第41話 王都ギルドと最弱職
「あの、すみません。」
カウンターで声をかけると、慌てた様子の職員が奥へ引っ込んでから、しばらく時間が経っていた。
ロビーの喧騒を眺めながら待つ間、リリアが小さく呟く。
「なんだか、視線を感じるね。」
「まあ、フェンが目立つからな。」
通りすがりの冒険者たちが、成体になったフェンをちらちらと見ているのが分かった。
しばらく待っていると、奥の扉が開き、恰幅の良い中年の男が姿を現した。
仕立ての良い上着を纏い、首には冒険者ギルドの紋章をあしらった鎖を下げている。
ロビーにいた他の冒険者たちも、その姿を見て一斉に会釈をした。
どうやら、それなりの地位にある人物らしい。
「私が王都本部の統括を務める、ドルンだ。」
男は値踏みするような視線を、レオンとリリア、そしてフェンへと巡らせた。
「アルト支部からの報告は届いている。星の紋章の遺構を発見し、危険な守護システムを踏破したパーティ、ということだが……。」
ドルンの視線が、レオンで止まる。
「お前が、その《ガチャ師》か。」
「はい。」
レオンは静かに頷いた。
ドルンの眉が、わずかに動く。
「正直、信じがたい話だ。」
その声には、隠しきれない疑念が滲んでいた。
「ガチャ師といえば、歴代最弱と呼ばれる職業。王都でもそれは変わらない評価だ。そんな者が、危険度★5の守護システムを突破しただと?」
「事実です。」
リリアが横から静かに口を挟んだ。
「私も一緒に見てきました。」
「聖魔導士の君が保証するというのなら、多少は信憑性が増すが……。」
ドルンはなおも疑わしげな表情を崩さない。
「王都では、村や地方都市とは違う。実績も、それを裏付ける記録も、より厳密に扱われる。」
その言葉には、単なる意地悪さではない、王都という場所の重みが滲んでいた。
「そもそも、ガチャ師という職業がまともに評価されたことなど、私の知る限り一度もない。何百年もの間、な。」
ドルンは腕を組み、続けた。
「無能な職業、外れ職、そう呼ばれ続けてきた歴史がある。それをたった一つのパーティの報告だけで覆せというのは、些か虫が良すぎる話だとは思わないか。」
村では「変わり者の最弱職」で済んだ話も、国の中枢では簡単には通らない。
レオンは、その言葉の端々に、単なる偏見以上の何かを感じ取っていた。
まるで、意図的にそう思い込まされているかのような――そんな引っかかりだった。
もちろん、それを今この場で口にするつもりはない。
「疑うなら、それでも構いません。」
レオンは落ち着いた声で答えた。
「実際に見せれば、済む話ですから。」
その物言いに、ドルンが片眼鏡越しに目を細める。
「随分と、余裕だな。」
「余裕というか……。」
レオンは少し考えてから続けた。
「疑われるのには慣れてるので。」
その答えに、ドルンは意外そうに眉を上げた。
村での天命の儀、アルトでの登録試験、そして今回。
ガチャ師であることを理由に見くびられるのは、レオンにとってもう何度目か分からないほど、いつものことだった。
◇◆◇
ドルンはしばらく黙り込んだあと、口を開いた。
「いいだろう。王都には王都のやり方がある。」
彼は近くの職員に何かを指示すると、再びレオンたちへ向き直った。
「明日、王都近郊の演習場で審査を行う。冒険者としての実力、そしてその《ガチャ師》とやらの力を、この目で確かめさせてもらう。」
「審査、ですか。」
「王都で正式な等級を得るためには避けて通れない。地方の等級がそのまま通用するわけではないのでな。」
ドルンは淡々と続けた。
「審査官は私が務める。合格すれば、お前たちの実績に見合った等級を与えよう。不合格であれば……相応の等級からやり直してもらうことになる。」
その言葉には、容赦のない響きがあった。
ドルンはそこで、初めてフェンへと視線を向けた。
「その召喚獣も、審査の対象に含める。」
「わふ……いや、ワウ。」
フェンは自分の名前が出たことを察したのか、小さく鳴いて姿勢を正した。
「随分と落ち着いた個体だな。」
ドルンが珍しく感心したような声を漏らす。
「見た目通り、成体になったばかりです。」
「ほう。」
その一言に、ドルンの目つきが、わずかに変わった気がした。
値踏みするような視線の中に、ほんのわずかな興味が混じっているのを、レオンは見逃さなかった。
◇◆◇
ドルンが奥へ戻っていくと、ロビーにいた何人かの冒険者たちの視線が、レオンたちに集まっていることに気付いた。
「おい、聞いたか。あれが例のガチャ師だってよ。」
「星の紋章がどうとか、大袈裟な話だよなぁ。」
「どうせ運が良かっただけだろ。あの職業に実力なんてあるわけがない。」
声を潜めているつもりらしいが、しっかりと聞こえていた。
「……気にしないの?」
リリアが小声で尋ねる。
「別に。」
レオンは本当に気にしていない様子で答えた。
「明日、結果で示せばいいだけだからな。」
その態度に、リリアは少し呆れたような、それでいてどこか誇らしいような表情を浮かべた。
フェンだけが、聞こえてきた声の方をじっと見つめ、低く小さく喉を鳴らしていた。
「フェン、いいんだよ、それで。」
レオンがその頭を撫でると、フェンは渋々といった様子で視線を戻した。
◇◆◇
ギルドを出て宿へ向かう道すがら、リリアがぽつりと呟いた。
「王都って、色々厳しいんだね。」
「まあ、そうだろうな。」
レオンは特に気にした様子もなく答えた。
「実績と記録が重視される場所ってことは、逆に言えば、ちゃんと結果を残せば認められる、ってことだろ。」
「レオンって、こういう時本当にブレないよね。」
リリアが小さく笑う。
「アルトの時も、ガレスさんの試験の時も、そうだったし。」
「疑われるのは、慣れてるからな。」
レオンは肩をすくめた。
「それに、審査の内容次第では、未知の魔物とか出てくるかもしれないだろ。」
レオンの目が、わずかに輝いていた。
「……そこ?」
「そこだよ。」
新しい図鑑の枠が増えるかもしれない。
それだけで、明日の審査が少しだけ楽しみになっていた。
「フェンも、審査でその新しいスキル、使えたりするかな。」
「わふ?」
フェンが首をかしげる。
「《導きの遠吠え》だっけ。まだどんな効果か分からないんだよね。」
「使ってみないと、分からないままだしな。」
王都での最初の試練は、明日にやってくる。
その夜、宿の一室で、レオンはいつものように画面を開いた。
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無料10連
READY
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結果は、これといって目立つものはなかった。
それでも、明日への準備は着実に整っていく。
窓の外に見える王都の夜景を眺めながら、レオンは静かに目を閉じた。
明日、王都での最初の一歩が始まる。
(第42話へ続く)
【あとがき】
第41話を読んでいただき、ありがとうございました!
王都ギルド本部の統括ドルンとの対面。村やアルトとは違う、国レベルの厳しい視線が、改めてレオンたちに向けられました。
明日行われる審査で、王都での正式な等級が決まります。レオンはやっぱり、未知の魔物との遭遇の方が気になっている様子でしたが……。
次回、いよいよ王都での審査が始まります。お楽しみに!




