第45話 同郷の勇者
夜会から数日後、ドルンから呼び出しがかかった。
「北部から、勇者パーティが戻った。お前たちにも同席してもらう。」
その一言で、レオンにも事情は飲み込めた。
「アレスも、ですか。」
「知っているのか。」
「同じ村の出身です。」
ドルンは意外そうな顔をしたが、それ以上は深く聞かなかった。
「北部の状況報告と、お前たちが見つけた古代遺構の情報をすり合わせる。それだけの場だ。変に気負う必要はない。」
「分かりました。」
リリアが横から、小声で尋ねてくる。
「緊張してないの?」
「別に。」
「……本当にブレないよね、レオンって。」
リリアが呆れたように笑った。
◇◆◇
王都ギルド本部の会議室に通されると、すでに数人の人物が席についていた。
地図や資料が机の上に広げられ、物々しい雰囲気が漂っている。
その中央に座る青年を見て、レオンは思わず足を止めた。
鍛え上げられた体躯、輝く金の鎧、腰に提げた立派な剣。
記憶にある少年の面影は残っているものの、まるで別人のような風格があった。
周囲に控える仲間らしき者たちも、一目で只者ではないと分かる佇まいをしていた。
「……久しぶりだな、レオン。」
アレスが先に声をかけてきた。
その声にも、村にいた頃とは違う落ち着きが宿っている。
「久しぶり。元気そうだな。」
レオンは特に気負うこともなく、普通に挨拶を返した。
「お前も、随分と活躍しているらしいじゃないか。星の紋章の遺構を見つけた、とか。」
「まあ、色々あってな。」
アレスは値踏みするような目で、レオンを見つめた。
「正直、信じられなかった。最弱職のお前が、そんな発見をするなんてな。」
その言葉には、侮りというよりも、純粋な驚きが滲んでいた。
「まあ、俺も驚いてるよ、自分のことながら。」
レオンは軽く肩をすくめる。
「……相変わらずだな、お前。」
アレスが小さく笑った。
その笑い方だけは、村にいた頃と変わっていなかった。
◇◆◇
ドルンの進行で、会議が始まった。
「北部の状況から報告してもらおう。」
アレスが立ち上がり、地図を広げる。
「北部の集落で、魔物の目撃情報が急増している。単独ではなく、統率されたような動きを見せる群れが複数確認された。」
「統率、ですか。」
レオンが思わず口を挟む。
「ああ。知性のある存在が指揮している可能性が高い、というのが俺たちの見立てだ。」
アレスの表情が、わずかに険しくなった。
「いくつかの集落では、すでに避難が始まっている。俺たちも三箇所ほど討伐に回ったが、正直、きりがない状況だ。」
会議室の空気が、一段と重くなった。
ドルンが腕を組み、低く唸る。
「王都近郊でも、同様の兆候が見え始めている。無関係とは思えんな。」
「俺たちも、審査の最中に危険度★5級の未確認種と遭遇しました。」
レオンが報告すると、アレスがこちらを見た。
「……お前たちも、か。」
「それと、もう一つ。北部の山岳地帯で、お前たちが見つけたものとよく似た紋章を確認している。」
「……星の紋章か。」
レオンは身を乗り出した。
「お前も知っているのか。」
「ああ。こっちでも、似たような遺構をいくつか見つけてる。」
二人の間に、初めて共通の話題が生まれた瞬間だった。
「星の紋章の遺構、北部にもあるのか……。」
レオンの目が、わずかに輝く。
図鑑にまだ見ぬ枠がある、という予感に、思わず心が躍った。
「……お前、今、ちょっと嬉しそうな顔してなかったか。」
アレスが怪訝そうに眉をひそめる。
「気のせいだろ。」
レオンはとぼけたが、隣でリリアが小さく吹き出していた。
◇◆◇
会議が終わったあと、アレスがレオンに声をかけてきた。
「少し、話せるか。」
「ああ。」
二人は会議室を出て、廊下の窓際に移動した。
「正直、お前がここまでやるとは思ってなかった。」
アレスは率直に言った。
「村にいた頃は、お前のこと、正直あまり気にしてなかった。悪いが。」
「別にいいよ。俺もそんなに意識してなかったし。」
「……そういうところ、変わらないんだな。」
アレスは苦笑した。
「勇者として色々な場所を見てきたが、最弱職と呼ばれる奴が古代遺構を発見して、国の歴史を揺るがしかねない情報まで持ち帰ってくるなんて、想像もしなかったよ。」
「俺も、自分がここまでやるとは思ってなかったけどな。」
「でも、北部での報告を聞いて、少し見方が変わった。お前の見つけた情報、こっちの調査にも役立ちそうだ。」
「協力できるなら、こっちもありがたい。」
レオンは素直に頷いた。
感傷的な再会というよりは、どちらかといえば、対等な情報交換相手としての距離感だった。
それでも、悪い気分ではなかった。
「村のこと、覚えてるか。」
アレスがふと尋ねた。
「ああ、まあ。」
「お前の妹、まだ小さかったよな。」
「エマか。今も元気だよ。」
「そうか。……機会があれば、一度顔を出したいな。」
束の間、二人の間に、村での記憶が静かに流れた。
天命の儀の日、互いに違う道を歩み始めたあの瞬間。
今こうして、また同じ場所に立っていることが、レオンには少し不思議に感じられた。
「また、機会があれば話そう。北部の遺構の件も、詳しい情報をまとめて共有する。」
アレスはそう言って、踵を返した。
「ああ、助かる。」
レオンはその背中を見送りながら、思っていたよりも悪くない再会だったな、と思った。
村にいた頃のような距離感には戻らないかもしれない。
それでも、互いに歩んできた道を認め合えるような、そんな関係にはなれそうだった。
同時に、北部の遺構のことが、頭から離れなくなっていた。
(第46話へ続く)
【あとがき】
第45話を読んでいただき、ありがとうございました!
ついに実現した、レオンとアレスの再会。感傷的になりすぎることもなく、どちらかといえば対等な情報交換相手として、新しい関係性が生まれ始めました。
そして、北部でも星の紋章の遺構が見つかっているという新情報。レオンの興味は、やはりそちらに強く引かれているようです。
次回、第46話もお楽しみに!




