動き出す。
リリアの魔法で足止めされた個体を、フェンが的確に仕留め、レオンが死角から残りを処理していく。
観察と連携で的確に弱点を突くレオンたちと、真正面からの圧倒的な力で切り込むアレス。
まったく違う戦い方をする二つの力が、不思議と噛み合っていた。
「そっちは任せた!」
「ああ、問題ない!」
短いやり取りだけで、互いの動きを邪魔することなく連携できている。
ものの数分で、魔物の群れは一掃された。
レオンの前に、見慣れた表示が浮かぶ。
────────────────
【小型魔物・討伐(複数)】
+4Pt
【街中での緊急対応・貢献】
+2Pt
【今回の獲得】
+6Pt
【運命ポイント】
83Pt → 89Pt
────────────────
「89Pt、か。」
レオンは小さく表示を確認した。
100Ptまで、あと少し。
次のSSR確定ガチャが、現実味を帯びてきていた。
「……息ぴったりだったな、お前ら。」
アレスが、少し驚いたように言った。
「そっちこそ、容赦ないな。」
レオンも素直に感想を返す。
周囲に集まり始めた衛兵たちが、事態の収拾に動き出す中、アレスが剣を鞘に収めながら呟いた。
「正直、お前とこうやって一緒に戦うことになるとは、思ってなかったよ。」
「俺もだよ。」
レオンは素直に頷いた。
天命の儀の日、別々の道を歩み始めたはずの二人が、今こうして並んで魔物と戦っている。
不思議な巡り合わせだと思いながらも、悪くない感覚だった。
互いに違うやり方で戦ってきた二人が、初めて並んで戦った瞬間だった。
(第47話へ続く)
【あとがき】
第46話を読んでいただき、ありがとうございました!
アレスとエヴァンスが初顔合わせし、北部と南部の紋章情報を突き合わせた結果、国全体を覆うような巨大な図形が浮かび上がってきました。
そして、思いがけず訪れた実戦の機会。観察と工夫のレオンたちと、正面からの圧倒的な力のアレス。まったく違うスタイルの二人が、初めて並んで戦いました。
次回、第47話もお楽しみに!




