第39話 王都までの道
ベルン村を出て三日目。
街道は少しずつ様相を変えていた。
アルト周辺のなだらかな丘陵地帯とは違い、周囲には背の高い針葉樹が立ち並び、空気もひんやりと澄んでいる。
「王都に近づくと、気候まで変わるんだな。」
レオンは物珍しそうに周囲を見回した。
「地図で見ると、結構な距離を北上してるからね。」
リリアが懐から地図を取り出す。
簡易地図には、これまで歩いてきた道のりが薄く記録されていた。
「わふっ!」
フェンが先を歩きながら、時折立ち止まっては周囲の匂いを確かめている。
成体への予兆を見せてから、その仕草にも少しずつ落ち着きが出てきたように感じられた。
道中、すれ違う旅人や商人の数も、アルト周辺よりずっと多い。
「王都に近いから、人通りも増えてるのかな。」
「それもあるだろうけど……。」
レオンは何気なく口にしかけて、言葉を止めた。
すれ違った商人の荷馬車が、やけに武装した護衛を連れていたのが気になっていた。
以前なら、これほど厳重な護衛は見なかった気がする。
◇◆◇
その日の夕方、二人と一匹は街道沿いの宿場町に到着した。
小さな村よりは大きく、王都よりはずっと小さい、旅人相手の商売で成り立っている町だった。
宿の食堂で夕食をとっていると、隣の席の商人らしき男たちの会話が耳に入ってくる。
「最近、この辺りも物騒になってきたよなぁ。」
「ああ。北の方じゃ、集落が丸ごと避難したって話も聞くぜ。」
「魔物が増えてるのか?」
「増えてるなんてもんじゃないらしい。まとまった数で動いてる、なんて噂もある。」
「まとまった数、ねぇ。魔物ってのは基本ばらばらに動くもんだろう。」
「だから気味悪いんだよ。誰かが率いてるみたいだ、って言う奴もいる。」
男たちはそこで一度、声を潜めた。
「……まさか、な。」
「ああ、まさかだ。そんなもん、おとぎ話の中だけだろ。」
二人は苦笑いを浮かべて、その話題を切り上げた。
レオンは思わず耳をそばだてた。
リリアも同じように、会話の方へ視線を向けている。
「まとまった数……。」
レオンは小声で呟いた。
アルト周辺の異変とは、また違う規模の話に聞こえる。
「もしかして、あれと関係あるのかな。」
リリアが小声で尋ねる。
「星の紋章の方か?」
「ううん。もっと別の……何か大きいものの気配、みたいな。」
レオンは片眼鏡にそっと触れた。
まだ確証はない。
だが、村や地方都市レベルでは収まらない、何か大きな流れが動き始めている予感があった。
夕食を終えて部屋に戻る間も、その言葉が頭の片隅に残り続けていた。
◇◆◇
食事を終え、部屋に戻ると、レオンはいつものように画面を開いた。
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無料10連
READY
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白い空間に、黒い本が浮かぶ。
夜空に十本の光の柱が立ち上る。
白、白、青、白、白、白、青、白、金、白。
「今日は金か……!」
思わず声が漏れる。
光が収まり、カードが姿を現していく。
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【NEW】
《旅の指南書》(R)
各地の地理・気候・簡単な文化を記した書物。
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【NEW】
《防寒のマント》(R)
寒冷地でも体温を保つ効果を持つ。
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【NEW】
《遠見の水晶》(SR)
遠方の景色を鮮明に映し出す水晶。
使用者の魔力量に応じて、より遠くまで見渡せる。
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「SRだ……!」
レオンは目を輝かせた。
「何が出たの?」
隣の部屋から顔を出したリリアが覗き込む。
「遠見の水晶。遠くを見られる道具らしい。」
「便利そうだね。」
