第42話 認められる力
翌朝、王都近郊の演習場には、思っていたよりも多くの人が集まっていた。
ドルンを筆頭に、数名の審査官らしき職員、そして遠巻きに眺める見物の冒険者たち。
「随分と、見物人が多いんですね。」
リリアが小声で言う。
「ガチャ師の審査なんて、珍しいんだろうな。」
レオンは気にした様子もなく、周囲を見回した。
「では、始める。」
ドルンが前へ出た。
「審査は三段階だ。聖魔導士の魔法適性、ガチャ師の戦闘運用、そして召喚獣の連携。すべてを総合して判断する。」
「分かりました。」
リリアがまず前に進み出た。
◇◆◇
リリアの審査は、あっさりと終わった。
的確な詠唱、無駄のない魔力運用。
光魔法の的当て、風魔法での障害物突破、最後に見せた複数属性の連続詠唱。
審査官たちも、静かに頷きながら記録をつけている。
「見事なものだ。噂に違わぬ実力だな。」
ドルンの評価も上々だった。
リリアが戻ってくると、小さくウインクしてみせた。
「私の番は終わり。次、頑張ってね。」
「見といてくれ。」
「次だ。」
ドルンがレオンへ視線を向ける。
「用意した的を使って、戦闘運用を見せてもらう。」
演習場の奥に、木製の的と、魔法で作られた疑似的な魔物の人形が並んでいた。
レオンは一つ頷くと、ナイフを構えて前に出る。
片眼鏡を起動し、疑似魔物の「弱点」を素早く見極めていく。
地形を利用した動き、最小限の手数での攻略。
三体目の人形に対しては、あえて正面からではなく、近くにあった資材の陰を使って回り込み、死角から一撃で仕留めてみせた。
審査官たちの間に、小さなどよめきが起こった。
「……力任せではないな。」
「観察して、最短距離で仕留めている。」
「あの動き、ただの見た目倒れの職業とは思えないぞ。」
ドルンも、腕を組んだまま黙って見ていた。
その表情からは、まだ完全に納得しきれていない様子が窺える。
◇◆◇
だが、その静けさは、長くは続かなかった。
演習場の外周を囲む結界の一部が、突如として大きく揺らいだ。
「な……!?」
審査官の一人が声を上げる。
結界の亀裂から、灰色の巨大な影が飛び出してきた。
全身を覆う硬い甲殻、赤く光る複数の目。
演習場の観客たちがどよめき、悲鳴に近い声が上がる。
「な、なんだあれは……!」
「危険度★5級か……! どこから入り込んだ!」
ドルンが険しい表情で叫ぶ。
「結界の維持を! 周囲の避難を優先しろ!」
審査官たちが慌ただしく動き出す。
見物していた冒険者たちも、我先にと出口へ向かって駆け出していった。
「最近、王都近郊でも魔物の目撃が増えていた……まさか、ここにまで……!」
その言葉に、レオンは宿場町で聞いた噂を思い出す。
まとまった数で動く魔物たち。
この個体も、その流れと無関係ではないのかもしれない。
「審査官の方々は下がってください!」
レオンは即座に前へ出た。
「リリア!」
「うん!」
リリアが並んで駆け出す。
「わふ……ワウ!」
フェンも低い姿勢で構えた。
巨大な魔物が咆哮を上げ、鋭い爪を振り上げる。
レオンは片眼鏡を構えた。
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【解析】
未確認種
危険度★★★★★
弱点:後頭部の甲殻の継ぎ目
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「後頭部か……! 狙いにくいな!」
「私が注意を引く!」
リリアが前に出て、風魔法で魔物の視線を集める。
「ウィンドランス!」
風の槍が魔物の脇腹を捉え、巨体がわずかによろめいた。
「そのまま気を引いてくれ!」
「任せて!」
魔物の爪が、リリアの立っていた場所を大きく抉る。
辛うじてかわしたリリアが、間髪入れずに次の魔法を放った。
「フェン、隙を作れるか!」
「ワウ!」
フェンが大きく息を吸い込んだ。
次の瞬間、これまでにない、澄んだ遠吠えが演習場に響き渡った。
「オオオオオン……!」
その瞬間、レオンの視界が、一瞬だけ変わった。
魔物の輪郭が、うっすらと光を帯びて浮かび上がる。
弱点である後頭部の位置が、まるで印をつけられたかのように、はっきりと見えた。
「……これが、《導きの遠吠え》か!」
仲間の視界を、戦況を読みやすくする力。
まさに、この状況にうってつけの能力だった。
「今だ!」
リリアの魔法で怯んだ魔物の背後へ、レオンが一気に回り込む。
光る輪郭に導かれるように、ナイフの切っ先が正確に継ぎ目を捉えた。
「ッ……オオオオ……!」
魔物が甲高い悲鳴を上げ、その場に崩れ落ちる。
やがて動きを止め、静かに沈黙した。
◇◆◇
演習場に、束の間の静寂が訪れた。
「……お見事、としか言いようがないな。」
ドルンが、これまでとは違う声色で呟いた。
「疑似的な審査より、よほど分かりやすい実力の証明になった。」
「結果的に、ですけどね。」
レオンは息を整えながら答えた。
「本来なら大問題だ。結界の管理者には、後できっちり報告させる。だが……お前たちの動きを見た今、疑う気にはなれない。」
周囲の審査官たちも、先ほどまでの懐疑的な表情が嘘のように、感心した様子でレオンたちを見ていた。
「まさか、本物の危険度★5を、あそこまで手際よく仕留めるとはな。」
「召喚獣の連携も見事だった。」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
ドルンは、手にした記録簿に何かを書き込んでいく。
「等級はD級とする。地方でのE級からの昇格としては異例の速さだ。」
「ありがとうございます。」
レオンは静かに頭を下げた。
「それと。」
ドルンが付け加える。
「その召喚獣の能力、報告書には詳しく書いておく。今後の作戦運用でも、貴重な力になるだろう。」
「わふ……ワウ!」
フェンが誇らしげに一鳴きした。
演習場を後にする道すがら、リリアが笑いながら言った。
「フェンの能力、ちゃんと役に立つものだったね。」
「ああ。それに――。」
レオンは静かに続けた。
「あの魔物、どこから来たんだろうな。」
結界を破って現れた未確認種。
宿場町で聞いた噂と、無関係とは思えなかった。
まとまった数で動く魔物たちが、王都の目と鼻の先にまで迫っているのだとしたら。
のんびり構えている場合ではないのかもしれない。
「なんか、珍しく真剣な顔してるね。」
リリアが横から覗き込む。
「そう見えるか?」
「うん。いつもは図鑑のことしか考えてなさそうなのに。」
「失礼だな、たまには色々考えてるんだよ。」
レオンは苦笑いを浮かべながらも、頭の片隅では、あの咆哮と赤く光る目のことを、しっかりと覚えておこうと思っていた。
王都という場所でさえ、その足元には、まだ見えない不穏な影が忍び寄り始めている。
(第43話へ続く)
【あとがき】
第42話を読んでいただき、ありがとうございました!
王都での審査、まさかの実戦形式になってしまいましたが、無事にD級への昇格を勝ち取りました。そして、フェンの新スキル《導きの遠吠え》の正体もついに判明。仲間の視界を導く、戦況把握のための力でした。
一方で、演習場にまで魔物が現れたことは、決して偶然とは思えません。王都近郊にも、何かが迫りつつあるようです。
次回、第43話もお楽しみに!




