第40話 王都アルカディア
狼たちが一斉に地を蹴った。
「来るぞ!」
レオンの声と同時に、フェンが先頭の一体へ向かって駆け出す。
「わふっ!」
鋭い牙が、狼の首元へ迫る。
以前とは比べ物にならない速さだった。
狼が慌てて身を捩り、辛うじて牙をかわす。
「フェン、そのまま岩場へ誘導して!」
「わふ!」
フェンが狼を挑発するように距離を詰めては離れ、じりじりと岩場の方向へ引き寄せていく。
残りの狼たちも、つられるように後を追った。
「今よ! ウィンドウォール!」
リリアが唱えると、風の壁が街道を塞ぐように立ち上がる。
狼たちの進路が狭められ、岩場の隘路へと押し込まれていった。
「一体ずつ相手にできる!」
レオンはナイフを構え、狭い道の入口で待ち構える。
最初の一体が飛びかかってきた瞬間、横に跳んでかわし、すれ違いざまに首元へ刃を走らせる。
二体目が横合いから襲いかかるが、リリアの放った光の矢が寸前で軌道を逸らした。
「こっちは平気!」
「ああ、助かる!」
残る狼たちも、フェンとリリアの連携によって次々と数を減らしていった。
最後の一体が怯んだところへ、フェンが止めを刺す。
「わふっ!」
誇らしげな声が、街道に響いた。
「終わった、か。」
レオンは息を整えながら呟いた。
「うん。フェン、すごかったよ。」
リリアがフェンの頭を撫でる。
その時、レオンの前に見慣れた表示が浮かんだ。
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【灰色狼型魔物・討伐(5体)】
+8Pt
【今回の獲得】
+8Pt
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「地道に積み上がっていくな。」
レオンは呟きながら、周囲を見回した。
街道の先を確認すると、はぐれていた商人の仲間たちが無事に隠れているのが見つかった。
「良かった……!」
レオンたちが声をかけると、彼らは安堵の表情を浮かべた。
「本当に、ありがとうございました。」
商人たちを荷馬車のところまで案内し、一行はようやく落ち着きを取り戻した。
◇◆◇
それから数日、大きな問題もなく旅を続け、レオンたちはついに王都の城壁が見える丘に立った。
「……あれが、王都か。」
レオンは思わず足を止めた。
遠くに見える城壁は、ベルン村どころかアルトの街並みさえも小さく感じさせるほどの規模だった。
城壁の内側には、幾重にも重なる屋根と、中央にそびえる白亜の城。
「大きい……。」
リリアも言葉を失っている。
「わふ……。」
フェンでさえ、どこか気圧されたように鳴いた。
遠見の水晶を構えると、城壁の門をひっきりなしに行き交う人々の姿が見えた。
「行こう。」
レオンが一歩を踏み出したその時、フェンの体が突然、これまでにない強さの光に包まれた。
「な……ッ!?」
驚いて足を止めるレオンとリリアの前で、光はどんどん強さを増していく。
まるで、フェン自身の内側から溢れ出すかのような、眩い輝きだった。
「フェン!?」
リリアが叫ぶ。
光は数秒間、丘の上を包み込むように広がり――やがて、ゆっくりと収まっていった。
そこに立っていたのは、以前よりも一回り、いや二回りは大きくなったフェンの姿だった。
毛並みは深い銀灰色に変わり、瞳には知性を感じさせる鋭さが宿っている。
「フェン……?」
レオンが恐る恐る呼びかけると、フェンはゆっくりと頷くように首を動かした。
「ワウ。」
声色さえ、以前より落ち着いたものに変わっている。
体格も一回り以上大きくなり、以前は見上げるほどでもなかった目線が、今はレオンの腰の高さほどにまで来ていた。
レオンは慌てて図鑑を開いた。
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【フェン】
召喚獣・ウルフ系