「ああ。これがあれば、遠くの様子も探れる。」
レオンは早速、水晶を懐にしまった。
試しに窓の外へ向けて水晶を構えてみると、遠くの山並みまでくっきりと映し出される。
「おお……。」
思わず声が漏れた。
「魔力を込めるほど、もっと遠くまで見えそうだ。」
「王都までの道中、色々役に立ちそうだね。」
「ああ。何より、これで先の様子を確認してから動ける。」
レオンは水晶をしまいながら、頭の中で図鑑の項目を思い浮かべた。
今日の一日だけでも、SRが一つ、Rが二つ。
図鑑がまた少しずつ埋まっていく感覚は、何度体験しても心地よかった。
王都までの道中、何か役に立つ場面がありそうだと直感していた。
◇◆◇
翌朝、宿場町を出発してしばらく歩くと、街道の先に人だかりができていた。
荷馬車が数台止まり、御者たちが困惑した様子で何かを話している。
「どうしたんだろう。」
リリアが眉をひそめる。
近づいてみると、荷馬車の一台が道の脇に倒れ込むように停まっていた。
周囲には、爪で引き裂かれたような傷跡が残っている。
積み荷の木箱がいくつか転がり、中身が街道に散らばっていた。
「何かに襲われたみたいだな。」
レオンは片眼鏡を構えた。
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【解析】
大型の獣型魔物による襲撃痕
危険度★★★
複数個体の可能性あり
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「複数……。」
リリアが緊張した面持ちで杖を握る。
御者の一人が、レオンたちに気付いて駆け寄ってきた。
「冒険者の方ですか! 助かった、実は……。」
話を聞くと、街道の少し先で、狼に似た魔物の群れに襲われたのだという。
幸い、荷馬車の主人たちに怪我はなかったが、積み荷の一部が壊され、先へ進むこともできずに困っていたらしい。
「先へ進んだ仲間が、まだ戻ってきていないんです。様子を見に行ってもらえないでしょうか。」
御者の声には、隠しきれない不安が滲んでいた。
「分かりました。皆さんはここで待っていてください。」
「本当にありがとうございます……!」
「俺たちが見てきます。」
レオンはそう言うと、リリアとフェンを連れて街道の先へと進んだ。
遠見の水晶を取り出し、先の様子を確認する。
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【解析】
灰色狼型魔物 群れ 推定五体
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「五体か。」
「前に見た、あの灰色の狼と同じ種類かな。」
リリアが以前遭遇した未確認種のことを思い出しながら言った。
「たぶんな。あの時は深追いしなかったが……。」
レオンは水晶をしまい、周囲の地形を確認する。
街道の脇には、切り立った岩場と、狭い獣道が続いていた。
「あそこに誘い込めば、数の利を消せる。」
「フェン、力を貸してくれる?」
「わふっ!」
フェンが自信ありげに前へ出た。
成長した今なら、以前よりずっと頼りになる。
三人は互いに頷き合い、街道の先へと歩を進めた。
しばらく歩くと、木々の合間から低い唸り声が聞こえてきた。
「来た。」
レオンは静かに身構えた。
灌木の陰から、灰色の毛並みをした狼型の魔物が、次々と姿を現す。
一体、二体、三体……数えるうちに、五体すべてが揃った。
その目は、獲物を見定めるように三人へ向けられている。
「予定通り、あそこまで引きつけるぞ。」
「うん。」
リリアが小さく頷き、杖を構え直した。
フェンが低く姿勢を落とし、いつでも動けるように意識を集中させる。
狼たちが一斉に地を蹴った。
(第40話へ続く)
【あとがき】
第39話を読んでいただき、ありがとうございました!
王都への道中、宿場町で耳にした「魔物がまとまった数で動いている」という不穏な噂。そして無料10連ではSR《遠見の水晶》を獲得しました。
さらに、街道で襲撃を受けた荷馬車と遭遇。灰色狼型の魔物の群れとの戦いが、次回始まります。
次回、第40話もお楽しみに!