成長段階:成体(予兆) → 成体
新スキル:《導きの遠吠え》を習得
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「成体に……。それに、新しいスキルまで。」
レオンは目を見張った。
「《導きの遠吠え》って、どんな効果なんだろう。」
リリアが覗き込む。
「詳細は、まだ図鑑に載ってない。使ってみないと分からないみたいだ。」
フェンは自分の変化に戸惑いながらも、前足を見つめたり、身体を大きく伸ばしたりしていた。
「わふ、じゃなくて……ワウ、か。鳴き方まで変わったんだな。」
レオンが頭を撫でようとすると、フェンは以前と変わらず、嬉しそうに頭を擦り付けてきた。
「性格は変わってないみたいで安心した。」
リリアが小さく笑う。
王都を目前にした、絶妙なタイミングでの成長だった。
◇◆◇
城門をくぐると、そこはこれまで見てきたどの街とも違う、圧倒的な活気に満ちていた。
石畳の大通りには、色とりどりの店が軒を連ね、様々な服装をした人々が行き交っている。
露店から漂う香辛料の匂い、遠くから聞こえる楽器の音、馬車の車輪が石畳を叩く音。
あらゆる音と匂いが、これまでの旅では感じたことのない密度で押し寄せてきた。
道の脇では旅芸人が芸を披露し、その周りに人だかりができている。
少し先の広場では、噴水を囲むように屋台が並び、香ばしい匂いが漂っていた。
「すごいね、本当に……。」
リリアが辺りを見回しながら呟く。
「ああ。」
レオンも同じように、街の様子に圧倒されていた。
道行く人々の中には、明らかに高価そうな装飾品を身につけた者もいれば、旅装束のままの冒険者らしき者もいる。
様々な立場の人間が入り混じる様子は、アルトよりもずっと雑多で、それでいて活気に満ちていた。
それでも、頭の片隅では別のことを考えている自分がいる。
(この規模の街なら、図鑑の枠もかなり埋まりそうだな。)
我ながら、こんな状況でもぶれない自分に、少し呆れてしまう。
「まずはギルド本部だったよね。」
「ああ。案内板を探そう。」
大通りを進んでいくと、ひときわ大きな建物が目に入った。
冒険者ギルドの紋章が掲げられたその建物は、アルトの支部とは比べ物にならないほどの規模だった。
「あそこだな。」
レオンは大きく成長したフェンと、リリアと共に、その扉へと足を進めた。
扉をくぐると、広々としたロビーには多くの冒険者たちが行き交っていた。
依頼掲示板の前には人だかりができ、受付カウンターも十を超える数が並んでいる。
アルトのギルドとは、規模も雰囲気もまるで違っていた。
「あの、すみません。」
レオンが近くの受付に声をかけると、若い職員が顔を上げた。
その視線が、レオンの隣に立つフェンへと向く。
「……その召喚獣、随分と立派ですね。」
少し驚いたような声だった。
「アルト支部から来た者です。事前に話が届いているかと。」
レオンがそう告げると、職員の表情が変わった。
「もしかして……星の紋章の遺構を発見された、あの……?」
「はい。」
「少々お待ちください、責任者を呼んで参ります!」
職員は慌てた様子で奥へと駆けていった。
「……もう、話が伝わってるみたいだね。」
リリアが苦笑する。
「思ったより早いな。」
レオンは少し身構えながら、王都での物語が、今、始まろうとしているのを感じていた。
(第41話へ続く)
【あとがき】
第40話を読んでいただき、ありがとうございました!
道中の狼型魔物との戦闘を乗り越え、ついに王都アルカディアへ到着。そして王都を目前にして、フェンがついに完全な成体へと進化しました。新スキル《導きの遠吠え》がどんなものかは、まだレオンにも分かっていない様子です。
圧倒的な規模の王都を前にしても、結局は図鑑のことを考えてしまうレオンらしさも健在です。
次回、いよいよ王都のギルド本部に足を踏み入れます。お楽しみに!




